第二四回公判出廷記

(九七・三・五)  浴田由紀子

 心掛かりなニュースが頭にはりついている。『持ち場の斗いに全力をかけないといけない』と思いつつ、このところちよっと落ち着かない。
 大成建設検事側立証の二回目・入廷してきた仲間達の笑顔に、とても励まされ、心強くなってくる。そうだみんながいる!一人一人と直接に見合うと、その思いがますます強く伝わってくる。
 さあて、今日の証人は三人だ。始めの羽島某氏は当時、三井物産をかかえる愛宕署勤務。今回の検分班の中には、前々回証人出廷した渡辺某氏もいるのだが、彼自身は三井物産には関わっていない。羽島某氏はここに来る前に調書を読み直し、検事との打ち合わせもやったのだが、「一度だけ」だったりするので、ほとんどのことが、「記憶にございません」!。
 彼の検分領域(大倉本館ビル=爆破点に面したビルの4S9F)で見つけた被害は、「はめガラスの漆喰がパラパラと落ちていた」というだけで、それが爆発によるものなのか否かは「解からない」そして、同じ壁の爆発地に面した側について彼らは、「検分しておりません」のだから…。
 続く証人の宇佐某氏ば、大倉別館ビル(大成建設の道路を挟んで向かい)一階、二階を担当。このビルは雑居ビルになっていた。彼は当時、久松署で強行犯を担当していて検分の経験は多いというので、弁護人は聞いた。(思い出してほしい前回証人の大縁氏は「強行犯の実況検分は、とにかく大雑把なんてすよ。“コノヤロー”と言って済むようなところですから」と言っていたのだ)「前回証人は、“強行犯”は大雑把だと言っていたのですが、証人の印象は?」(一瞬の間。そしてきつぱりと!)「個人差がありますので!」(ヨロシイ。私も安心したよ!)そして彼は、三菱重工の時も重工ビル六階をやって、証人出廷もした。彼にとって「三菱は、はじめてのアレでしたので…すが、本件の場合は…」ということで印象は簿い。彼の担当領域は、隣のビルであったにも関わらず「窓ガラスにヒビが入ったり、わずかな穴が開いてたり…という軽い感じのものでした」…「怪我人もなく、職員は慌てふためいている様子もなく、仕事を続けていました」というものだ。最後に裁判長の質問に対し、「鹿島建設の四階も検分した」と言うのだが。弁護人は、私も「知らん話やなあ?」と思ってる。
 というわけで最後には、能勢某氏。始めに裁判長が「『能勢』はむづかしい方の字を書くのですね」と話しかけたら、「はい、戸籍を取ってみましたら……『生』と書くんです」…ワン!ナンの話や!証人は、話し好きなオッチャンやということがわかる。エカッタ、オモロソウ!
 検事が形通りの質問を始めた。「証人は実況検分の経験は相当ありますか」…「“金庫荒らし”とか、“強盗”をやっておりますから…なにやったかはもう歳で…」。
「いえ、いっぱいやっているか、そうじゃあナイか」
「結論的に言いますと、捜査係は日中、現場に行きますから…」
「何回やったことがあるか?」
「まあ、やっております」
というふうで、『起承転結』をしっかり踏まえて回答しようとしているのがよく解かる。耳も少し遠い。(検事は手抜きせんと、ゆっくり大声で聞かんかい!)なのに彼は「集合した所で担当を決められたと思いますが、何しろ普通のことだって忘れていることが…言おうと思ってやって来ても二二年も前のことですから…もうわかんないんですよ」(本当にそうだ!)それでも、調書に書いてあることは、いっしようけんめい思い出してくれて、「初害は北側、爆心地に面した窓が壊れていたのだが、階を追うに従って」…「そう、そうなんです。少なくなっていく」、「いや、オッコッテいないんですよ(破片も)」。
弁護人、「爆破の時間は解かりますか?」
「まあそれは(私が行く)前ですね」。(そりゃそうだ)
 尋問終了後、裁判長は「ご苦労様でした」と、証人は立ち上がって「本当にすみませんでした。耳が遠くて…」(いえ、こちらこそです)
 次回の証人の一人は、待望のパスポート裁判の筆跡鑑定人!これで“パスポート・デッチ上げ起訴”が、科学的にも証明されるというわけだ。検事のニガリキッタ顔が楽しみ!加えて彼らは「年度末までに」と約束した「超法規答弁書」を出して来なくっちゃだ!さて、いよいよですね。
 もうすぐ将司君達、確定から一○年だ。いろんなニュースもあるけど、新しい時代に見合った陣形の確立に、確かな契機にしていこう。
へこたれてはいません。
共に闘い進めます。みんなお元気で!
春です。再見!
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◎発送遅れてすみません。原稿は浴田さんから三月七日に発信されてい
るのですが、東拘か郵便局でトラブったのか、未だに届いていません。
この原稿は再度、書き直して送ってもらいました。編集より
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第二四回公判傍聴記

