支援連ニュース No.271

私たちには豊かな経験と教訓がある

2005/05/15 浴田由紀子

 支援連主催の五/一四集会はどんなだったでしょうか。
 三〇年間獄内外の私たちを支え伴走して下さった大勢の仲間たちが、この年月をたしかな力にして、次へ歩を進める確認の時であったのではないかと、ちょっと遠くの塀のうちから思いをよせていました。ことにこの年月、息子・娘たちを信じ、支え抜いて下さった父母を失ってしまったこと。三〇年は彼らにとってこそ、誰よりも重く長い年月であったのではなかったかと、あらためて感謝の思いでいっぱいになってもいます。これからは彼らの分まで、私たちが人々を支え返せる者でありたいと願いつつ、新しい三〇年をあらためて同志たちと、そしてこの三〇年間に出会い直しえたすべての仲間たちと共に歩みたいと思います。
 時代は、あの頃以上にこの国の歴史的な現在的な侵略と戦争・植民地支配・搾取への、この国を構成する一人ひとりとしての立場と責任を痛切に問われています。政府が悪い、侵略企業が悪い、軍部が悪いと百万遍となえることによって責任をのがれることはできません。どうその政策や活動を自らの問題として変えさせていくのかに、アジア・世界の人々と真に共に生きる道が開かれるのだと思います。私たちがなすべきであったこと……同じ課題を三〇年今なお、問われ続けていますが、三〇年力いっぱい生き闘ってきたが故に、私たちには豊かな経験と教訓がある。そして豊かな仲間がいる。闘いの方法や場所やはそれぞれにちがっても、それこそが、当時もちえなかった豊かさであることを確信して、持ち場からのシコシコの歩みを共に進みます。
 同志たち、仲間たち、出会いと共闘をありがとう! 私は支援の仲間たち、弁護団の大きな力でSAIKAIを実現して、人生で何にもかえがたい確信と信頼を実感できたし、この先何十年も何百年も共に生きる力をもらった。だから、いつかみんして必ず勝利を勝ち取れるのだとしっかりと感じることができています。とにかく体に気をつけて、みんなしてやりかけの仕事を少しでも進めよう。そして勝利を共に! です。
 
 同じ五月一四日午後一時三〇分から、ここ栃木刑では慰問会というのがありました。ゲストは鳥羽一郎、宇崎竜童、桑野?(「夢でもし逢えたら」というのを歌うラッパをふく中年お兄さん)で、当局の進行がずい分礼を失したもので申し訳ない終わり方でしたが、全体的にはとってもいいライブでした。私が知っているのは「あんた、あの娘の何なのさ?」だけだったりするけど、宇崎竜童ってチョーカッコよくって、久しぶりにミーハーの本性を丸出しに楽しみました。
 慰問はみんなとっても楽しみにしていて、ここでの生活を耐え抜くエネルギーになっているようです。ドサまわりのお芝居をやっている人たちやボランティアで上映運動をやってる人たちなんかも、もっといろいろな仕方で塀の中の人々を励ましてくれるといいなあなぞと勝手なことを考えています。ちなみに鳥羽氏は保護もやっているそうです。行刑法改革で今後は、こうした社会との「交流」ももっと豊かにeasyになっていくといいのですが。
 インパクションの深田さんが送ってくださった「インパクション」一四三号をこの連休にようやく(いっきに)興味深く読めました。送ってもらってよかったです。ありがとうをお伝えください。
 ことに特集の伊藤公雄氏「ヘイト・フォビアの構図」は最近のここでの同囚たちとの関わりの中で、これまで出合ったことのない人々、経験したことのない感情(多分出合ってても気付きさえなかったということなのですが)にとまどていたところなので、なんだか「ソーカ、そういうことなのか」とスットンと気持ちに落ち着きました。「癒しとしての憎悪・嫌悪」を多くの囚人は、本当に些細なことで同囚にぶつけてしまいますし、彼女たちの《犯罪》もまた同じ構造の中で起こっているのだろうと推測できます。下獄するにあたって私の課題の一つに、誰も二度と同じ誤りを繰り返さないために……再犯をどうしたらしないで生きぬけるのか、その方法(支援という意味でも)を探りたいということを考え続けていますが、坂上さんの取り組みのレポートにも関心はつきません。ここでの「S−Aの日(自己啓発の日)」のプログラム(videoをみせる)に、彼女たちの作成ビデオを推薦(orリクエスト)しよう、彼女の本『アミティ・「脱暴力」への挑戦』『癒しと和解への旅』を図書に備えるように要望しようということです。
 まだ試行錯誤の懲役姿勢ですが、今、ここにこうしていることが少しでも自分とささやかに人々を共に「解放」しうるものにすべく模索を続けるつもりです。外でがんばっている仲間たちの考えや活動も、もっともっと様々な角度から学びたいと思っています。
 五月の連休は、久しぶりにおちついて本やパンフを読みことができました。平野さんの入れてくださった詩集「反旗」(井之川巨、沖島正)は、声を出して繰り返し読んだりして、「空気」が入った気分です。原詩人通信号外は井之川氏の訃報でした。和君の本のために「大地の牙」の詩のお心当たりをとぶしつけな手紙に、お忙しい中わざわざ答えてくださったことをなぞ思い出しながら、労働者の地に足をふんばった闘いの詩を読みました。
 官本では小説がほとんどなので、やはり仲間たちからの人々の闘いの記録は、自分を捉え返す意味でも、見失わないためにも、元気の素です。桧森さんの本が届いているので一日も早く手にしたいとちょっとあせっています(ここでは届いたころに舎下げ願を出しても早くて二ヶ月かかる。その間に舎下げ手続き不要な雑誌が来ると、その分、「本」があとまわしになってしまう。読みたい順番を自分でやりくりできないのが難儀)。「監獄記」もまだ来ないのだ。官本では「大地の子」(山崎豊子)と「二つの祖国」(同)をこの連休に読みました。短い時間に貸出本を見つけなければならない(リストはない)ので、いつも行き当たりバッタリですが、一二年でここの本を読破できるかな! 長くいる先輩は「もうめぼしいものは全部読んで、官本の中には読む本がなくなった」と言っています。
 そんなこんなで、塀の奥深く、かなりノーテンキな懲役ライフをやっています。シャバの状況の大変さがなかなか毎日の出来事につながらなくって、夜中に一人でギリギリモンモンとしたりしながらも、やっとこをにぎってベアリングを組み立て始めると……。


YUKICO
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