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私は奴を思い切り蹴とばし手をふりほどいて立ち上った
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七六年四月十九日
 「おまえはここに楽しみに来てんだろう」と黒ブチメガネの南三舎の区長が言った。
奴は、目かくしフェンスの穴が数倍に拡がっているのを見つけて、ハタキを強奪して行
った。しかし、すでに私のいる房には、そよ風が吹き込んでくるし、外のテニスコート
や散ってしまった桜の木、れんぎようのあざやかな黄色が、手にとるように見えるのだ。
「まつたく子供と同じだ。おまえにや、棒っ切れを持たせてはおけん!」
 こんな穴倉のような所に閉じ込められて、目隠しをされたら、目の前のフェンスをブ
ッ壊したくなるのは、人間としてきわめて当然のことではないか。奴らの言いなりにな
らずに、人間として生きようとすることが〈子供〉と同じなら、私は永遠に〈子供〉で
ありたい。しばらくすると、こんどは南三舎の係長がどなりこんでくる。「おまえ、朝

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二階の奴にオハヨウとかアイサツしただろう。これからそんなことしたら承知せんぞ。」
私は、「挨拶して何が悪い。『仲間同士は仲良くしましょう』と収容者の心得にも書い
てあるではないか。朝起きたら、『オハヨウ』と言うのは私の習慣だ。やめるわけには
いかない。  奴「やらせないよ!」 私「何と言われょうとアイサツはやります!」
奴「やらせないよ! 指示に従わないと処置するぞ!」 私「処置とは何だ? カッテ
にやってくれ。あんたは我々を何だと思ってるのだ。我々は人間だ。オハョウの一言が
何故悪い。あんただって、『オハヨウ』ぐらい言うのではないか?」 奴「シヤバ人と
は違うんだよ。シヤバ人にはあたりまえのことでも、ここに収容された以上、ここの規
則に従え!」
 いいかげんウンザリです。奴は頭に血がのぼって、今にもとびかかってきそうな剣幕
だったので、私は、あとは無視して、本を読んでいた。ずいぶん長いことそのまま私を
睨みつけていたが、つきそいの女看守にブツブツと何か言って退散した。奴らには、我
々が少しでも人間らしいことをするのが、ものすごくお気に召さないらしい。何であん
なに目くじら立てなきやならないのか。

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 お昼休みに窓の外で人声がするので、フェンスの破れ目から外を見ると、チョーエキ
のおじさん達が楽しそうにテニスをやってる。私は嬉しくなって見物していた。チョー
エキのおじさん達は十二〜三人。アマリの人達はべンチに腰かけて楽しそうにおしやべ
りしている。ところが何と言うことだ。チョーエキのおじさん達のテニスは十分間で終
ってしまい、その後四人の緑服のファシストがテニスコートを占領してしまったではな
いか。その後奴らは五十分もたった四人でテニスにうち興じていたのです。時間がわか
るのは塔の上の時計がここからは見えるからです。(ただでは見えない。鉄格子につか
まって、窓のところに上がると見えるのです。時間がよくわかってとても便利。チョー
エキのおじさん達は、起床六時三十分、仕事は午前八時から午後四時までです。)獄内
の少し人間的な施設は、全て獄中者のためにあるのではなくて、ファシストどものため
にのみあるのです。「オレ様たちが食後の休憩をしている間たった十分間だけ、オレ様
のコートをおまえらに貸してやろう。ありがたく思え! どうだい、オレ様はなさけ深
いだろう。」と言わんばかりです。
 女区の風呂まで入浴に行ったら、階段のところでゆきちやんとバッタリ!

