黒川芳正詩集 言霊          原詩人叢書

表紙

目 次

ことだま …………………………………………………………………………………… 6
ことば ……………………………………………………………………………………… 8
くちづけ ……………………………………………………………………………………10
火文字 ………………………………………………………………………………………12
口説き草 ……………………………………………………………………………………14
カナリア ……………………………………………………………………………………17
流れ星 ………………………………………………………………………………………20
もみじ ………………………………………………………………………………………21
革命風使 ……………………………………………………………………………………22
海と少年 ……………………………………………………………………………………24
旅人 …………………………………………………………………………………………26
こだま ………………………………………………………………………………………30
傷だらけの季節 ……………………………………………………………………………31
ケモノ・ゲリラ ……………………………………………………………………………34
赤人詩篇 赤い手 …………………………………………………………………………38
赤人詩篇 バイソン怨歌 …………………………………………………………………40
反USA・赤人革命の勝利へ向けての祈り ……………………………………………45
隼人の呪い …………………………………………………………………………………56
アイヌモシリよ!甦れ ……………………………………………………………………60
帰ってきたジャッカル ……………………………………………………………………67
散文童話詩 詩人の死 ……………………………………………………………………85
「弱者」………………………………………………………………………………………90
ドブネズミ …………………………………………………………………………………91
子モグラ モグラ …………………………………………………………………………92
撃つ …………………………………………………………………………………………94
こぶし ………………………………………………………………………………………96
かっくらえ …………………………………………………………………………………98
奄美のハブ …………………………………………………………………………………100
囚人夢想曲 …………………………………………………………………………………101
囚人夢想曲 …………………………………………………………………………………103
自白 …………………………………………………………………………………………106
呼吸 T ……………………………………………………………………………………108
呼吸 U ……………………………………………………………………………………llO
呼吸 V ……………………………………………………………………………………112
獄中で磨かれた武器         井之川巨               114
あとがき──言霊の復権に向けて   黒川芳正               116

