出廷記

浴田由紀子

 約一ヶ月ぶりの公判出廷、仲間達は元気だろうか。風邪をひいてないように。公判がたてこんでくると「追いつかな〜い」と焦るくせに、あいだが開くとちょっと不安になる。
 今回の証人は、爆破点付近を検分したグループの補助者。(調書作成者は死亡したため)バリバリの現役警察官、渡辺某 四十九歳。ところが!登場した証人は「暴力団対策課」をやっているだけあって、頭(髪型)はそれふう、体つきもなかなか…。なクセして何故か、ちょっと元気じゃない。(公判が進むうちにいろいろと声のトーンを変えて喋るのは上手とか、わかったけど!)検事の形ばかりの質問に、ほとんど「○○係長のやったことです」、「私は知りません」…『仕方なくここに座っていますが、私の知ったことじゃないんです』と言わんばかりのムクレタ態度。
 そして弁護人の質問になった。「証人は愛宕署にいて、爆発後に駆けつけた。その経緯は…?」等に対しても、どこまでが事実でどこまでが憶測なのか解からない答え方をする。(検事に教わらなかったのかしら!)
 調書の中に彼の名前が「立会人」として記入されている。弁護人はその経緯も聞いた。「あなたは実況検分補助者であるにもかかわらず、立会人も兼ねているのですがどうしてですか。ふつう、立会人は管理責任者(公正を期し得る人)ということになっているのでは…」
 すると証人「えっ!立会人に私が?!どういう形でこうなっているのですか?」(それをアンタに聞いてるの!)。弁護人「調書にあって、名前ものってますよ…」 「う〜ん……私が橋本さんの手帳かなにかみつけたのではないですか」と証人。オイ、オイ、オイ、ちゃんと準備してきてほしいよな。いちおう!相手はアンタラが目の敵にしている『赤軍』なんだからな「守り」はそれなりに固めてきてくれよな。(舐められとんのかしら、上手な芝居なのかしら?)
 彼は今回、証人になるために古い調書を「公安第一課に見せてもらいました」ということでやってきたのでが、何を準備したのだろう?それとも彼らも「日本赤軍ナンボノモンジャ!ノラリクラリかましたれ!」とかいって、つっぱるまねをしとんのかしら。(ちょっと考え甘いで!)そして彼らの調書は、爆発当日と翌日の二日間にわたって現場付近を検分したことになっている。さて、問題は前回証人(三井不動産)の「徹夜で修復工事を行ないまして、翌日は朝から通常勤務を補償いたしました」との矛盾である。現場保存は果たしてどのように行なわれていたのか。あるいは、どちらかの記録や証言に誤りがあるのか…。
「検分はどこから順に行なったのですか?」
「覚えておりません」
「ふつうどちらから?」
「ウ〜ン…周りからやっていくちゅうのがセオリーですね」…。
 最後の、裁判長からの同主旨の質問には背をのばして、声の質を変えて「ハイ!そうです!」。ナンヤ、アンサン!このくらいの『試合』にびびって態度変えたりせんと始めから堂々とやらんかい。
 というわけで検察側証人の手持ちカードはもうない。ということになって、我々は不同意調書のいくつか(証人が死亡etc…)を同意することになった。すると裁判官は「被告人、前に出て」。
「アン、何です?(何がおこるの?)」いつまでたっても、あの法廷のど真中の蟻地獄の底みたいな空間に引き出されるのは慣れるということが出来ない。検事は、色の変った「調書」をドサッと、持ってきて一ページづつ捲ってみせる。なにがおころうとしているのかよくわかっていない。調書を捲る検事の手が。「これが図面No7ですね」という声が、なぜかルンルンしているように思えて、警戒心が、不安が…。弁護人が助っ人にきてくれて、こういうとき気の弱い小心な私は、すがりつくか誰かの影に隠れて事態の推移を見守りたいタイプ(ほんとか?)なのに検事は次々と四冊の調書を捲ってみせて、さして何事もなくつづく二冊の要旨を読み上げて…三井物産館爆破闘争に関わる検察側立証はひとまず終了した。(しっかり反証してやっからな、まってろ!)
 次回は、『大成』についての「証拠請求」が行なわれます。(短時間の事務手続きのみで、すぐ終了すると思います)そして、二月十八日の公判から、『大成』に関わる検察側立証が始まることになります。三井については、第一次統一公判でいっさい取り上げられなかった(『大地の牙』独自の闘争)のですが、『大成』以降のものについては、第一次統一公判の同志達も一部、宇賀神同志も「共謀」だのなんだのにデッチ上げられたりして…本格的に第一次統一公判の中身を問うていくことになります。(『種』がごろごろというわけです)いかなる手抜きも許せません。ひとつひとつ丁寧に、なぜに、なにがどう起こったのか明らかにしていこうと思います。 獄内外の同志達、いよいよ出番だぞー!内からも外からも、知恵と力を結集してください。チームワークを大切に力強く闘い進めます。傍聴の仲間達、寒くって忙しそうな中をありがとう。遠くから来てくれた仲間もいて、いつもとても励みになります。今年もよろしく!共に闘い進めましょう。
 再見!