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「ヨウッ!」 「今、南三舎よ!」 「ガンバレ!」 手を握ろうとすると看守が妨害。
風呂にはいっている人がいたので、しばらく待たされる。五分位して、先の人が出たの
で、風呂に入ろうとすると、またゆきちやんとバッタリ! 「まりちやんガンバレ!」
「オウッ!」 奴らのドジなのだ。その後、「五房(あやちやん)お願いします」と言
ってるのに、五房はなかなか出てこない。私はできるだけノラリクラリと服を脱ぎなが
ら廊下をのぞいていたのだが、奴らは、私があやちやんに声をかけるのをおそれて四人
位でドアの前にたちふさがり、目かくしをする。私が、湯ブネに入るのを見届けてから
五房を出したのだろうか。あやちやんに会えなかった。でも風呂から出て「デタラメチ
ョーバツハンターイ!」 と叫ぶと、あやちやんがパチパチと手を叩いたのが聞こえま
した。あやちやんはチョーバツ中でハンストの最中でした。
 夕方、姿は見えなかったけど蛙のなき声を聞きました。ビックリしました。眠りから
醒めたのですね。もうそんな季節でしようか。ここの房はまだけっこう寒いのです。窓
のすぐ下で一匹の蛙がケロケロとないているのです。昼間は、デーデーポッポッの山鳩
の声も聞こえました。胸が高なるのをおぼえました。ハトポッポは、二階や三階の仲間

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のところは遊びに行くようですが、一階に仲間が住んでるということを発見してくれま
せん。そのうちにきっとハトポツポと友達になります。女区のハトポッポとは友達だっ
たのです。こないと淋しい。
 自殺房にブチ込まれている仲間達! ネコともハトとも戯れることができない怒りを
共有すべく、私はハトと戯れています。開かない窓、鉄板のはまった窓、外の空気や太
陽の光と直接ふれることのできない房にブチ込まれることと、キラキラと七色に光る羽
のハトがすぐ目の前でゴハンツブをついばむ姿をじつと見ることのできる房との何とい
う違い!
 絶対に自殺房をブッ壊さねばならない。単に暗いとか湿っぽい、ほこりっぽい健康破
壊房だなどと、言葉では表わすことのできない人間性抹殺房なのだ。日常のありとあら
ゆる瞬間において殺されているのだ。二十四時間監禁の独房というだけで人間性を破壊
されているのに、その上、外気まで奪うなんてことは〈人間〉のやれることではありま
せん。鳩ポッポが遊びに来る度にこの喜びを奪っている敵に対する怒りに煮えくりかえ
るのです。

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 四月二十日
 女区主任より、「十七日にここに連れて来られる際に大声を出したことで取調べにな
っている」との告知。「何が取調べだ。そっちがデタラメやっていて暴力ふるっといて」
奴「あんたには言ってるはずだ。もっと素直になれ。すぐにどうせいこうせいと言った
って規則でどうすることもできないことがあるのだ。もっと利口になれ。自分が損する
だけだ。大声なんか出さないでおとなしく公判の準備でもしてればよいのだ。もっと人
間らしくなりなさい!」??
 公判の準備をしようとしていたら妨害されたので抗議していたら、ここに連れてこら
れたのに? 人間らしくするために奴の指示には従えんのに! 「それが、あんたの言
える言葉か!」と、どなりつけると退散してしまった。奴らから見ると、フェンスをこ
わしたり、房内で動きまわったり、逆だちしたり、ボクシングのマネをしたり、歌をう
たったり、オハヨーと言ったり、ドアを叩いたりする我々は、野獣に見えるらしい。
そうだ! 我々は知らに対しては牙をむきだした狼だ。

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 南三舎のオニがまたもやご来房。「おまえ、点検の時に正座しないそうだが、点検の
時は正座してうけるもんだ。これからはオレが点検にくるからな。正座しなかったらひ
どいめにあうぞ。わかったか」 「なぜ正座の必要があるのか説明して下さい」 「説
明の必要はねェんだよ。おまえは言ってわかるような奴じやない」 「あんた方と私が
対等な人間ならば、あなたが立っているのに私が奴隷的に正座する必要は全くない。あ
なたが我々を支配しているのだという管理者支配者意識を満足させるためにだけ我々に
屈辱的な姿勢を強要しているのではないか」 「つべこべいうな。今までずっと正座し
なかったそうだが、オレはどんなことがあっても正座させるぞ」 「暴力を使うという
ことか」 「ああ、暴力だって何だってだ!」 「あんたがたのやり方は最後は結局暴
力でおさえつけようというのじやないか。暴力支配には断乎抗議する!」 「そうだ。
暴力だ。どんなことをやってもオレはおまえに坐って番号を言わせるぞ! 体を張って
な。命をかけても坐らせる! オレのところでそんなことは絶対許さない。他の奴はど
うか知らんが、オレは絶対許さんぞ! いいか。警告しておく。あとで後悔するなよ!」
「あんたがそうまで言うのなら、私は体を張って命をかけても、奴隷的屈辱は拒否しま
す!」