 −5−

 ことだま

  ことだま
詩は言霊
うつつ
現に夢を呼び寄せる

詩は恋心

愛を託した言葉の抱擁

詩は血潮
な 萎えた心臓よみがえる

詩は祈り

自然の恵みへの感謝の祈り

詩は怒り

暴虐の鉄鎖を打ち砕く

詩は呪い

憎っくき敵を呪い殺す
  ほのお
詩は火焔
けが
穢れた世界を焼きつくす

詩は戦闘

腐った魂を撃ち威ぼす
  のろし
詩は狼煙

血煙立てた突撃歌


 −7−

 ことば

胸がつまりそうで死にそうなのに

言い出せないから

小指と小指をからませて

言えばなにかが

壊れてしまいそうだから

目線と目線をからませて
     みみたぶ
紅く染った耳朶に

ふっ と息を吹きかけて

音にならない言葉でなにかを伝える

その言葉を舌にからませ

唇かさねて口うつす

その言葉を語ってしまえば

世界が滅んでしまいそうだから

その言葉が外気にふれればたちまち

死んでしまいそうだから

 −9−

 くちづけ

君のおしゃべりにはまいってしまう

話し出したら切りがないから

一度しゃべり出したら

坂をころがる玉のように止まらないから
   たま
まるで弾丸のつきない機関銃なんだね

まるで枯れることの知らない泉なんだね

だから僕はあきらめてるのさ

いさぎよく認めてしまっているのさ

言葉じゃ君に勝てないってことを

だから僕は口をつぐんで聞きほれる

はおづえついて

頭のなかをからにして

その一瞬を狙うのさ

しくじったことのない狩人のように

君の唇 奪う その一瞬を

 −11−

 火文字

夢に燃えたち

闇夜に目覚める

ああ あれは夢だったのかと

胸に手をやり

その人影をむなしく求める

闇夜に一言

呟く私の

その言葉は鬼火となって

さあ 飛んでいけ

あの人影を追って

火文字となって

闇夜に輝く炎となって

と念じつつ

私は胸に手をやって

記憶の淡いぬくもりに

うつつ身むなしく燃えたたす

 −13−

 口説き草

人里離れた山中に

人知れず咲きつのるという口説き革

その花はすみれ色にほんのりと
      らんらん
その実は赤く爛爛と

昔の人はその草を

口説き草と名づけたという

その赤い実を食べると

男はどんな女も口説き落せ

女はどんな男も魅きつけられる

という

でもその赤い実には

毒のある実と

毒のない実がある

という

その区別はつかない

という

数知れぬ男と女が

山中深く分け入って

数知れぬ男と女が

口説き草の実を食べ

半数の男と女は望みを達し

半数の男と女は悶え苦しみ死んだ

という

男と女を結びつける口説き草

男と女を喰い殺す口説き草

いまも人里離れた山中に

人知れず咲きつのるという

口説き草の実を求め

数知れぬ男と女が

山中深く踏み入る

という

 −16−

 カナリア

少女はもはや歌わない

あれほど歌好きだった少女は

かつてはカナリアのように
          さえず
美しく聞かせてくれた囀りを

心なごます歌声を

もはや聞かせてはくれない


あれは雨の降る日だった

疾走する車に跳ねとばされ

路面に激しく打ちつけられた少女は

言葉を見失ってしまった


でも少女の表情に悲しみの色はない

少女の瞳に憂いはない

言葉を見失ってしまった少女の

瞳は前よりも生き生きと輝いている

あたかもその瞳のなかで

うただま

歌霊が踊っているかのように


少女は瞳で歌っていた

それはまるでカナリアのように

心で織られた囀りを

心なごます歌声を


少女は瞳で語りかけていた

音のない言葉の世界のことを

歌い疲れて声が出なくなってしまった

遠い昔の歌姫のことを


言葉のいらない愛の心伝えのことを

言葉を知らない原古世界の

人々との心の深い交わりのことを

草木虫魚との

楽しい楽しいおしゃべりのことを

 −19−

 流れ星

名も知らぬ鳥が

眼の前に現れて消えた

ただ一言

不可解な星の名を告げて

私のからだはその言葉の毒に打たれて

一瞬 心臓はぴたりと止まった

私の体内をよぎる流れ星

言葉が言葉を生んで言葉を殺した

果てしなく巨大な疑問符を残して

 −20−

 もみじ

私は何度書いて何度焼き捨てただろう
      ひし
死んだ言葉が犇めきあっていても

生きた言葉は見つからない
  もみじ
私は紅葉散る秋の山峡に

心重く足を向けた

かつてその言葉をその下に埋めた
かえで
楓の木の根もとに

その言葉はもう熟しただろうか

甘いワインのように

あるいは

にがいビールのように

 −21−

 革命風使

南蛮!と

帝国帝都の人民が
あなど
侮り軽んず

辺境の地から吹く風が

帝国帝都の人民に

革命への愛を告げた

帝国を撃ち滅ぼす

蜂起を告げ知らせる合言葉は

花言葉

花言葉は花の名

花の名は黒ユリ
   とき
蜂起の秋

この合言葉を知らぬ

帝国帝都の人民は

革命の敵として殺されよう

南方辺境の風使は

そう告げて立ち去った

 −23−

 海と少年

少年は砂浜を疾駆した

頬を流れる涙をふり払うかのように

少年は白い砂浜を駆け抜けた

真夏の太陽の強烈な光線で

褐色のしなやかな裸体を

焼きつくそうとするかのように

少年は長い浜辺を走った

母の名を呼び

海に生まれ

海に生き

海を愛し

海に遊び

海に死んだ

母の匂いを求めて

少年は海に向かって疾駆した

鉄片が磁石に吸い寄せられるように
        うなばら
少年は果てしない海原に向かって駆け抜けた
しおさい  いざな
潮騒に母の誘う声を聞いたかのように

少年は母の胸のような海に向かって走った
  さち
海に幸ありと

母のその言葉に憑かれたかのように

 −25−

 旅人

住みなれた故郷をあとに

君はどこへと旅に出る

愛する妻子を残して

君はなにを求めて旅に出る

出会いなき人生の不毛に

君はいたたまれなくなったのだろうか

閉ざされた愛の世界にはない
まこと
真実の愛を求めようというのだろうか

だが一人旅は危険に満ちている

未知なる世界への一人旅は

無数の危険に満ちている

それでも君は旅ゆくのだろうか


若き旅人よ

君はかつて故郷の炉辺で

詩箋に詩句を書きつけては

炉中にくべて燃やした

死句!と

君は悲しく一言つぶやいて

煙に化した詩句に咳こんだ

言葉のいのちよ!と

煙と化した詩句が目にしみ

君は涙ながらにつぶやいた

そして君は思いたったのだ

かつて村の古老にきいた

深山幽谷のシャーマン求めて

言葉にいのちの炎を燃やす

姿なきシャーマン求めて

君は旅ゆくのだろうか

若き旅人よ

霧のなかの未知の世界へと

君は踏みゆこうとするのだろうか

かつてはいたと伝えられる

シャーマンの世界へ

生きとし生ける諸霊と交わり
かみよ  ひとよ
神世と人世に生きるという

呪符と呪言と呪力の世界に