傍聴記

木戸菱安

 年がかわった一回目、約一ヵ月ぶりの公判。開廷時、傍聴人は一ケタだったが、途中からボチボチと増えてなんとか十一人になった。
 今日の証人は一人だけ。現職の警察官で、事件当時は愛宕署勤務・知能犯捜査係の巡査の渡辺某、爆心地点を中心に実況検分を行なった。検分の補助者ということで、責任者である係長(吉越某)の指示を受け、計測や図面描きを行なったそうだ。例によって「調書の内容を読んで誤りとか有りましたか?」という検事の質問に「ないです」と答え、検事の尋問は十分ちょっとで終わった。
 弁護人の質問に移ったがこの証人、下を向きボソボソと答え、やる気なさそ〜に不貞腐れた態度でほとんどの質問にたいし「覚えていない」「はっきりしない」「〜じゃないですか」「〜だと思います」と答弁していた。
 いくつかを紹介しよう。
「現場到着時、交通規制は?」、「担当でないのでわからない」。
「実況検分をまとめたのは?」、「吉越さん(係長)じゃないですか」。
「どういう根拠で吉越さんは立会人を選んだの?」、「わからない」。
「見物人が沢山いる中で検分したの?」、(弁護人は見物人が沢山いる写真を示しているのに)「やったと思うんだけど…」。
「爆発した三階以外のフロアーについては?」、「三階の記憶しかない」。
「廊下と爆心地の検分、どちらが先?」、「はっきりしない」。
「削れた穴の形をとったりした?」、「していない…別の人がやったかも知れないけど」。
「(二日間かけて検分を行なったとしているが)一日目にやり残したことは?」、「わからない」。
「一日目と二日目の現場の保存は?」、「ちゃんとやったと思いますが…」。
「補修作業をやったのは?」(前回公判で鹿島建設が下請業者にやらせていることがわかった)、「覚えていない」。
「そうだとしたら(補修作業をやっているとしたら)二日目の検分は意味をなさないのでは?」、「覚えていない」。
というように終始このような答弁を行なっていた。『パスポートのとき』と違い、『三井物産』の審理に入ってから、こういう奴は出てこなかったので一種妙な「懐かしさ」を感じた。
 さすがの裁判長も証人がこういう態度なので、弁護人尋問の終わったあと、いささか怪訝そうな顔つきで「あなた自身が検分した場所は覚えている?」と質問した。渡辺某は「爆心地点周辺はあとで。先に外側から検分を進めていった」とか、「一日目にやったと思うのですがはっきりした記憶はない」など、ここまで五十分程。それにしても一体何のために彼は呼ばれたのだろうか?
 次に弁護人から、被告の「罪状認否」について実況検分調書のうち何点か、予告電話を受けたコマバさんの電話の内容や、橋本さん(怪我をした人)の被害について同意すると述べられた。
 続いて、浴田さんが証人席へ呼ばれた。なにが始まるのかと思ったら、検事か調書を見せて同意したものについて確認させているようだった。終わったのは十四時半過ぎ、今回で『三井』は終了、次回公判は証拠申請のみ。そして二月の公判から『大成建設』の審理に入る。果たしてどのような事実が明らかになるのか。我々はしっかりと傍聴態勢を固めよう。
 浴田さん、□○は良性でほっとしました。


HOME YUKIQ  schedule
inserted by FC2 system