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何ともはや…… 奴には「暴力ではないか」の抗議は抗議にならないのだ。自らが「暴
力を使って支配するのだ」と公言してはばからないのだから。ウルトラファシストその
ものである。しかし、奴は、決して特別の看守ではないのです。今までだって奴は一貫
して獄中人民をこうして支配してきたのであり、数えきれないほどの仲間たちが、奴の
ょうなファシストに殺されてきたのでしよう。今夜の点検が楽しみです。命をかけても
坐らせる者と命をかけても坐らない者との対決です。しかし、奴の敗北は目に見えてい
ます。奴がどれほど頑張ったって私を奴の言うなりにさせることは絶対不可能なのです
から。南舎の仲間たちはこのオッソロシイオニに一挙手一投足まで支配されているので
す。二階の優しいおにいちやん達も、「オハヨー」「オヤスミー」に答えてくれなくな
りました。きっと脅迫されたのでしよう。
                              〔午後二暗記〕

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 午後四時。楽しみの点検。待ちに待ちたる点検です。ドアが開いた時、私は食器を洗
っていました。仕事を続けながら、例の調子で「デタラメチョーバツ反対! 暴力支虎
に断乎抗議する!」 しかし奴は最後まで言わせず、ドカドカと上がりこんできて私の
髪をひっつかんだと思うと、私を床の上につき倒した。 「いいか! オレが教えてや
るよ。点検というのはこうするもんだ!」 髪の毛をつかんでグルグル引きまわし背中
から乗っかってきて、私を坐らせようとする。私が足を伸ばしたままでいると足を蹴っ
て足をおりまげようとする。そして、腕を背中でギリギリとねじあげ、髪の毛をつかん
だまま、「番号言え! 番号」
「笑わせるんじやない。こんな暴力で強制されて、番号が言えるか!暴力をやめろ!」
私は奴を思い切り蹴とばし手をふりほどいて立ち上った。
「コノヤロー!」 立ち上がると同時に再度、床につき倒され、ひざでダイダイ押しつ
けられる。腕をねじり上げ身動きのできないような姿勢を強いた上で、
「番号を言え!」 「死んだって言うものか!」
立っては投げとばされ立ち上っては髪の毛をひっばられ、けとばされ………
これを数え切れないほどくり返す。「暴力をやめろ!」の抗議に対して、そばで見てい

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たアヒルのような看守部長が、「どっちが暴力だ! おまえの方がよっぽど暴力をふる
ってるじやないか!」とチョツカイを出す。私が奴の手や足をふりほどこうともがいて、
奴を蹴りあげたり叩いたりしているのに対してだ。大きな男がおそいかかってくるのに
対する正当防衛ではないか。奴は「ああ、暴力だって何だっていい。オレにかみつくん
ならかみつけ!」 奴にとっては暴力はごく当り前のことなのです。キドリヤ看守が、
「もういいかげんに言いなさいよ。ちょっと言えばいいんじやないの」 奴の手をふり
ほどいて「私は、あんたがたの奴隷ではない。屈辱的点検の強要には、どんなことがあ
っても従うつもりはない。さあ、とっとと出て行け! 私はあんたとレスリングなんか
やりたくないんだ」と奴を房外へ押し出そうとすると、奴は「誰がレスリングやっとる
か! オレはおまえに点接のやり方を教えてやってるんだよ!」「冗談言うな。 それ
が人間に対して教えるという態度か。あんたのやり方は、牛や馬を調教する時のやり方
で、人間に対するやり方ではない。私は、牛や馬ではない。暴力で強制されることには
従えん。教えるというのなら、なぜ正座して点検を受けねばならないか説明しろ!」
奴「おまえは言葉で言ってわかるような奴じやないんだよ。規則だ! 規則には従え!」
「出ていけ!」と、奴を蹴とばすと、「番号を言うまでは絶対に出て行かんぞ」とまた