君は分け入ろうとしているのだろうか

その身を滅ぼすとも

そのいのちを奪われようとも

二度と故郷に帰れずとも


かつて

山森に生まれ

山森に育ち

山森を愛し

山森に遊び

山森に死した

太古の詩人たちは

もはや甦らないのか
          かも
木の実から詩の香りを醸しだし

言葉で木の香りをかきたて

山森に住む精霊と恋した

太古の詩人たちは

もはや甦らないのか

 −29−

 こだま

聞こえる
     すす
木々たちの啜り泣きが

聞こえる

木々たちの悲しみが

聞こえる
     うめ
木々たちの呻きが

聞こえる

木々たちの苦しみが

聞こえる

木々たちの叫びが

聞こえる

木々たちの怒りが
こだま
木霊が

 −30−

 傷だらけの季節

傷だらけの季節よ
    うめ
おまえの呻き声はあまりにも哀しい

愛する人を失った悲しみよりも哀しい

生きる望みを失い果てた
   ぬけがら
実存の脱殻よりも哀しい



傷だらけの季節よ

もはやおまえの力では

海の清らかさを失った魚たちが

陸に打ち上げられ滅びゆく

その運命を喰いとめることはできないのか



傷だらけの季節よ

もはやおまえの力では

大空のさわやかさを失った鳥たちが

地上に叩き落とされ滅びゆく

その運命を喰いとめることはできないのか



傷だらけの季節よ

もはやおまえの力では
   うるお
地中の潤いを失った虫たちが

地表にあぶり出され滅びゆく

その運命を喰いとめることはできないのか



傷だらけの季節よ

もはやおまえの力では

飢えかつえのたうちまわる

荒れ果てたぼくらの魂に

心安まる歌を聞かせてはくれないのか



闇なのか

一寸先も闇なのか

歌はきこえてこないのか

闇をその力で切り拓く

大地の讃歌はきこえてはこないのか

 −33−

 ケモノ・ゲリラ

さあいつでもやってこい

ヤンキー仕込みの猟犬どもよ

おれらジャングルのケモノ・ゲリラよ

野性の血潮を失って

文明などに寝返った

おまえら如き猟犬に

発見されてたまるかい

捕まってたまるかい

おれらジャングルのケモノ・ゲリラよ

おまえら腐り鼻の猟犬どもに

正体あかしてたまるかい

おれらジャングルのケモノ・ゲリラよ
へんげ
変化自在神出鬼没の

姿なき神なるケモノ・ゲリラよ

ある時は空飛ぶ小鳥

ある時は木の上の猿

ある時はとぐろ巻く蛇

ある時は水中のピラニア

ある時は疾駆するピューマ

ある時は水辺のワニ

まだまだたくさんござんすよ

ジャングルはおれらの生命
            かご
ジャングルはおれらの揺り籃
          しとね
ジャングルはおれらの褥

ジャングルはおれらの内庭

ジャングルはおれらの戦場

ジャングルはおれらの武器

巨木に被われたジャングルはおれらを生かし

精霊宿るジャングルはおれらを守る

さあいつでもやってこい

ヤンキー仕込みの猟犬どもよ

相手になってやるぜ

腐り鼻の猟犬どもよ

野性の霊力を打ち捨てて

文明に身売した裏切り者よ

おまえらなんぞに負けてたまるか

何千匹何万匹動員したって

おまえらいったんこのジャングルに入れば

生きては帰れないんだぜ

おれらの術にいったんかかれば

孤立して包囲されてゼーンメツよ

それでもいいならやってこい

ジャングル墓場にする覚悟でやってこい

キンタマくくってやってこい

昼寝して待ってるぜ

ヤンキー仕込みの猟犬どもよ

おれら必勝不敗のケモノ・ゲリラよ

 −37−

 赤人詩篇 赤い手


       (1)
雨露をしのぐティピーを

父母のためにつくった赤い手は

今 鎖につながれている



バイノンに矢を放ち

その内を仲間とわかち合った赤い手は

今 鎖につながれている


         おのの
未知の世界の不安に戦く愛する乙女の

堅い乳房をしなゃかにもみほぐした赤い手は

今 鎖につながれている



われらが大地を犯し来る白人どもの

頭皮を何枚も剥ぎとった赤い手は

今 鎖につながれている



恐れ山の精霊よ

われにこの鎖断ち切る

偉大なる神力を与えたまえ



恐れ谷の祖霊よ

いまわしいこの鎖断ち切る

呪力をわれに与えたまえ



われらが祖先の大地に戦い
     ふしど
精霊たちの臥所を守り

白人どもを海の彼方に追い払うため



注(1) テント小屋

 −39−

赤人詩篇 バイソン怨歌

哀しみの大地にパイソンの血は流れた

バイソンの聖なる血は大地を赤く染めた
ワシチユー
白人どもはバイソンを射ち殺した

何万頭というパインンを虐殺した

その内を主食にして

自然とともに生きるためにではなく

金もうけのために

ただ皮を剥ぎ売りとばすために

ときには皮さえもとらず

ただ舌だけを切りとるために

ときには舌さえもとらず

ただ楽しみのために殺し

ただ殺すために殺し

最後の一頭まで殺しつくした

あとには骨の山が

荒野を白く敷きつめた

かつてバイソンが群なして疾駆し
    レッド・マン
バイソンと赤人が共生していた原野に

今はパイソンの姿なく

白骨がうず高く山積みにされ
あま
雨ざらしにうち捨てられている

文明の侵略と暴虐によって

追いつめられ絶滅された

数え切れない生き物と同じく

バイソンもまた絶滅に追いこまれた

洪積紀の初期にこの地上に出現し

赤人の原始共同体と共生しつつ

ともに栄えきたったバイソンは

もはや地上に甦らないのか

かつてバイソンは赤人の生活を支えていた

その皮はティピーやモカシンとなり

衣服にもなった

肉は食料となり

乾し肉は保存食となり

肝臓もまたビタミン豊富なごちそうとなった
    くわ
肩胛骨は鍬やシャベルとなり
   やじり
肋骨は鏃となり

背骨は子供のオモチャとなった
ひずめ     にかわ
蹄はとかされて膠となり

角はスプーンの材料となった

胃は水がめや水筒となり
  あぶ
腸は焙られてソーセージになった

脳みそは皮なめしに使われ

胆石は粉にひかれて塗料となり

尻尾はムチやハエ叩きになった

糞さえ燃料となり

その灰は肥料となった

バイソン狩りは

赤人の原始共同体をつくり上げ

赤人の共産主義的団結を強化した

だがもはやバイソンはいない

赤人の原始共同体と共生しつつ

ともに栄えきたったバイソンは

もはや地上にはいない
         さじん
荒野にはただ空しい砂塵が吹くばかり

いま荒野には白人への呪いが満ちている

それは白人に奪われた大地全体へと広がる

それはバイソンの呪いだ

それは赤人の呪いだ

それは来たるべき甦りへの祈りだ

新たな大地の甦りへの意志だ

白人文明帝国を撃ち威ぼし

バイソンと赤人が共生する

原始共同体を甦らす

戦闘への聖なる啓示だ
         (1)
ヘチェトゥ・アロー!
    (2)
ホカ・ヘイ!

ホカ・ヘイ!



