支援連ニュース No.207

SAIKAI公判第2段は、楽しく進んでいます。

1999.11.10 浴田由紀子

 お元気ですか、今年は秋がゆっくり進んでいるように思うのは、私だけでしょうか。二千年までに、やり残している事が多すぎるせいかも知れません。冬が来る前に、やせている利明君と将司君にはもすこし太ってほしいと思っています。私の経験では、太ると寒さに対する抵抗力が少し強くなるようです。
 SAIKAI公判第2段は、楽しく進んでいます。10月20日で検事尋問を終了。11月4日から弁護人質問に入って利明君証人尋問はいよいよ佳境です。
 10月20日、検事質問は、尾行に気付いた利明君が狼会議に出たり出なかったりしながら、だんだん活動から離れていく過程。さらに、大道寺・S、二つのアパートの押収品写真を持ってきて解説させるというものでした。日頃から、不親切を旨としている被告人が「んなもん“知らん”で通したってええんでや」と、隣に座っていたら確実に足をけとばしそうな場面も含めて、利明君は質問の意図をくみとり、ていねいに答えていました。検事はしかし、「証人は、親切な人や、聞けば何でも、ていねいに教えてくれる」と調子にのりすぎたのでしょうか、あまりにしつこくせまって、最後には全てを失うというブザマを何度か演じてくりました。
 韓産研の頃、すでに実家に帰っていた利明君と韓産研爆弾闘争の関連は明らかにされなければなりません。検事は「4月5日にSの部屋で4本のうちの1本の雷管体を作った」という口実で、共謀共同正犯として起訴しました。事実はどうだったのか、当然この点は私達もくわしく聞こうと考えていました。
 検事「4月5日にS君のところへ行った後、具体的にはどのような事をしましたか」
 利明証人「…私とS君が一緒に地下で工作をしたわけです」(中略)
 検事「実際に雷管を作る作業ですけれども、どういう様な作業をしたのでしょうか?」
 利明証人「…ドリルで内部の穴をくりぬくという作業をS君にやってもらって、私が傍らで指導するという事をしました。〜横で見ながら指導するという事で…。」
 検事「指導というのは、具体的にはどういうような形でしたのでしょうか」
 利明証人「〜ひっかかったりして、うまくいかないというような場合に、ここはこういうふうにしたらいいというサジェスチョンをするというような事でした。」。
 こうして関与の程度「工作した」は、「サジェスチョン」にまで後退してしまった。始めの質問で止めときゃあ、「証人はSのアパートで管体作りを行った」というデッチ上げもあながち不可能ではなかったろうに、と考えるのは私だけだろうか? しかし検事はこりない。
 懸案の三グループの関係、一体であったのか否かのくだりでは、「かつての供述」をしつこく持ち出して、ついに証人から「当時の取り調べの検事さんの作文とまでは言いませんが、ニュアンスをちょっと、三者の一体性を強調しすぎているような感じがするんですね。」と遠慮がちに言われて検事は「最大の武器」であったはずの「かつての供述調書」の信用性を、次々と崩していくことになります。最後に供述調書の束を机の上に置いて、署名・指印を確認させた検事は、「署名指印するさいは、内容は承認した上で、署名・指印したという事で間違いないですか」と聞いた。
 利明証人「……細かい点で十分私のお話したとおりの意を尽くしていたかどうかという点は、まあ、後にその写しを私が読んだことがあるんですけれども、その点は不服があるという留保を付けておきます。」
 こうして検事尋問は終わった。証人同志はひどく疲れた様子で「ヤレヤレ」という風に肩をおとしていたが、それ以上に検事は、何の成果もなく失点を重ねてしまい、口をとがらせていたことをつけ加えておこう。

 11月4日、いよいよこの日から、弁護側尋問が始まりました。この日青チェックのシャツに紺のセーター、グレーのしもふりズボンで現れた利明君は、お行儀のいい大学生みたいです。入って来た直後、肩がハアハアしていて、顔が赤いのは、3Fまでの階段のせいか? 相変わらずニコニコしていて、うれしい。
 トップバッターは内田先生。クリスチャンとしての少年時代から革命運動への参加の契機。将司君達との出会い。反日思想形成の過程について。現在、反日思想として提起した加害者性の追求、ということが、この国の中であたりまえのこととして取り組まれるようになっていることについて、又、天皇制に対する問題提起等々について、今現在、利明君自身がどう考えているのか、というようなことを次々と質問。内田さんと利明君は、被逮捕直後から第一次統一公判を経て、すでに24年のつき合い。そのせいでテンポが早いのか、政治思想的な話しのためか、私にはフォローがむつかしい。おかしかったのは、70年安保直後、多くの活動家が運動から引いていく時期に、狼グループの同志達は、逆に研究会を組織し、闘争を深化させていく。
 弁護士「どういったところが、他の人々との分かれ目、違いだったのでしょうか。まじめというだけじゃあなくって、もっと具体的に」(これはむつかしい質問だぜと思いながら利明君を見ると)ウーンという顔をして……そのうち、テレたような笑顔に変わるとやおら、「他の仲間のことは、わかりませんが、私は、自分が関わったことは裏切れないというか……融通が効かない人間なのじぁないかな(と笑いながら。そして問い掛けるように)みんなサラリーマンになるのにねェ(とても不思議そうな顔をして)一直線だから、ハハ…」(『答えてなーい! ごまかしただろう』と思うけど、ま、いいか……)(ここにもいる「遅れて来た兵隊」は、さてどう答えればいいのだろうか?)
 反日思想や天皇制・天皇の戦争責任に対する彼の認識は、今も変わっていない(ただその闘いの方法については、まちがっていた)ことを確認して午前中を終了。