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床に倒し押さえつける。床に倒されたまま、ふと水道の方を見ると、水が出しつ放しで
今にも床に溢れそうになっている。奴をふりほどいて水を止めに行こうと立ちあがると
またもや蹴りあげられ、ドタッ。 「水道の水ぐらい止めさせろ! あふれそうじやあ
ないか!」と抗議すると、「よし、止めろ」。 奴は汗だくになってポケットからハン
カチを出して額の汗をふいている。水を止め終ると、またたくまに床につき倒され、再
度、「番号を言え!」「言わない!」のくり返し。しばらくすると、目の前にもう一人
の馬ヅラ看辛が現われる。私と奴の格闘をしばらく見物した後、上がり込んできて、奴
に加勢。
 「暴力はやめろ! 獄中者にこのような暴力をふるうことがあんたがたには許されて
いるのか、これが合法的な処置か、説明しろ! 獄中者には、基本的人権はないのか!」
と抗議すると、「何が基本的人権だよ、おまえのような奴には人権もクソもないんだよ。
人の基本的人権を考えないようなことをやってきてぶちこまれたくせに、何が人間だ。
甘くしてりやいい気になりやがって、ここじやそうはいかないぞ。いいか。オレがわか
らせてやるよ」と怒鳴るやいなや、首の後をギリギリとしめつけて、顔をタタミにドン
ドンとぶつける。腕を両手でギリギリと逆方向にねじりあげたかと思うと私の上に足で

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あがってきて、エビ責めにし、顔を足でふみつけた(その足の臭かったことといったら!)
骨が折れるのではないかと思うほどの痛さに、大きな声も出せず、「ハハハ……あんた
がたの正体はわかったよ」とやっとのことで言うと、馬ヅラは「オマエの正体だってわ
かったぞ!」 アヒル看守部長が、見るに見かねてか、「もういいですよ。この人はも
のすごい強情なんだから、何をやったって無駄ですよ。殺されたって言わないっていっ
てるんですから。いくらやってもダメですよ。」 女区の看守は、常日頃から鍛えられ
ているから、このような墓穴掘りは無意味とワカッテいるのです。看守部長の声に奴は
やっと手を離した。私はしばらくの間、起きあがれずにいた。床に倒れたまま呼吸を整
えていると、南三舎係長が「外に出る。暴力はやめる。だから番号を言え。オレが外に
出れば番号を言うか」と言ってくる。「今頃になって暴力をやめるとは何だ。さんざん
暴力をふるっといて。謝れ! あんたが謝ったら番号を言ってやる!」 奴「番号を言
え!」 私「なぜ、それほどまでして言わせたいのだ。正座強要・奴隷的点検の強要が
なぜそんなに大切なんだ。そんなものは明治の封建時代の遺制だ。私とあんたは対等の
人間のはずだ」 奴「明治だって封建制だっていい。これがオレの仕事だ。おまえがオ
レの暴力を訴えるのなら訴えろ。うけて立ってやる」 密室での蛮行が日帝の法廷では

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どのように処理されるのかを奴は知っているからこそこういうことが言えるのでしよう。
 看守部長が、「明治から法律は同じだ! 憲法だって同じだ!」と叫びました。サス
ガ!です。天を頂いた天皇制ファシズムの法律が、監獄では堂々とまかり通っているこ
と、明治憲法も日本国憲法も本質は同じだということを奴らはよく知っているのです。
ヒロヒトクンも言ってたものねェ。「戦前の私も戦後の私もどこも変わりはありません」
と。しばらくして馬ズラがいなくなったと思うと南舎の区長(黒メガネ、四月十七日に
格闘した相手)がやってきて、「こいつは全く開きわけのないガキと同じだ。番号を言
え! 番号を言えばそれですむことじやないか。ガキのようなことはやめろ」 なおも
抗議する私に、係長はやっとあきらめたらしく、房の外に出た。 区長「こいつは正気
の沙汰じやないよ。まともに相手にできる奴じゃあない」 係長は「また明日の朝もく
るからな。明日はキチンと言えよ」と言いつつ去って行った。「人間じやないよ、アレ
は」との声がする。奴らに最後まで従わない人間は「キチガイ」にされ「人間じやない」
とされるのだ。奴らが去った後の房内は衣類カゴの中の衣類が飛び散り、むしりとられ
た髪の毛だらけ。馬ヅラの、ムッとする足の臭いが顔や体中にこびりついて吐き気をも
よおす。気がつくと左手の指の間から血が出ており、血が壁にも飛び散っていた。しめ