註(1) 「まことに然り」という意味

註(2) 突撃の合図

 −44−

 反USA・赤人革命の勝利へ向けての祈り
 ── 七・一九フィエスタ・デ・ニカラグアへのメッセージ




    1

友よ

コロンブスが口火を切った
レッド・マン
赤人世界への侵略の開始を

西欧帝国主義者の視点に立って
                しる
世界史の一ページに輝かしい道標を印した

「地理上の大発見」だなどと

あなたは学校で習わなかっただろうか

友よ

赤人世界を東洋・インドと取りちがえ

赤人原住民を「インディオ」「インディアン」と呼びすてた

侵略者コロンブスたちの誤りを

あなたはそっくりそのまま受け入れてこなかっただろうか

友よ

白人植民者とその子孫のカウボーイたちが

「インディアン」をめったやたらに射ち殺し

USA帝国の侵略・建国を美化した

西部劇と称する活劇に

あなたは拍手喝采してこなかっただろうか

友よ

コロンブスらにはじまる

メヒコを征服したコルテスら

インカを征服したピサロらの物語を

あなたは心の底からの怒りをもって

受けとめてきたと言えるだろうか

友よ
        さげす
「未開・野蛮」と蔑む周辺世界をのみつくし

原住民を虐殺・掃滅していった

「資本の文明化作用」

「資本主義の勝利」なるものを

「歴史の必然」

「社会主義の前提条件」として肯定する

マルクス・エンゲルスの『共産党宣言』なるものを

あなたは疑ってかかったことがあるだろうか



    2

友よ

あまたの白人侵略者を迎え撃ち

あまたの白人侵略者を撃退した

一つの共同体として一丸となって戦い抜いた

赤人原住民の叙事詩が

スペイン植民帝国の屋台骨をゆるがした

ツパック・アマルーらケチュア族の戦いの歌が

ニカラグアのモスキート族の戦いの歌が

チリ・アルゼンチンのマプーチェ族の戦いの歌が

ウルグアイのチャールア族の戦いの歌が

USA帝反革命軍をしばしば撃破した

オセオーラらセミノール族の戦いの歌が

クレイジー・ホースらスー・シャイアン族の戦いの歌が

あなたの心にはきこえてはこないだろうか

黄金にとりつかれて人たるの心を失い

「未開・野蛮」と蔑視する原住民を

虐殺。征服・支配・教化することこそ

文明人が神からさずけられた
     さだめ
「明白なる運命」であると称する

西欧帝国の白人とその子孫の武力にょって

大地を奪われ

共同体を破壊され

種族そのものをも

丸ごと根こそぎ抹殺された

赤人大陸原住民の呪いと怨みの声が

あなたの心にはきこえてはこないだろうか



     3

マルクス・エンゲルス・レーニン・トロッキーらは考えていた

世界革命は西欧でこそはじまって

西欧でこそ勝利すると

だがこの西欧中心主義に毒されたドグマは

もののみどとに破産した

真実は彼らを裏切った

世界革命の源動力

世界革命の主力は

西欧プロレタリアートではなく

世界帝国主義の周辺部に位置づけられた

被植民地人民・原住民共同体なのだ



    4

友よ
              げき
「第二第三のベトナムを!」と檄をとばして

赤人原住民との結合めざし

大陸革命の策源地を築くため

ボリビア山中に潜入して

ゲリラ戦を開始し

一九六七年一〇月八日

志なかばにして戦死したゲバラの遺志を

あなたは受けとめようとはしないか



    5

友よ

一九七九年七月一九日に勝利を印した

ニカラグア革命の渦中に登場した

モニンポのナウア族をはじめとした

原住民・赤人共同体の武装闘争のことを

あなたは知っているだろうか

それはメスティーソ主体の革命闘争の限界をこえる

原住民・赤人共同体よみがえりへの
・・・
崩芽だ

それは人類の本源的共同体よみがえりへの
・・・
序曲だ

それは原住民・赤人共同体を主体とした

反USA・赤人革命への
・・・
合図だ



    6

友よ

世界帝国主義の最深部からわきあがる

よみがえる大地の讃歌が

人類の本源的共同体がよみがえる

世界革命の叙事詩が
      いのち
赤人共同体の命よみがえる
   フィエスタ
原住民の祭の歌声が

そして世界帝国主義の打倒へ向けた

戦闘へのメッセージが

あなたの心にはひびいてこないだろうか



    7

友よ

いまあなた自身の生きざま戦いざまが

ためされ問われフルイにかけられているのだ

ブラジル・アマゾンをはじめとした

赤人共同体の破壊に加担し

搾取・収奪をほしいままにしている

日帝企業群の侵略を許容している

日帝本国人たるぼくらの

そしてあなたの

在りようそのものが問われているのだ



    8

友よ

この日帝本国においてもすでに

戦いは始まっている

心貧しい文明人たるぼくらが

心豊かな自然人へと生まれかわる

反USA・赤人革命の勝利を祈る

根源的連帯・合流への戦いは

すでに開始されているのだ

一九七五年七月二三日

同志木田明夫は

チリ・ファシスト政権の練習艦

エスメラルダ号を攻撃し

ピノチェットと戦う赤人原住民マプーチェ族への

連帯の合図を送った

一九七七年六月三〇目

地下の同志たち

世界革命反日戦線・タスマニア一八七六は

アマゾン侵略を担っている

三井アルミ社長宅への

爆破攻撃を貫徹し

イギリス人に滅ぼされた

タスマニア島原住民の魂を復権し

アマゾン赤人原住民の戦いへの

連帯の合図を送った

一九七九年三月一九日

地下の同志たち

反日武装戦線は

エルサルバドルのFARNによって担われた

日本人重役捕捉作戦に呼応し

東レ海外事業担当重役宅への

爆破攻撃を貫徹し

エルサルバドル人民・赤人原住民の戦いへの

連帯の合図を送った



    9

友よ

されば心おきなく祝おう

ニカラグア人民戦争勝利一周年を

友よ

しからば憎悪に燃えて呪い殺そう

訪日する反革命頭目ピノチェットを

友よ

しかして愛をこめて祈ろう

反USA・赤人革命の勝利に向けて

 −55−

 隼人の呪い

やまと   
大和の都の夜はふけて
   はやと
今夜も隼人の遠吠えが

夜の都に響き渡る

宮仕えする隼人の遠吠えには
    うれ
だが深い愁いが立ちこめている

愁いに満ちた遠吠えに

夜の魔物はおじけない

愁いに満ちた遠吠えに
     はら
魔物を追い祓う呪力はない

愁いに満ちた遠吠えは

空ろな死んだ遠吠えだ

宮仕えする隼人よ

おまえにはもはや

かつては荒ぶる神々をも畏怖せしめた

あのいきいきとした呪力はない

おまえは隼人族の血を裏切って

命乞いのために大和に仕える
      にせ
裏切りものの偽隼人

宮仕えする隼人よ

なぜおまえは

同族を売ってまで

生きのびょうとするのか
        けが
偽隼人のおまえの穢れた血を

子子孫孫につたえることに

いかなる意味があるというのだ

たとえおまえの遠吠えに

魔物を退治する呪力がなかろうと

おまえの遠吠えを聞くだけで

大和の貴族は安らかに眠るだろう

異族征服への活力を養うだろう

宮仕えする隼人よ

おまえはあの荒野に疾駆する

神々しくも誇り高い

隼人族の誇りを

忘れてしまったのだろうか

おまえはあの戦場に大和族を撃破する

神々しくも勇壮な

隼人族の覇気を

忘れてしまったのだろうか

おまえはあの山河に狩猟する

神々しくもおおらかな

隼人族の自由を

忘れてしまったのだろうか

隼人族の神聖なる血の

一滴も残っていないのだろうか

悲しいではないか

大和族にへいつくばって生きる
   ぬけがら
隼人の脱穀を見るのは

くやしいではないか

脱穀の隼人よ

隼人族の神聖なる血の一滴をもって

生きかえれ

宮仕えするオノレの醜さを鏡に映し

オノレ自身の手でもって

オノレの醜い姿を打ち砕け

その時おまえの呪力はよみがえる

そして呪い殺せ

大和族のスメラミコトを

呪って呪って呪い殺せ

われらが隼人族を撃ち滅ぼした

スメラミコトをぶち殺せ

 −59−

 アイヌモシリよ!甦れ



右は自民党のフアシストから

左は腐れ左翼の中国派まで

北方領土返還の

大合唱をやっている

北方領土だと

ふざけるな

日本固有の領土だと

冗談じゃないぞ

民族的悲願だと

とぼけるな

日本国民の中には反対するもののない

国民的課題だと

お笑いだ

歴史の偽造はよしてくれ

手前勝手なこじつけは

やめてくれ

「千島」「北海道」の全域は

アイヌ固有の生活圏

アイヌモシリだ

これが歴史的事実であり

これが歴史的真実だ

右から左までの

強欲なシャモどもよ

恥を知れ

そして深く悔い改めよ

オノレらの恥ずべき侵略の事実をこそ

まず眼をそむけずに凝視せよ

一三世紀頃から

封建制帝国日本の

シャモ武士団による

アイヌモシリ侵略が開始された

シャモどもは

渡島半島に拠点を築き

アイヌモシリの東部へ中部へ北部へと

侵略・征服を進めた

シャモどもは

アイヌの生活圏を破壊し

カムイの贈物を強奪し

共同体をズタズタに引き裂いた

ンャモどもは

アイヌモシリを占領し

知行地なるものに分割し

場所請負なる奴隷制によって

アイヌを奴隷として酷使し

多くのメノコを強姦し

多くのウ夕リを殺した

アイヌはしかし

殺られてばかりいたのではない

アイヌの反日独立武装蜂起こそ

シャモどもが

まぎれもない冷酷非情な侵略者であり

「千島」「北海道」の全域が

アイヌ固有の生活圏であり

アイヌは日本人ではないことを

雄弁に物語っているのだ

一四五六年

シノリの反日独立武装蜂起を見よ

一四五七年

コシャマインらの反日独立武装蜂起を見よ

一六六九年

シャクシャインらの反日独立武装蜂起を見よ

一七八九年

クナシリ・メナシの反日独立武装蜂起を見よ
  のろし
その狼煙は消えず

数百年を越えて

派々と生きている

ワシらの魂の奥深くに生きている
    (1)
シャモやヌチャが侵入して来る以前の

原古のアイヌモシリは

なんとすばらしい世界だったろう

うっそうと生い茂った原始林

そこにはカムイが

熊や鹿や狐となって生活し

川にはサケやマスが

水色変ずるまでにさかのぼり

飢えることなく

貧富の差なく

お互いに助け合う

なんと素朴な生活

万物と語り合う

なんと詩的な生活

万物が育み合い

カムイに感謝し

カムイに祈る

なんと喜びに満ちた生活

このアイヌモシリを破壊したのはだれだ

