支援連ニュース No.278

いっぱいのありがとうと、今年もよろしく

2006/01/08 浴田由紀子

 ずいぶんな冷え込みのようですが、お元気ですか。私の方は正月早々担当職員と行き違っていて、ちょっとガタガタ今後いろいろな事になるかもしれませんが、元気です。それもこれも「りっぱな懲役」になるための試練だと思って、あまり心配しないで下さい。
 事の次第はこうです。(中略)我が工場では昨秋来いろいろなトラブルが次々と起こり、ことにヤットコ派(ベアリング工)の間では、作業マニュアルもなければ、業績も系統性も考えようとしない中での作業員(懲役が他の懲役の作業の采配をする)の頻繁な交替や能力・資質に規定されて工場中がガタガタしていました。加えて1・5ヵ月位前からでしょうか、それまで同一材料同種(同じ製品ナンバー)のローラについては、ローラのロットナンバー(製造ナンバー)がちがっても一括して扱っていたものを、ローラのロットナンバーごとに分けて扱う(混ぜない)という作業ルールの変更がありました。以来我々平工員も作業員も材料(旧各人10種類くらいを扱います)が変わるたびにこのローラは前後のどの作業台と同じロットのものなのかに最大の神経を集中させなければなりません。
 1種ずつ順に組み立てて、回収して……ならそれでも大きな混乱にはなりませんが、作業は次々と新しい材料に切りかわり、皆のスピードは均一ではないので、日常的にローラや材料のやり取りをしながら調整して進めています。材料の量もローラの量も均一ではありませんが、そのたびにそれを受け持つ人数、人員の組み合わせは変わります。作業台の上には多いときは4種類(組立済、組立中、次に組立、途中までで中断したもの)もの材料とローラが存在します。その一つ一つについて、ローラが誰の台と共有かなんて、とても覚えていられるものではありません。
 平工員はメモもペンも使えないのです(作業員は15位の作業台を相手に走り回って、材料の配布・調整・回収をやっているのですから、なお難しいでしょうし、加えて分担もチームワークもありません)。当然ながら皆の神経はすりへり、ちがうナンバーのローラや材料を混ぜるニアミスや事故は頻発し、皆が不快な思いをし、限りない無駄を感じてきました。当初は私も「あんまりだ」と思いつつも、「そのうち何とか改善するだろう、別に難しいことじゃない。ロットの違いをひと目で識別できるようになればいいだけなのだから」と軽く考えていたのですが、何週間たっても一向に改善の気配がないので、12月末、工場担当に「この混乱を何とか改善提案をしたいのだが」と申し出ました。直接材料配布を担っている作業員に言わなかったのは、システムとして変更する以上懲役が懲役に直接言うのは「規律違反」だろうと思ったのと、言われた作業員もどう扱えばいいのか困るだろうから担当職員に提案して、職員が検討して可能なら職員からの変更提案として作業員に指揮するのが「刑務所のやり方」なのではないかと考えたからです。
 ところが、担当職員は何故か「そんな話は聞きたくない」という態度で、理由は「今忙しい」ということでしたが――実際彼女は超忙しい(一人の担当で80人の懲役のあらゆる問題、衣食住の手配から健康、作業のみならず、家族問題、同囚とのもめ事、心の深部の問題にいたるまで、面倒を見ることに加えて、我が工場には心身に病をかかえた人が少なくないのですが、彼女は実に誠実に熱心につき合ってくれる人です)ので、「簡単なことなのでメモ用紙をくれれば書きます」といったのですが、それも拒否。「来年に! こちらでも考えているから」と。
 で、年が明けて示された「改善策」が作業員3人体制です。チームワークなしシステムなしの作業員を2人から3人に増やしただけです(ちなみに平工員は28人)。ヤットコ隊の誰もがたまげました。作業分担もチームプレーもできない人々を2人から3人に増やしたら、ますます混乱するのではないかと不安にもなりました。案の定、第1日目新作業員は「私のやることないみたい」と困っていました。しかし、彼女は他の2人の新参落下傘とちがって、ヤットコ隊の大ベテランです。落下傘によってメチャクチャになった旧来の作業システムもルールも復活させ、ベテランの見地からローラ対策も打ち出せるだろう、加えてこの間のヤットコやハサミがトイレに逃げ出すような不可解も阻止してくれるだろうと期待しましたが……、一向にその兆は見えず、せっかちの私は、新しいシステムを導入するなら3人体制になった今がチャンスなのではないかと考え、再度担当に「改善の提案」を申し出ました。  がまたも、「今3人が考えてるので、浴田のアイデアを聞く必要ない」旨の拒否です。困っているのは作業員だけじゃない。混乱の中で黙って作業している平工員みんななのです(製品が不良になってどなられたりバカにされるのはいつも平工員です)。どうして少しでも皆の知恵を出し合って全体として働きやすくしていこうと考えないのか不可解です。それで再び待ちました。