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つけられた首の後とねじりあげられた腕、背中が痛い。しかし、日頃の柔軟体操が効あ
って「エビ責め」も、逆ねじりも、奴らが思ったほど効果はなかったようだ。ゆきちゃ
んの手紙でおよその見当はついていたので、心の準備ができてはいたものの、このくや
しさ、この怒りを表現する言葉を今持ち得ません。「爆弾魔には人権などない。爆弾魔
は看守に殺されたって当り前だ。」奴らの論理はこの一言につきます。獄中者は「人間」
では決してない。奴らの思いどおりにいかない人間は、痛めつけ、殺すまでだ。デカパ
ンの戦い、デカパンの怒りそしてデカパンの勝利に心から柏手を送ります。奴らに教え
てやらねばなりません。暴力で支配しようとしても、それは絶対敗北につながるだけだ
ということを。奴らにとっては、このようなことは日常茶飯事なのでしよう。明日もま
た……です。これから毎日二回、奴らとの格闘が日課になるのでしようか? あまりに
もムチヤクチヤで何と言ったらいいのかわかりません。
 内出血箇所 右上腕四ヶ所、左上腕四ヶ所、左前腕四ヶ所、右足一ヶ所、左足二ヶ所。
 ひっかき傷(?)右手指一ヶ所 (少量出血)。
四月十四日の内出血もあるので (右足六ヶ所、左足三ヶ所、右手首二ヶ所、左手首二ヶ

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所)、体中アザだらけです。この分でいったらしまいには丸っぱげになってしまうでしょう。柔軟体操はリンチに対して強力な武器になります。とくにアーチはエビ責めを粉砕する! いっばい体を鍛えよう! 南舎における主格正常化の闘いをおし拡げよう!〈いったん牢獄のドアが背後でガチャンと閉まつたら、それから先には法律はない『もし奴らが朝にきたら』〉のです。















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 四月ニ十一日
 朝八時頃南舎係が来て、「どうだ、荒井。坐って点検うけないか。」「きのうの暴力
行為について謝罪して下さい」と要求。すると奴は「悪かった。きのうのことはオレが
全部悪かったあやまる。どこかに訴えるなら訴えてもかまわん。それで有罪になれば刑
ム所でも何でも入る」とひたすら低姿勢。「オレはただおまえを坐らせようとしただけ
で、暴力をふるうつもりはなかった。おれのやり方はまずかった。ああいうことであん
たにわからせようとしたのは間違っていた。あんたの意志の強いのには驚いたよ。どこ
か痛いところはないか。」奴は、自らの行為の違法性を知っているのです。そしてあれ
が男の懲役囚を扱ういつものやり方なのです。奴はあのようにすれば私が奴の言いなり
になると本気で思っていたのです。「女の扱い方をオレは知らんから」「ああそうだよ、
男の奴はひっばってきてわからせるようにしている。今までだってそうやってきた。」
奴は今まで暴力で獄中者をおさえつけてきたのだから今回も同じようにして「わからせ
よう」としただけというわけです。馬ヅラ(私を逆エビ責めにした奴)の名前と役職名
を教え、奴にも謝罪させよ、奴の暴言(「人権などない」「人間ではない」等)を撤回