まぎれもなくシャモどもだ

そしてヌチャどもだ

日本帝国とロシア帝国だ

シャモとヌチャの条約など

ワシらにはあずかり知らぬこと

ワシらは決して認めやせんぞ

シャモどもよ出ていけ

ヌチャどもよ出ていけ

アイヌモシリは威びず

アイヌモシリは甦る

必ずやアイヌモシリは甦る

反日革命戦争のルツボのなかで

アイヌモシリは甦る

反露革命戦争のルツボのなかで

アイヌモシリは甦る

日本帝国よ 滅びよ

呪われて滅びよ

ロシア帝国よ 滅びよ

呪われて滅びよ

世界革命戦争の炎に焼かれ

苦悶の叫びをあげて滅びよ



註(1) アイヌ語でロシア人のこと

 −66−

 帰ってきたジャッカル



あいつはいっちまった

都市にいっちまったよ

あれはだいぶ前の話し

あいつは俺の義兄弟のようなもの

それはど俺はあいつにほれていたのさ

あいつは

砂漠のジャッカル

と呼ばれたゲリラ戦士

そのすばしこいことジャッカルのごとく

その執拗なことジャッカルのごとく

そのしなやかなことジャッカルのごとく

あいつは天性の狩人

あいつは天性のゲリラ戦士だった

狙ったエモノは絶対逃さず

とことん追いつめ

必ず撃ちとってみせたもの

銃を撃たせりゃ百発百中

あいつの右に出るものなし

ナイフさばきも天下一品

そのひとふりで
    のどくび
エモノの喉頸かっきった

何昼夜の追跡にも疲れを知らず

神出鬼没のゲリラ戦法で

植民地主義者をキリキリ舞いにふり回し

奴らに多大の出血強いたもの

あいつは底抜けの楽天家

それでいて緻密な戦略家

作戦前には仲間の緊張はぐすため

気の利いた冗談さかんにとばし

失敗あってみなが沈んでいる時には

大声をあげて歌うたい

しめった気分を追っ払った

都市で幹部教育を受けたことのある
    くちぐせ
あいつの口癖はこうだった

都市はゲリラ戦士の墓場だ

都市はゲリラ戦士をダメにする

銃砲一つあつかえぬ

都市のダラ幹連中に革命などできやしない

口先だけで指導して

銃も握れぬいくじなし

都市のダラ幹連中は革命のお荷物だ

俺は都市には向いてねえ

俺には砂漠の戦場がお似合いだ

砂漠に生きて

砂漠に戦い

砂漠に死ぬ

これが俺の宿命だと
              ばつてき
ところがあいつは都市の幹部に抜擢されて

あいつの嫌いな都市へいっちまったのよ

それには深い深い訳がある

深い訳とはこういうことだ

女っ気のまったくなかったあいつに

女ができたことがそもそものまちがい

俺たちはあいつを指揮者として

いつものように敵をもとめて出撃した

住民から敵接近の情報が入ったためだ

だいぶ日が傾いていた頃だったが

住民の情報は正確だった

俺たちは敵と遭遇し

たちまちのうちに殲滅しちまった

だが日は沈み

基地への帰還は無理だった

そこで俺たちは近くの部落にいって

夜営することにした

ことの発端はその部落で起こったのだ

俺たちがその部落に近づくと

部族民総出で歓迎だ

憎っくき植民地主義者を

成敗したという情報は

もうとっくに伝わっていたのだ

部族民たちの大げさな歓迎を

できるだけ丁重にことわって

食料と水を金を払って買い求め

近くにテントを張って休むため

あいつは部族長のところへ交渉にいった

そしてそこに一人の娘がいた

年の頃はじゅうしちはち

見るからに愛らしく魅力的な

部族長の目に入れても痛くない

自慢の一人娘だった

どっちから先にひとめばれしたのか

そいっつあー俺にはわからねー

たぶんあいつと部族長がやりとりのあいだ

娘はその熱いまなざしをあいつに

じっと注いでいたにちがいない

あいつもチラッチラッと娘の方に

視線を投げかけていたにちがいない

そして交渉がまとまって

あいつが部族長のテントから出たあとを

その娘が追ってきて

あいつと娘はなにやら

言葉をかわしたにちがいない

地平線上に太陽があがりはじめたころ

俺たちは起床して

簡単な朝食をほうばって

出発の準備をはじめた

そこへ部落の女たちが総出で

食事をもってやってきた

むろんあの娘もそのなかにいた

俺たちはことわりきれずに

別れの食事をほうばった

例の娘はあいつのそばにぴったり寄りそい

娘とあいつは楽しげに語らっていた

さあ出発だ

なごりおしげに

いつまでもあいつの後姿を追い求める

いじらしい娘を残して

俺たちは基地への道をいそいだ

それから一週間というもの

毎日のごとく出撃・戦闘が続いた

あいつはいつもよりはりきって

戦果はいつもより上がった

あたかも娘のことなど

全く忘れてしまったかのように

頭のなかには

一人でも多く敵を殺すことしかないと

いわんばかりに

あいつは血なまぐさい戦闘の日々を

はつらつと生きていた

だが一週間たったある日

日がくれて

俺たちが基地に帰ってみると

なんとあの娘がいたのだ

親父ドンの目を盗み

白昼一人でラクダにのって

あいつにあいにやってきたのだ

それを知った時の

あいつの表情ったらなかったぜ

喜こんでいるのやら

迷惑がっているのやら

あいつと娘はひと晩じゅう語り明かした

何を話したか俺は知らない

だが話し手はあいつで

娘は終始一貫聞き手だったにちがいない

植民地主義者どもを

打倒せにゃならんこと

独立革命戦争の大義のこと

今まで戦ってきた輝かしい戦闘と

その勝利のこと

自分は一生ゲリラとして戦い

ゲリラとして死ぬこと

だから娘とは結婚できないこと

などを

あいつはあるいは熱っぼく語り

あるいは父が娘をさとすように

言い聞かせたにちがいない

だが娘はあいつの話しを聞けば開くはど

輝く瞳を熱くして

熱い思いをつのらせて

娘は言ったにちがいない

私もゲリラ戦士になって

あなたといっしょに戦いたい

そしていっしょに死にたいと

それに対してあいつがなんと言ったかは

想像にまかせよう

次の朝

娘の親父ドンが

武装した若いもんをひきつれて

基地へと向かってやってくるという

情報が入った

昼頃親父ドンたちはやってきた

なぜやってきたかって

それは言うまでもなかろう

一人娘を奪い返しにきたのだ

部族長の親父ドンは

あいつが娘を奪ったと思ったのだ

たとえ砂漠のジャッカルと呼ばれて

恐れられた男であろうと

いつ死ぬかしれないゲリラ戦士なんぞに

かわいい一人娘をやれるもんか

というわけだ

親父ドンはあいつに激しく抗議して

娘を力づくでひきつれていった

娘を守ろうとしないあいつに対して

娘は涙ながらにこう言った

私がほしくないの

あなたはいくじなしなのねって

そのときのあいつのジレンマと苦しみょうを

いったいだれが理解し得ただろう

住民の支持あってのゲリラなのだ

あいつ一人の利益のために

住民を敵に回す訳にはいかんのだ

だが娘への思いを

たち切ることもできはしない

いくじなしだと

愛しい娘からなじられて

なにもできないあいつの苦衷を

いったいだれが察しよう

その日のあいつの沈みようったらなかったぜ

俺たちはあいつをなぐさめ

気を盛り立ててやろうと試みたけれども

ダメだった

その精悍な相貌

ひきしまってガッシリとした体躯

きびしさのなかにも人をひきつけるやさしさ

あの娘がおまえにほれるのは当然よ

男の俺だっておまえにほれているんだから

だがおまえともあろうものが

あんな乳くさい小娘にほれるなんて

わからんなと

おだてたりけなしたりしてみたが

ダメだった

娘っ子一人にふり回されるなんて

とうとう砂漠のジャッカルさまも

ヤキが回ってしまったのかと

聞こえよがしに

冗談の一つも飛ばして見たが

ダメだった

その日以降の

俺たちの対戦成績はガクンと落ちた

砂漠のジャッカルは

死んだように生気を失っていった

今にも死にそうになっていた

ところがちょうどその頃

都市からあいつに召還命令がとどいた

いつものあいつだったなら

全く無視してかえりみなかっただろうに

しかし今度ばっかりは

なにか決心したようだった
れいり
怜悧な戦略家であるあいつの腹んなかに

グッドアイディアーが浮かんだにちがいない

あいつは早々都市へ退却する準備をはじめた

俺を後釜の臨時指揮者に指名して

ある作戦を練りはじめた

その作戦というのは

あの娘を奪って

都市へ行くといぅ作戦だった

ゲリラ部隊の指揮者という公的地位を

解除されたあいっにして

はじめて浮んだ作戦だった

あの日娘をつれかえった

部族長の親父ドンは

あいつに娘をとりもどされないために

若いもんを武装させ
  おり
娘を檻にとじこめて

警戒させているという

話だった

あいつは都市への出発のその前夜

近くに敵から奪ったジープを待機させ

身に寸鉄をおびずに丸腰で

夜陰に乗じて娘のいる部落に潜入し

みごと娘を救出し

めでたく都市へと逃げこんだ

それからあいつと娘がどうなったか

俺んところにや

うわさ一つとどかない

砂漠のジャッカルのあとをおそって

ジャッカル部隊の指揮者に指名され

部隊全員の賛成を得たものの

俺たち部隊の対戦成績は

あいつにはおよびもつかなんだ

それなのに

植民地主義者どもの大攻勢が

近いうちにあるという情報が

今頻繁にとどき出しているのだ

いったい都市のダラ幹どもは

なにを考えているのだ

砂漠のジャッカルはどこへ行っちまったんだ

おいおいやけに外が騒がしいじゃないか

なにか事でも起こったのか

なんだって

砂漠のジャッカルがかえってきたって

あいっがかえってきたって

それはほんまかいな

まちがいじゃなかろうな

それも銃をもつた牝ジャッカルと

なかよく肩をならべて

めんこい子ジャッカルを抱きかかえてだって

あいつはきっとこう言うぜ

都市はゲリラ戦士の墓場だ

都市はゲリラ戦士をダメにする

鉄砲一つあつかえぬ

都市のダラ幹連中に革命などできやしない

口先だけで指導して

銃も握れぬいくじなし

都市のダラ幹連中は革命のお荷物だ

俺は都市には向いてねえ

俺には砂漠の戦場がお似合いだ

砂漠に生きて

砂漠に戦い

砂漠に死ぬ

これが俺の宿命だって

 −84−

 散文童話詩 詩人の死



急を開いて援軍が駆けつけ、戦闘は終わった。植民地主義者の傭兵
                しっぽ
どもは、仲間の死体を打ち捨てて、尻尾を巻いて逃げ去った。硝煙
     ざんごう
たち込める塹壕のあちこちから、子供たちの啜り泣きが聞こえてく

