訴訟進行に関する意見書●全文
               死刑確定者証人の裁判公開を求める

九月一一日の公判で読み上げられた弁護人から
の死刑確定者証人の裁判公開を求める気迫に満
ちた意見書を全文掲載します。さて、東京地裁は
どう応えてくれるのか? しっかり! 裁判所!

訴訟進行に関する意見書

 右被告人に対する爆発物取締罰則違反等被告事件
に関し、弁護人は次のとおり訴訟進行に関する意見
を述べる。
                   右弁護人

   一九九八年九月一一日

東京地方裁判所 刑事第五部 御中

         記
第一 死刑確定者証人の裁判公開を求める
一 被告・弁護人は、当公判延において、これまで
繰り返し死刑確定者証人の裁判公開実施を訴えてき
た。
  この問題に関し、我々は、今後、いささかも妥
協する意思はない。

二 ところで、近時、東京拘置所所長山下進は、福
岡地方裁判所継続中の民事訴訟において、死刑確定
者大道寺将司、同益永利明の口頭弁論出廷問題に関
し、八月一四日付にて「上申書」を提出してきた。
  右「上申書」においては、死刑確定者を出廷さ
せ得ない理由が纏々述べられているが、その内容
は、本件においても重大な関連を有することから、
以下にこれをとりあげ批判することとする(「上申
書」を末尾に貼付)。

三 第一に、右「上中書」は、右死刑確定者らの裁
判所への出頭は「極めて困難な状況」と述べている
(三頁六、七行)。
  右「上申書」が言うように死刑確定者の出廷が
何ら困難でない理由は後に述べるが、それはさてお
き、まず、注目に値するのは、東京拘置所自身が、
出廷を「不可能」とは表現しえずに、「極めて困難」
と言うにとどめている点である。すなわち、拘置所
から見ても、死刑確定者の出廷は、不可能とまでは
とうてい言えないことが、右表現から逆に明らかな
のである。
  すなわち、死刑確定者証人の裁判公開を求める
被告・弁護人の意見は、十分に実理可能な理実的意
見なのであり、我々は決して無理難題を述べている
わけではないのである。

四 第二に、右「上申書」は、「被収容者の民事事
件の出廷については、本来拘置所の業務としては予
定されていないところであります」と述べている
(三頁一〇、一一行)。
  しかし、本件は、刑事事件であるから、右のよ
うな言い分は一切通用しないことは明らかである。
  既に述べてきたとおり、刑事事件においては、
民事事件以上に公開の原則は厳格に貫かれねばなら
ないのである。
  参考までに言うと、受刑者の裁判を受ける権利
に関し、それが裁判所に訴えを提起する権利に止ま
り、裁判所に出廷して自ら訴訟を遂行する自由まで
は含まないと判示した東京地判昭和四五・一二・一
四においても、「民事、行政事件について言えば」と
限定を付して判示しているのであり、刑事事件にお
いては、出廷の権利を含むものと認める趣旨であ
る。

五 第三に、右「上申書」が、死刑確定者は、判決
の確定力の効果として、拘置されているから、「そ
の拘禁、戒護に当たっては、最大限の配慮を要する」
と述べている(四頁最終から五頁冒頭)。
  しかし、未決勾留や受刑者と比べて、死刑確定
者の拘禁、戒護を殊更に強化する合理的理由は全く
ない。在監者の種類を問わず、「逃亡防止」という
要請は等しくに存在するのであるから、例えば、未
決の拘禁は多少緩やかでもよいが、死刑確定者の拘
禁は極めて厳格でなければならないという理由はな
いはずである。
  また、未決拘留者は、それが如何に「危険人物」
であれ、判決に至るまでは法廷に出廷させねばなら
ないことは明らかであるから、それを前提として拘
置所の戒護もなされているのであり、かつ、それに
よって十分にに現在の実務は機能しているのである。
にもかかわらず、死刑確定者であれば突然それが出
来なくなるという理由は何もないはずである。

六 結局、東京拘置所が、死刑確定者の出廷をなん
としても回避しようとする根拠としては、右「上申
書」五頁以下に纏々述べられている「警備上の理由」
でしかないようである。
  しかし、そもそも、公開裁判を受ける権利とい
う被告人の基本的人権は、単に警備上の都合である
とか、東京拘置所の「職員配置上の余裕」や「予算
の範囲内」等という根拠で制約されることを決して
許さないものである。
  また、既に述べたとおり、かつて丸岡修の控訴
審において、東京高裁小林充裁判長は、浴田由紀子
の期日外尋問を実施しようとしたが、この際も、そ
の理由は、「警備上の都合」とされていた。その後、
弁護人等の強い反対から、右期日外尋間は結局撤回
されたが、その結果実施された公判期日において
も、警備上の問題は一切生じていないのである。

第二 東京拘置所所長による公判介入は許されない

一 結局、裁判実施の場所にまで口を挟む東京拘置
所長山下進の所論は、そもそも自らは本件の門外漢
でありながら、実質その手続内容に介入せんとする
ものであり、身の程知らずにも程があるといわなけ
ればならない。

二 刑訴法一五三条、六五条三項の趣旨からして、
刑事裁判においては、監獄の長が、裁判所からの証
人への召喚状を無視し得ないことは明らかであり、
東京拘置所所長は、裁判所の決定に絶対服従すべき
である。

三 これまで述べてきたとおり、本問題は、被告人
の憲法上の権利や国民の知る権利に関わる問題であ
るから、公開裁判が望ましいことは言うまでもな
く、その方が公判進行が円滑であることも既に述べ
たとおりである。
  そして、裁判所も検察官も、内心では、公開期
日の実施を望ましいと考えているには違いないので
あり、そうであれば、自己の良心に従った意見を述
べ、決定をなすべきである。
  よって、公判期日における証人調べこそ、我が
裁判所の唯一の選択肢である。

四 従って、当裁判所においては、断固、死刑確定
者両名を証人として法廷に召喚すべきである。これ
に対し、東京拘置所所長山下進が反逆することは決
して許されない。仮に右山下がこれに反逆するなら
ば、当然に、勾引状の執行を行うべきである。

五 その程度のことすらせずして、司法の独立など
保たれるはずはないし、それすらもしかねるような
裁判所に対しては、弁護人としても、今後その手続
に協力しかねる場合がありうることをあえて付言し
ておく。
  周知のとおり、「刑事法廷における弁護活動に
関する倫理規定」第二条は、正当な理由のない不出
頭、退廷および辞任等を禁じるものであるが、裁判
の最重要証人の取調を公開法廷にてなされるべく働
きかける行為が被告人や国民の利益に沿った正当な
ものであることは、言うまでもないことである。

六 なお、本問題については、公判の進捗状況次第
で重ねて意見を補充する予定である。
                     以上


RINRIN HOME
inserted by FC2 system