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させろ、と要求すると、「オレが代って謝る。オレがやめさせなかったのが悪いんだか
ら、オレの責任だ」「名前、役職名は言えないが、それは伝えておく。しかし、彼が謝
りにくるかどうかはわからんよ」「同じ人間に対してそういうことを言うべきではない。
オレが代って撤回する。」
 そして、なぜ点検の時に正座をする必要があるのかということを長々と講釈。
「独房だけなら見りやわかるが十二〜三人も一部屋に住んでる雑居じゃあ、きちんと並
んで坐ってもらわなくちや確認ができない。顔だって全員覚えてるわけでもないのに、
一人は便所へ行ってる、一人は立ってるじやあ点検もできん。雑居で坐らせるのに独房
では坐らせないということはできない。雑居じやあ大きいの小さいのが六名ずつ前と後
に並ぶんだ。立ってやられたんじやあ、大きいののうしろに小さいのがいったりしたら
見えなくなったりする。一メートル九〇センチもあるやつなんか見上げにやならない。
坐ればみんなよく見えるし。全員に同じようにしなくちゃならないのだ。ここじゃあ地
獄耳といって誰が教えるわけでなくても、すべて伝わってしまう。一人が立って点検を
受けていたら、『じゃあオレも』とみんなが坐らなくなる。そうしたら困るから言って
るんだ。一人だけ優遇するわけにはいかない。ネタミというものがある。とくに男はそ

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ういうことでケンカをするから、平等にやらせて牽制しなければならないのだ。云々…
……」
 説明の必要もないでしよう。奴らが何をおそれているかはミエミエです。
 私は、「思想・良心の自由がある。あんたがたの管理上正座して点検させたいという
のはあなたの勝手だが、それに協力する必要はない。あなたがそれによって困ろうと困
るまいと、関係はない。私は自分自身で納得のいかない規則にはあくまで従うつもりは
ない。私は自分自身で納得のいかない規則にはあくまで従うつもりはない。不服従の自
由はある。」奴は「そのとおりだ。じゃあ、どうすれば坐って点検を受けてくれるんだ。
夕べ暴力を使ったのは間違っていたと一晩考えた、それで、どうすりや坐って点検うけ
てくれるのか聞きにきたんだ。頼むから、ここにいる間だけでもそうしてくれ。女区で
どうやろうと、オレはそんなことにまで口を出さない。しかし、ここにいる以上、坐っ
て点検をうけてくれないか。」
 きのうとはうってかわった懇願調。「あんたが私を洗脳させないかぎり無理だ。私の
考えが変わらんうちは絶対に従わない。何をしてもムダです」とつっばねる。「馬面を
呼んで来て謝罪させろ」と要求すると、「謝罪させたら坐ってくれるか?」とカケヒキ

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に出てきました。
 「それとこれとは全く別問題だ。あんたとは、どのようなカケヒキもするつもりはな
い!」 奴はトホウにくれて「べっぴんさんの髭をつかんだり、あんなことして悪かっ
た。オレなんかおまえなんかにくらべりゃ、何もデケエことできんちっぽけな人間しかし
らん。秋田明大の獄中記を読んだか。あいつは池袋でオレのところにいたんだ。秋田明
大だってちやんと規則は守っていた。こんな“じじい”の言うことをきいたからって、
権力に屈服したというようなことじやないだろう。……今までそれこそ多くの人が拘置
所に入っていたが、みんな誰だって規則はキチンと守っていたではないか。徳田球一だ
って……」 すかしたりなだめたり。
 「私は私の考えがある。秋何トカとも徳田球一とも考えが達う。あくまで、私は私の
意志で行動するのだからいくら言ってもムダです。点検によって私の生活を乱すことを
許しません。トイレに坐っている時に点検にきたらトイレに坐ったまま、立っている時
に来たら立ったまま点検をうけます。もし、運よく、私がタタミに坐っていれば坐って
点検をうけます。坐っていたからといって点検のためにわざわざ立ち上がるということ
をするつもりはない。」 奴「そうか。じや、運よく点検のときにここに坐っているこ

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とを願うしかないな。坐っていてくれるように願ってるよ。そこに坐っている時に点検
にこれるといいがな……」
 奴は屈服したのです。奴は己れの力の限界をさとったのです。われわれは主客正常化
を一つ克ちとったのです。

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