る。援軍の指揮者は、今も戦闘の恐怖に身動きできず、塹壕内にう

ずくまった子供たちを、塹壕外の一箇所に集めて、おだやかにゆっ

くりと話しはじめた。涙が枯れ尽きるまで泣きはらそう。でも、涙

で心を腐らせてはだめだよ。その指揮者自身、手で拭っても拭って

もとめどなく流れてくる涙で、顔をくしゃくしやにしながら、自分

に納得させるかのように話し続けた。指揮者は、いつしか戦闘のあ

った塹壕の方に顔を向け、誰かに語りかけるように話していた。そ

の塹壕では、詩人とみんなから愛称で呼ばれていた、一人の兵士が、
         ひごう さいご
今さっきの戦闘で、非業の最期を遂げていたのだった。詩人よ!

君は帝国主義本国から、世界革命国際旅団の一兵士として、われわ

れのもとにやってきた。はじめ、君たちの言う世界革命というもの

を、われわれは理解し得なかった。だがわれわれは、君のその真剣

さに心うたれた。植民地主義者の傭兵どもに、家を焼かれ、家畜を

殺され、田畑を荒らされ、両親兄弟を奪われて、ひもじさに泣く子

供たちに、世界帝国主義の罪悪をわかりやすくあばき出し、解放闘

争の道理を熱っぼく説ききかせ、したたかに生きる勇気を与え、戦

いの楽しさを教えた、君のその真剣さに。子供たちのなかで生活し、

子供たちと苦楽をともにし、子供たちからこそまっさきに、植民地

支配の悲惨さを、学びとろうとした君の、その真剣さに。われわれ

は深く心うたれた。君は誰よりもまっさきに、われわれの言葉を学

びとった。君はみるみるうちに、われわれの言葉に熟達し、またた

くまに子供たちと自由に話せるようになった。君はなんでも即興的

に詩につくり上げ、それを子供たちに語り聞かせては、ともに大声

上けてうたった。君のつくった歌の数々を、子供たちは決して忘れ

ないだろう。植民地主義者の傭兵どもを、オチョクリ笑い倒す歌。

奴らの残虐行為に憤り、奴らへの憎しみをかきたてる歌。戦闘の勝

利を心の底から祝う歌。戦闘の楽しさを真底称える歌。戦闘の貴重

な教訓を、巧みに織り込んだ歌。同胞への尽きせぬ愛をうたった歌。
        いた
そして戦士の死を悼み、復讐を誓う歌を。子供たちは君を、まこと

の兄のように慕った。両親を、兄弟姉妹を、奴らに奪われ、悲しみに

うち沈んでいた子供たちも、明るさをとりもどし、未来の戦士となる

べく、ともに助け合い、ともに励ましあう、生き生きとした生活を

はじめた。そして今日も、君は子供たちと学びあっていた。そこへ

われわれの警戒の間隙を突いて、植民地主義者の傭兵どもが侵入し、

攻撃を仕かけてきたのだ。君は子供たちと塹壕に立てこもり、自動

小銃を撃ちまくって戦った。奴らは塹壕内に、手榴弾を二発同時に

投げこんだ。君は投げこまれた手榴弾の一発に関しては、手にとっ

て奴らに投げかえした。だがもう一発は、投げかえす時間的余裕が

なかった。君はその手榴弾を腹にかかえて地に伏した。自らの身は

は粉々になろうとも、子供たちの命を守るために。君は自らの肉体

を盾として、自らの命を犠牲にして、子供たちの命を守り切った。

君の自己犠牲は、多くの子供たちの命を守った。未来の戦士たちの

命を守った。君が死すことで生きのびた、多数の子供たちは、君が

つくり教えた歌を、決して忘れやしないだろう。君がつくり教えた

歌を、うたい継いでいくことで、子供たちは君の志を継ぎ、必ずや

植民地支配を打倒し、世界革命の戦士へと成長していくであろう。

われわれは決して、君の自己犠牲的死を無駄にはしない。われわれ

は子供たちとともに、君の死を世界革命のこやし≠ニしよう。自

分一人のためでもなく自分たち民族だけのためでもなく、世界帝国

主義に虐げられている人類同胞すべてのために、命をかけて戦える、

世界革命国際旅団の兵士に志願しょう。さあ、子供たち! みんな

でうたおうじやないか。戦士の死を悼み、復讐を誓う歌を。そして

もう泣くまい。決して泣くまい。われらが愛すべき詩人の死を。

 (同志の死に復讐を)

わが熱き血潮は大地に流れた

だが同志よ

わが死体に白き屍衣を着せるな

わが死体を革命の旗で包め

わが心臓はとまった

だが同志よ

わが死体を墓に埋めるな

わが死体を突撃の盾とせよ

わが呼吸はとまった

だが同志よ

鎮魂曲はうたうな

復讐の雄叫びをこそ歌とせよ

さあ′同志よ

わが死を乗り越えつき進め

わが銃を拾いあげ

連続する銃火で復讐果たせ

 −89−

 「弱者」



おれたちは「弱者」なのだろうか

日に見える武器を奪われ

肌ふれあうスクラムを組めず

友とみつめあって

肉声で語りあえないおれたちは

「弱者」なのだろうか

つき倒されても

ひとりでは起ち上がれない

おれたちはいつまでも鎖につながれた

「弱者」だと言うのだろうか

 −90−

 ドブネズミ



どしゃぶり ずぶぬれ ぬれネズミ

かみなり いなずま 傷だらけ

どろんこ ぬかるみ どろだらけ

踏まれて 蹴られて ドブのなか

ドブにぷかぷか冷たいムクロ

どうせ野垂れ死ぬ運命ならば

野垂れ死にを強いる大黒柱を

かみつき かみきり かみくだけ

命尽き果てるその日まで

 −91−

 子モグラ モグラ



迷い子泣き虫

子モグラ モグラ モグラモチ

かーちやんモグラいないとて

とーちゃんモグラいないとて

泣いても道はひらけない

さあ掘れ 土の子

子モグラ モグラ モグラモチ

掘ればからだがあたたまる

掘ればメメズが食べられる

掘れば仲間とめぐりあえる

さあ堀れ 士の子

子モグラ モグラ モグラモチ

今日を掘れば明日がくる

冬を掘れば春がくる

土台を掘れば柱は倒れる

さあ掘れ 土の子

子モグラ モグラ モグラモチ

悲惨と不幸の柱を倒せ

暴虐と絶望の柱を倒せ

暗黒と飢餓の柱を倒せ

 −93−

 撃つ



失語症にとり憑かれた俺は

銃口に俺の心を語らせた

俺は撃つ

俺は心の引金を引く

敵の肉体の奥深く喰い込む弾丸が

俺の傷ついた実存内奥の叫びを

閉ざされた世界の内壁に刻印する

絶えることなく弾丸よ 撃ち出でよ!
じょうぜつ
饒舌にも心の銃口から撃って出よ!

