爆発物鑑定人への証人尋問を傍聴して

               湯浅欽史(狼再審研)

 12月11日は、(株)間紅(現・ハザマ)本社ビル同時
爆破事件[〈牙〉が6階、〈狼〉が9階]で、鑑定人
2人と見分調書作成者1人の計3人の証人調べがあり
ました。連続企業爆破の検察立証に入ったころは、負
傷した元警察官や予告電話を受けた人とかも証人とし
て出廷していましたが、最近はもっぱらこの二種類の
証人調べが事件毎に進行しているようです。
 見分調書を書くのは爆発現場の地元の警察署の警官
なので、今は退職して楽隠居風の人もいます。鑑定書
はもっぱら警視庁科学検査所(現・科学捜査研究所)
の人が書いていました。70年代中頃に続いた爆弾事
件は、したがって同じ人が手がけていることが多いの
です。傍聴に行くと、浴田さんの元気な様子を目の当
りにすることのほかに、狼による三菱重工本社爆破事
件に関連して、浴田法廷での鑑定証人の発言を通じ
て、当時の鑑定作業の進め方や鑑定人気質や捜査担当
者と鑑定作業者との関係やらをおぼろげに想像するの
に役立ちます。この日は、鑑定証人2人分だけ聞い
て、早退して帰ってきてしまいました。
 爆発事件に関する鑑定項目を私の関心に沿って分類
すると、まず爆薬の種類、それをどんな容器に詰めど
んな包装をしたか、どんな着火装置(雷管などと時限
装置)か、そしてそれらを総合してこの爆発物の威力
を推定し現場の破壊状況との整合性を検討する、と
いったことになります。作業としては、様々な器具や
計測器を使う化学的・物理的なイオンや元素の分析作
業、金属片や針金や時計部品や印刷跡や傷痕やらを調
べる機械的・形態的同定作業(新しく買ってきた対照
物品と較べる)、そして漏斗孔・建具等の損傷・什器
類の変状・窓ガラスの破損など爆発威力の現れ方に関
する検討(力学的な議論)です。
             *
 最初は滝沢寛冶さんでした。彼は山梨高専電気通信
科を卒業して、S・23入所、S.61まで実に37年間こ
の仕事一筋だったようです。電気・機械関係の部署に
いて、火災の出火原因を調べる仕事もしました。三菱
重工本社やアメリカ文化センターなどを含め、爆発物
の時限装置は十数件手がけています。狼が書いた爆弾
“教則本”『腹腹時計』は、“パラパラっと”見たこと
があると答えていました。
 再審研でやっている「勉強会」の気分を引きずって
か、川村理弁護士の反対尋問は、トラベルウォッチに
手を加えて時限装置を作っていく具体的なやり方や作
動原理など、“その道”の玄人っぽい内容に入ってい
きます。老いたりとはいえそれなりに職人カタギを残
している滝沢さん、古い話を思い出すようにしなが
ら、過ぎ去った人生の存在証明に関わることなのだか
ら、満更ではない声色で、丁寧に素人向けの説明をし
ていました。
 「トラベルウォッチを改造して時限装置にするには
アゲバネ式かシュモク式しかありません。それらの実
験や一般的な研究もやっていました。シュモク式はベ
ルを鳴らす装置に加工するので機械的に大きく動く部
分があって不安定です。衝撃でシュモクが動いてし
まって暴爆したり、逆に不発になったりすることもあ
ります。その点アゲバネ式は、時針が突起歯車にの中に
入ることによって作動するので、時限装置としては安
定しています。現場発見物の破損したトラベルウォッ
チには、リンの一部に加工痕がありましたし、時針が
歯車の中に入った状態でした。云々……」【筆者が分り
やすい文に書換えた】
              *
 もちろん、浴田裁判を傍聴していれば狼再審に直接
役に立つ新証言がすぐに得られる、というわけではあ
りません。とはいえ、こうやって鑑定人たちと法廷で
付合っていくことによって、いろいろに想像力が喚起
され、三菱に思いを馳せ、再審理由への考察を深めて
いく契機となってくれます。もっと直接には、20余年
の歳月を越え、弁護権を実質制約された悪条件に屈せ
ず、「大地の牙」の真実を探り出し、浴田由紀子さん
の減刑への道を一歩一歩進んでいるんだ、と実感させ
てくれます。
 続いて、日大工業化学科卒で警視庁にやはり37年
間勤務し、印刷や用紙部門(筆跡鑑定を除く)を担当
し、「容器は明治粉ミルク1,350g缶」という鑑定を書
いた小林侑さんが証人台に立ちましたが、この項は省
略させていただきます。これからもあと何年間か、い
ろいろな人が、多様な関心を抱きつつ、様々な視点か
ら、この浴田法廷を見守っていけたらいいな、と願い
ながら、一人席を立ちました。     1997.12.14


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