支援運ニュース No.196

「敗北」をさらなる武器へ

1998/12/1  浴田由紀子


 お元気ですか。
 11月24日、裁判所は、大道寺・片岡両同志の証人尋問を東京拘置所での所在尋問(非公開)として行うという決定を出しました。
 その理由は、「82条2項但し書き(政治犯罪…は…常にこれを公開しなければならない)は、期日外尋問をいっさい許さない趣旨ではないと解すべきであり」(という独特の解釈にもとづいて)「大道寺及び益永が死刑確定者であり、死刑の執行に執行行為に必然的に付随する前置手続である拘置を受け、厳重な拘禁と処遇上特別な配慮を必要とする特殊な立場に置かれている……」から、公開は「困難かつ不適当」というものです。
 弁護団はただちに異議申立て、裁判官忌避を行ってこの不当な決定に抗議、撤回を求めました。しかし裁判所はそれも次々に「却下」して「12月24日大同時将司への第一回証人尋問を東京拘置所で行う(この期日は後日弁護人の申し立てにより延期になっています)。」「被告人は立会権がありますから、立ち合いたかったらその由東拘に申し出て立ち合って下さい。」そして法廷は終了した。第一次SAIKAI作戦は負けた。けど終わりじゃあない。本勝負はこれからだろう。
 弁護人は、ひき続き特別抗告や、弁護士会法廷委員会への申し立て等を行って、あくまで公平な、公開裁判の実現、憲法に違反する決定の取り消しを求めて闘い続けています。
 この決定において裁判所ははっきりと、「死刑制度」(死刑囚処遇)と「裁判公開の原則」を秤にかけて、前者を選択しました。弁護団・被告の意見に対し、あえて「82条2項但し書きは〜趣旨ではない」と強調していることは、この裁判が政治犯罪であることを認めつつ、「証人が確定死刑囚である」ことを唯一の根拠として「政治犯罪でも非公開にしうる」とするものです。裁判公開原則の骨ぬき化、なしくずし「改憲」を「証人が確定死刑囚であること」を利用してはたそうとしている。
 裁判所にとっては、法務省の「絶対非公開」の強い圧力の前で、考えうるあらゆる口実が完璧に粉砕されてしまったあとでは、唯一、ダイレクトに「特異な憲法解釈」と本音で開き直るしか方法がなかったということなのかもしれませんが、これではまるで、司法の独立も尊厳もあったものじゃあない。下級裁判所のしがない裁判官(本人達はそう思っているのだろうけど)のあくまで正義を貫く勇気のなさと、この保身と無原則が、どれだけ人々の基本的人権を切りくずし、生命を食って来たのか、そして今、憲法の基本理念を放棄し、司法の独立と尊厳をも放棄する実質改憲の大罪をも犯そうとしています。どれだけの自覚を持ってなされているのだろうか。
 敗戦後この国の憲法に規定されわざわざ82条2項に強調された裁判公開原則の歴史的教訓は、その根底から否定されようとしている。歴史的負の事実を「なかったことのように忘れ去ろうとする」性癖は、司法もその例外ではありえないのだろう。21世紀に向けて一部勢力が進める軍事体制作り、人権切りすてと人民の管理・支配強化・改憲の流れの中に、再び司法自らが身を投じる暴挙でしかない。

 21世紀に向かう世界の流れの中で、今回の選択がどれだけに誤ったものであるのかを知らしめる闘いは我々の役割なのだと思っています。イタリアで拘束されたPKK指導者(オジャラン氏)の引渡しをめぐって、イタリアが「死刑制度のある国への送還は憲法で禁止されている」とそれを拒否すると、トルコは早々に「死刑制度の廃止の決議を行った。」と報じられている。今や死刑制度とは、1つの国が他国と「対等」に交渉しようとする時、その信頼を不可能にする「じゃまもの」でしかなく、主権を主張するためには、放棄するに値する「時代遅れ」なのだ。
 そんな中でこの国は、国連人権委員会の勧告の2週間後には、3人の死刑囚への死刑を執行し、死刑制度を憲法の基本理念、司法の独立と尊厳に優先する「決定」を行った。どこへ向かって進もうとしているのか? 私達がなすべきことは、この「敗北」を敗北に停めることなく、さらなる武器へと転化していくことなのです。
 SAIKAI作戦が目指したもの、浴田裁判の役割が終わったわけでも、全部つぶれたわけでもない。相手がこんなだから、ますますその責任は重く、闘いは奥が深い。やりがいがある、というものだ。着々とその歩を進めよう。
 ともあれ、弁護団と私は二人に再会します。21年と半年ぶりです。お互いに闘い続け、生き続けて再会できることを、まず喜び合いたいです。すべては、それからだ! 二人との再会は、じっくりとゆっくりとつもる話しなどしたいのですが……聞きたいことも、伝えたいことも山ほどある。さて「雑談専化」の私は上手に話せるかな。しっかり準備しなくっちゃですね。ところで、「裁判所」じゃあない場合、座り方を工夫して円テーブル使うとか……「なごやかに」というわけにはいかんのかしら……。
 裁判は、二人の証人尋問に半年位を要するでしょう。そのあと他の同志達……。ここへ来てようやく浴田と事件の関係(これまでは、誰が被告だっても同じ内容の事実立証)そして、弁護側反対立証へと進みます。いよいよ本格攻防というところです。ひき続きいっぱいの知恵と力をかして下さい。「オーイ、出番ですよー」。
 寒い師走になりそうです。いっぱいの支援と共同を今年もありがとう。来年は、世の中も、私達も、裁判も飛躍する年になるでしょう。共に、21世紀を準備しましょう。
 仲間達、かぜに気をつけて、お元気で、再見!
                              ゆき子



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