銃口は世界に開かれた唯一つの窓だ

弾丸はできたての熱い詩句だ

撃ちやがれ

力尽きて倒れ死ぬまで撃ちまくれ

虚空を火花散らす詩句で満たすため

 −95−

 こぶし



鋼鉄の殻に封じ込められた俺たちは
  こぶし
握る拳に呪文を念じて

烈しく強く打ちつけた

常識という名の殻をぶち破るため

安定という名の殻をぶち破るため

秩序という名の殻をぶち破るため

打ち続ける俺たちの拳の皮膚が

たとえ破けようとも

打ち続ける俺たちの拳の血管が

たとえ血を吐こうとも

打ち続ける俺たちの拳の骨が

たとえ剥き出しになろうとも

打ち続ける俺たちの拳が

たとえ砕け散ろうとも

 −97−

 かっくらえ



俺は澄んだ心で銃を構える

俺は心静かに狙いを定める

俺はゆっくりと引金を引く

撃鉄が起きる

発火薬が点火する

弾丸は銃口をあとにする

銃弾は敵の心臓にぶち当たる

波動が熱い詩句となって

俺の体内を快くも駆け巡る

かっくらえ
   おんねん
赤熱・怨念の実弾を

ぶっちゃぎれ

腐乱・不実の心臓を

でんぐりかえれ

脂ぎったどてっ腹よ

 −99−

 奄美のハブ



奄美のハブはしたたかに

弾圧喰って武装する

奄美のハブはしなやかに

幾多の罠を喰い破る

ハブの毒は猛烈に

奴らの玉を奪い取る

とぐろを巻いて

鎌首あげて

歌え歌え
         ちうた
ヤマトを呪うハブの血歌を

踊れ踊れ
          ちま
ヤマトを威ほすハブの血舞いを

 −100−

 囚人夢想曲 T



香ばしく髪匂う少女が

溶けゆく朝の光のなかで
      まど
心ときめかす惑いの歌うたっていた

少女は魔法によって姿かえられた小鳥のように
  がんか
私の眼窩の片隅のくぼみに宿った
       あゆみ
朝の光のなかに沐浴する小鳥は
      いざな
私をあやしく誘った

足音もなく近づく私の両手は

少女のふくらみかけた胸にまわり

少女は小鳥となって大空に消えた

私の手に

ぬくもりのひとかけらも残さずに
           あぶく
脳裡に浮かんでは消えた泡のごとき
       しずく
夢が溶けたひと雫

 −102−

 囚人夢想曲 U



夢が語る夢物語り

世迷い事は心ときめく美しさ

あり得べからざるものは

美しすぎて心張り裂け
じや
蛇になれ
たた
崇って蛇になれ
       じゃしん
憑かれて踊っで蛇神たれ
     まど
しなやかに円かな苦悩の子宮が
      うただね
喜びあふれる詩種を身に宿す

そのように

にぎりつぶされた欲望の泉が

夢の子宮に蛇を孕む

蛇になれ

崇って蛇になれ

憑かれて踊って蛇神たれ
ひとめ
人目に肌はあやしげで

心は無心の心で満たされて
   きしん はばた
動きは鬼神の羽撃きで

瞳は呪文の涙で泣きぬれ

夢で夢見た蛇神たれ
   
地から涌き出る泉のように
   
口から這い出す呪文のように

眠りの深い底無し沼から

腰をくねらせ浮き上がり

夢の裂け目に身を入れて
  うつつ
夢と現の国境こえて

脱獄の花を夢精で咲かす

花の寿命が蛇の持ち時間

泣いて生まれて笑って死ぬまで
        
ひとつ想いはあの娘に逢って

肌と肌をあわせて燃えて

とけ入るように滅び去る
     かお
ジャスミン薫る

蛇の道 蛇の目

蛇になれ

崇って蛇になれ

憑かれて踊って蛇神たれ

 −105−

 自白



あの忌わしい日々を

忘れるな

あの裏切りの日々を

決して忘れるな

極刑などこわくないという

いきがり

もはや武器をもって戦えないという

敗北主義

戦いは終わったという
       あきら
ひとりよがりの諦め

戦いはすぐには引き継がれないという

思い上がった不信

語ることがデマに抗し得るという

甘い幻想

なぜ

叩かれてもすかされても

黙して語らぬ

石地蔵になれなかったのか

その言葉は

敵を喜ばせたのだ

その言葉は

オノレを堕落させたのだ
            あかし
それは敵への憎悪の不在の証だった

それは敵への戦意の不在の証だった

その言葉は

もはや言葉では取りかえせない

 −107−

 呼吸 T



どこからともなく飛んできた

獄窓の鉄格子をとまり木に

心楽しく囀る小鳥よ

私の心は踊っている

君の囀りの言葉が

私には苦もなくわかるから

君の囀りの心根が

私の踊る心根と

しっくり共鳴し合うから



どこからともなく飛んできて

獄窓の鉄格子の上を飛びまわり

心優しく囀る小鳥よ

独房深く閉じこめられて

呼吸に苦しむ私の胸を

自然の息吹を恋する胸を
     なご
限りなくも和ませてくれ



どこからともなく飛んできて

獄窓の鉄格子を舞台に踊る

心憎い小鳥よ

その囀りの霊力で

私の病んだ悲しい呼吸を

自然が胸のうちに包みこむ

遠きいにしえの原郷へ
       いざな
強くさわやかに誘ってくれ

 −109−

 呼吸 U



六月は恐怖の隠花植物だ

春の傷口から吹き出した青酸の結晶体だ

絶望と情欲に引き裂かれた肉の塊が

夜な夜なかぼそい悲鳴をあげる

その肉塊の大きく口を開いた裂け目から
きも
肝を石臼ですりつぶしたような

膿汁がにじみ出たり

絞めつけられた海綿体が

血だらけの泡を吹いて

こと切れるときのように
   けいれん
烈しく痙攣するのだ



ほのぼのとした春のほほえみも

ひるがえれば残虐極まる拷問だ

いのち萌ゆる新緑も

裏返せば自滅への誘いだ

やすらぎに満ちた夜の甘い抱擁も

ここではささくれだった針のむしろだ



さかしまに心臓蹴り上げる

ゴム風船のごとき悪因よ

夜の長さはおまえの執念の長さなのだ

だが 忘れるなよ

いつかおまえをひねりつぶす

レクイエムが

おまえの執念を葬り去ることを

 −111−

 呼吸 V


いと
愛しい呼吸よ!

苦しみ悶えるフルー卜よ!

かつては心にしみいる詩をかなでていた

あのしなやかな日々を

力のかぎり取りもどせ!