 そして、2日目の午後突然、私たちの工場にはローラ箱の上にさまざまな色の巨大トランプのエースが立てられました。(前に工場は音だけ聞いているとパチンコ屋のようだと書きましたが)いまやついに視覚的にも(システム的にも?)カジノかゲームセンターか?! という風情です。当然我々平工員は「これは何だろうか?」と『?』で見ていますが、丸1日以上たっても、これがなにを意味し、どう使われるものなのか……ローラをめぐる神経すりへらしと混乱がどう解決or軽減されるものなのか、誰からもひとことの説明も通告もありません。当然ながら変化も解決も実感はありません。この美しく楽しい「エース」カードをローラや材料の油で汚したり傷つけたりしないように、もうひとつ神経を使わなければならないという仕事が増えただけです。
 で、三たび私は担当に「提案をしたい」由申し出ました。そして三たび「Not Your Business!(アンタの知ったこっちゃないよ)」と言わんばかりの対応(「話す時間がもったいないならメモを出すから、メモ用紙を下さい」というと「どの紙を使わせるか上司に聞かなければならない云々」)で、ついに私はプッツン!
 「『所内生活心得』には作業改善提案をするようにと書いてあるのに、そのシステムも態勢もないのはどういうことだ!」と「上司との面接願」を提出しました(この種の「願箋」を出すのはここへ来て初めてです)。何故ベアリング工場内のホンのささやかなシステムの改善(ロットナンバーの違うローラを混同しないように誰にも即座にわかる識別カードを配布しローラと組立ローラにつけてはどうか)の事をワザワザ工場の具体的な作業の流れも実情も知らない「エライ人」をわずらわせてしか聞けないのか……?!
 私が担当ともめているのでびっくりした仲間たちは、「どうしたの、何かあったの?」と心配していますが、私としては、直接平工員や作業員の仲間に呼びかけるほうが早いと思いつつも、ここは筋を通すべきと自粛して、「イヤ、ナニ、作業システムの事で」とあくまで内容にはふれずに口をにごしています。いまだ30歳代の懲役生活の先輩は、「ハハハ、浴ちゃん、あんたがバカだ。担当とぶつかったりして自分が損するだけ。作業員がやりづらかろうが、失敗しようが、不良品がどれだけ出ようが、あんたの責任じゃあないんだから、ほっといたらいいのよ。あんたが心配してやることはない。頭を使うだけ損だよ」と一喝。あらためて「見ざる、言わざる、聞かざる、せざる……」の懲役処世訓をさとされました。
 懲役労働ではあっても、「仕事」をするのである以上、生産性を考え、皆が気分よくやりがいのある仕事にしたいと考えてしまうのは、やはりまだまだ「いっちょまえの懲役」には遠いようです。以後は心がけます。それにしても何故ここまでかたくなに、平懲役の提案することさえもが拒絶されるのか疑問です。言わせて採用しないと、**とか「パテント料」とか「アイデア特権」を主張したり、同囚に自慢するとか、「所内生活の心得」に書いてある「表彰」ねらいとだとでも思われているのでしょうか。だとしたら私もずいぶんなめられたもんだ、ちーっとみっともなさすぎる。しかしこれが、当局にとっても「懲役の実態」なのでしょうね。
 さて、今年は東拘の未決同志たちには節目の年ですが、お互いに今ここにこうしていることが何とか誰かの少しでも「力」でありうるように、可能な取り組みをしていこう。少なくとも進行しつつある歯止めなしの弾圧強化の前例を作らないことを当面の使命と考えて。シャバも獄中も人間として人間らしく生きぬくことは、日ごとに困難な時代ですが、つながりあって共にあることを何よりの力にして元気にやって生き合いたいものですね。いっぱいのありがとう、と今年もよろしく!


YUKICO
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