 午後三菱爆破闘争から声明文を出す過程について、内田さんが質問しているところで、不幸にもこの日の悲劇が起こってしまった。弁護人の質問に一つ一つ、苦しそうに答える利明君の考えを聞きながら、不覚にも被告人の目の奥に温泉が湧き出してしまったのだ。とにかく証人に見られないように、必死でメモをとり、とりつくろい……だのにちっとも勢いはおちなくって、検事はめずらしい生き物をみるような顔でこっちを見てるし。そのうち利明君まで、声を詰まらせて、……目から出る水をふいているじゃあないか。とうとう泣かしてしまって、ごめん。反省している。
 利明証人「三菱のあとでは、闘い続ける事が、一つの責任の取り方だと考えました。」その後もどれだけ用心しても次々と負傷者が出てしまう中で「私自身武争はまちがいじゃないかという気持ちがつよくなってきました」
 弁護人「そういうことを、グループの会議に出すことはありましたか。」
 利明証人「みんなと会えばつっぱって……(ネ!という顔で私を見てニガ笑いをしている)。ただ間組爆破で重傷者が出て、完全にブチ切れたといいますか……・」
 みんなと会えばつっぱって……闘う勇気をふるいおこし、客観的な自分達の姿を正視することもできず、本音を実はかくし合ってしか「前に進めなかった」私達の弱さが、「しんどいね」と言い、人としての弱さを認め合う勇気のなさが、私達の誤りをさらに大きくしてしまったのだよね。くやしいじゃあないか。
 内田さんの最後の質問は、「私との面会の中で言っていた“やるべきことはやつた”とはどういうことでしょうか」というものだった。
 利明証人「70年前後の頃は、日本が過去にしてきたことのあまりのひどさにガクゼンとして、罪責感をひじょうに強く持って、そういう自分の在り方を変えたいという所から極端な武闘につき進んでしまいました。やり方をまちがっていたけど、自分の良心に従って貫き通したということでは、やるべきことはやった。もちろん、全部とは言わないけど、獄中でやれることをそれなりにやってきた。過去反日と言ったから反日でなければならないとは思わない。武闘と言ったから、武闘でなければならないとは思わない。そういう意味で、やるべき事はやったということです。」

 続く藤田先生の質問は、狼と大地の牙の関係を中心に、始めて斎藤君の名前を聞いた頃から、大成爆破まで、順をおって進む。
 9月中旬頃、斎藤君のグループの名称を「第一の牙」と知らされた彼は「不思議だなあと思いましたね。まあ、第一だからの“自分達が第一だ”と思っているのかなと思ったのです。」「ヘーエ、第一の牙ねえ、ということで(レポの同志に)字もたしか書いてもらってたしかめましたから」。後日、彼らは新聞に出た声明文から「大地の牙」であることを知って「なんだオマエ?!」とレポの同志をからかうことになる。同志とのアレコレのエピソードを話してくれる時は、本当におかしそうに、吹き出したりしながらはなしてくれる。(将司君も、同志のことを話すときはよく笑っていたな。)
 三井のあと交替した大地の牙の連絡員に対する印象を聞かれた。証人は、実に言いずらそうに、その上一貫して、主語を「大道寺君の報告」にして証言したことを、忘れないでいようと思う。(ハハハ、しかし、その程度の配慮でこの人が手かげんすると思ってたら甘いで。)それにしても、11回の会合で将司君は、いつもニコヤカに対応してくれた。斎藤君かて声をあらげたことさえない。みんなようがまんして、不安をかくして、つきおうてくれたなあ。(事情により証言の内容は略です。)「無知、無自覚は、力」なのだろうか?
 次回はさらに、尾行につきまとわれながらの間闘争・韓産研から、被逮捕後の攻防と、獄中闘争へと、利明同志証言のクライマックスが続きます。私も最終バッターとして、今度は上手に直接質問を決めるつもりです。利明君に聞いてほしい事は、弁護団か、浴田の方へ、およせ下さい。受付中です。
 

 利明君は、とても楽しい人で、心配していた「反日思想」への今の立場も「変わりません」とわかって、なんだか私は、きばっていた自分がおかしい位に、安心しています。きっと利明君、同じような「まちがったイメージ」をもっているでしょう。直接質問は、彼が私に与えてくれた安心と同志への確信を、今度は私が彼に返せるものにしたいと思っています。準備をすすめます。
 冬に向かって、みんなご自愛なさって、お元気で!

ゆきこ 

YUKICO
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