 −112−

 獄中で磨かれた武器           井之川巨



 言霊=ことだま。「言葉に宿っている不思議な霊威。古代、その力がはたら

いて言葉通りの事象がもたらされると信じられた」(広辞苑)。ことだま≠フ

題名は、ことばに託す願いがこもって、いかにも黒川芳正らしい。

 東アジア反日武装戦線兵士黒川芳正は、獄中にとらえられることによって、

日本天皇や帝国主義者、侵略企業にむけて装填した爆弾を、詩にかえた。いち

どは自らの存在そのものを炸裂する爆薬に代置しょうとするかに見えたが、い

ま、その炸裂する身も心もすべて言葉になりかわり、逡巡する人びとの心の口

火に点火しようとしているかのようである。無期刑という極限のたたかいの中

で、なお少年のように研ぎ澄まされた詩的感性は、激しく、執拗に、それでい

て奇妙に冴えかえった世界を現出する。

 正直いってぼくには、黒川らの「反日」の思想にただちに納得しかねるもの

が、いまもある。しかし、被抑圧民族の側から日本帝国主義を撃つ、そのたた

かいに呼応する日本人民の主体を帝国主義の内側から構築していこうとする思

想としてなら理解できるし、その思想とたたかいはまさしくぼくらのものだ。

その情熱は真正であり、正義のたたかいといってよい。

 原詩人から黒川へ信号を発し、黒川から信号をえてからほぼ二年の月日がた

つ。骨と筋からできた初めの頃の詩にくらべ、最近の黒川の詩には肉や血のぬ

くみが加わり、詩がはるかに豊かになったように思う。

「目に見える武器を奪われ/肌ふれあうスクラムを組めず/友とみつめあって

/肉声で語りあえないおれたちは/『弱者』なのだろうか」(「弱者」)、「なぜ

/叩かれてもすかされても/黙して語らぬ/石地蔵になれなかったのか」 (自

白)、「さかしまに心臓蹴り上げる/ゴム風船のごとき悪因よ/夜の長さはお

まえの執念の長さだ」(呼吸U)。─ このようなフレーズは、初期の黒川の

詩にはまったく見られぬものだった。「強さ」を前方へ押し出すことによって

のみ詩を成り立たせるのではなく、自らの「弱さ」をも詩的モチーフとし、そ

れを直視していこうとする詩は痛ましく、好感がもてる。黒川芳正の成長と自

信のほどがうかがわれるのである。

 詩集『言霊』の原稿を何回か読みかえして思うことは、黒川芳正が抒情詩も

叙事詩も書ける詩人だということである。今後についていえば、とくに叙事詩

に期待したい。「帰ってきたジャッカル」「詩人の死」などにその萌芽が見ら

れるように、黒川芳正にはストーリーテラーとしてのすぐれた資質があること

も疑いない。革命の時代の英雄伝説を詩によって創造していく作業は、「革命

の詩」「詩の革命」をめざすぼくらにとっての大きな課題の一つだと思うので

ある。

                        一九八〇年一一月三〇日

 −115−

 あとがき ─ 言霊の復権に向けて



 「言葉というものには力があり、またその言葉自体も力を持つ。言葉は何も

ないとこるから生まれてきて、音と意味を作る。また、あらゆる事物に起源を

あたえる。言葉によって人間はこの世と対等にやりとりができるのだ。そして

言葉は神聖なものである。人の名前はその人だけのものであり、それを自分の

ものにしておこうが棄てようが持ち主の意のままだ。近年までのカイオワ・イ

ンディアンは死者の名を口にしょうとはしなかった。そうすることは無礼でも

あり不正にもなるからである。死者は自分の名前をたずさえてこの世を去るの

だ。」 (N・S・ママディ著『レイニ・マウンテンへの道』晶文社)。

 ここには、北米大陸原住民=赤人(「インディアン」)の言霊思想の一端が

示されている。言霊思想は、決して、日本民族固有の、独自の、特殊な思想で

はない。アイヌ語の言葉≠意味するイタク≠フ原意は、「魂を呼びよ
                  イタコ
せる」という意味である。東北農民の巫女≠ニいう言葉は、アイヌ語のイ

タク≠ノ源を発するという説もある。言霊思想─それは、自然と人間とが一

体として共生する、本源的共同体にこそ固有の世界観であり、原始共同体的自

然人のイキザマである。

 異族征服と原始共同体の破壊によって、国家が形成されるとともに、自然と
                      ひとよ
人間との一体的共生構造も破壊され、言霊自体も人世からは追放された。国家

に包摂された人々にとって、言霊とはせいぜい、文学上の飾りものにしかすぎ

ないものとなる。そこに表現されているのは、本源的な意味での言霊ではなく、

追放された言霊の、形骸化した記憶であり、言霊の死体描写でしかない。『記

紀』や『万葉集』に出てくる「言霊」とは、そのようなものである。

 近世・徳川幕藩体制下において、中国文化との対抗意識から、日本民族の神

国的優越性を誇示するために、本居宣長や平田篤胤らによって、『記紀』や『万

葉集』に依拠した言霊思想の復権が叫ばれた。

 だが、彼らが依拠した「言霊」とは、もとより「言霊の死体」であり、彼ら

が行なったことは、「言霊の死体解剖医」の作成でしかなかった。そして、こ

の「言霊の死体解剖図」をもって、彼らは、「言霊は日本民族に固有のもので

ある」という民族主義的言霊観をデッチ上げたのーである。この民族主義的言霊

観は、天皇主義的国粋思想のイデオロギーとして、「明治維新」のイデオロギ

ー的源動力となり、「昭和ファシズム」のイデオロギー的源動力へとひきつが

れていく。

 現代世界は、言うまでもなく、自然と人間との一体的共生構造の破壊の上に

成り立っている。そこから派生する言語状況は、死語的状況である。この死語

的状況は、一方では、言葉化し得ないものは実在し得えないという言葉万能主

義として、他方では、言葉は仮象にすぎないという言語ニヒリズムとして、立

ちあらわれている。この対立し合い、また補い合う、言語万能主義と言語ニヒ

リズムの狭間で、人は、言葉への安易なもたれかかりと、言葉不信という自己

矛盾にひきさかれる。

 言葉の在りようと、その言葉が発される世界の基底構造は、分かちがたく結

びついている。それゆえ、言葉に魂を甦らせ、原始共同体の世界観・イキザマ

としての言霊を復権するためには、現存世界の基底構造そのものを根源から革

命しなければならない。

 詩集『言霊』で、私がささやかながら試みようとしたことは、第一に、民族

主義的言霊観に対する批判であり、第二に、現代世界の死語的状況の抉り出し

と、それへの批判であり、第三に、死語的状況をもたらす現代世界の基底構造

を根源から変革する世界革命へ向けての詩的アジテーションである。

 ここで、最後に、私の個人的な原詩人♀マを述べておきたい。原始共同体

的言霊観の基本原理は、(言・行)の融即一致である。そして、<言>と<行>

との分離不一致こそ現代世界の根本特徴である。原詩人≠ニは、この現代世

界の根本特徴たる<言>と<行>の分離不一致を克服し、言葉に魂を吹き込む

ものである。そうすることで、言霊を復権しようとするものである。それは、

人類の本源的共同体のよみがえる世界革命をめぎす、(武装せる詩人)であり、

(詩魂に燃えた戦士)である。

 なお、本詩集『言霊』とともに、『フレエムシ第一詩集──生まれ出でよ!

反日戦士』 (東京都下谷郵便局私書箱99号、KQ通信社取扱い、五百円)をぜ

ひ参照されるよう希望する。    一九八〇年一〇月二八日 黒川芳正

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著者略歴

一九四八年生まれ。六八〜七〇年、
ノンセクトとして全共闘運動を担
う。後、全共闘運動の思想的実践
的根源化をめざして下放。日雇労
働を行ないつつ、山谷などの寄せ
場で活動。寄せ場での体験を踏ま
えて東アジア反日武装戦線に志願。
七五年逮捕され、一時自白屈服す
るが、後自己批判し、現在、東拘
において喘息を抱えながら、獄中
闘争続行。東アジア反日武装戦線
KF部隊(準)構成員。
現住所 東京都葛飾区小菅一─三
五─一東京拘置所内


原詩人叢書8
黒川芳正詩集「言霊」
定価五〇〇円(〒二〇〇円)
一九八二年一月一○日発行
著者/黒川芳正
発行所/原詩人叢書刊行委員会
   東京都品川区大崎四−二−一三−四〇五
   電話〇三−四九二−三四九四
装丁/山崎晨

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