湯浅欽史

 私は「ゆきQ」の会議にはほとんど出席せず、もっぱら裁判の傍聴に専念してきました。今回は法廷でのやりとりではなく、感想を書かせていただきたいと思います。
 まず第一に憤懣やる方ないのは、裁判長の訴訟指揮についてです。浴田さんが捕まった直接の容疑である旅券関係と逮捕までの経緯に続いて、まず超法規的措置をめぐる争点に入るべきなのです。「大地の牙」が遂行した闘いが今回の裁判になじむか否かをめぐってなのですから、その結論が私たちの主張通りになれば、三井物産爆破や大成建設爆破についての審理は無意味・無駄な作業になってしまうからです。一旦は勝手に終わりにした反日武装戦線の「統一公判」を再開するのかどうかを先に争わなければなりません。そうではなく当時の爆破事件をやっているということは(裁判長が予断を持って)言い替えるなら、この点に関して「検察勝訴の判決を先取りした訴訟指揮をしている」ということである、アンフェアーこの上なしです。日本の裁判制度は、裁判長の説明責任を問わない密室性を持っています――本来の趣旨は、時の政治権力からの独立保障だと思いますが、そんな“お自洲”を打破できない無力を梅しく思います。
 さて、この何カ月かは、三井から大成へと検察の立証が続いています。爆破現場の状況や被害(者)の状況に関する証拠書類を弁護団が認めなかったので、それらに関与した人たちを検察が証人に呼んだのです。多くは現場の実況検分調書を書いた、当時の警察官ですが、ほかに予告電話を受信した人とか、爆発物を検索中に傷を負った警察官などでした。
 それが公務中の警察官であるとはいえ、やはり傷を負った経緯とその後の状況(人生の成行き)をナマミの人間から直に聞くことは、とても辛いことです。反省とか後悔とか評価・総括とかいう以前に、(論理的回路を経ない)もっと直接の生理反応として、こたえました。そういう現実を含めて七○年代の反日の闘いがあったのだということを改めて追体験させてもらっている。その上に今の再審研究や死刑廃止の運動を築き上げていくんだと現在進行形で受けとめています。傍聴席にいても、ある種の辛さに目を(耳を?)背けそうになるのに、被告席の浴田さんはそれに耐えて明るさを失わないでしっかりと目を見据えているんだと思います。そんな浴田さんに敬服の眼差しを向けながら、何メートルかの傍らで共にしっかり聞き止めることが、少しでも浴田さんの幸さを分け持つことになるのだと自分に言い聞かせて傍聴に通いました。これは自分一人の勝手な思い込みかも知れませんが。
 当時の警察官のうち何人かはすでに亡くなり、何人かはもう、証言台に立てない肉体条件になっています。証人として出廷した人の多くも、調書を予習し検察官と打ち合わせてきているにもかかわらず、それでもほとんどの事柄が“忘却の彼方”へと霞んでいるのは、二○余年を経て当然といえるでしよう。弁護人が反証しておきたい事柄、例えば当時の警備や捜査のやり方のまずさによって、人身被害が生じたことを示す具体的な、人員配備や行動指示といったことにも「記憶にありません」が帰ってきます。傷害罪か過失傷害かは雲泥の差ですから、こんな検察側の「不十分な立証」は刑事訴訟法からいえば「被告人の利益に」なるハズですが、悔しいかな日本の裁判ではそうはならないでしよう。
 まだ現役の、だから肩を怒らせた反抗的な証人は別として、すでに老境に入っている耳や目がおぼつかない証人が、それでも精一杯なんとか思い出そうと努力している姿に(それが敵性証人なのに)つい、応援したくなってたり、どこか親しみさえ感じてしまいます。私がこんな緊張感を欠いた傍聴人であること、大まじめなやりとりがマンガチックな絵空事に見えること、この眼前に展開している非現実的オカシサは、何かが何処かで間違えて空回りしている虚しさを漲らせています。
 それは何なのだろうか。それこそがこの浴田裁判の本質なのだと考えてなりません。それは、権力が自分で放り出したものを四半世紀の時間を隔てて、もう一度恣意的に蒸し返そうとしていることのバカバカしさが生んでいるのです。よしんば超法規的措置の取消しが許されるとしても、そして現行法の時効規定がどうあれ、社会的実体としてはすでに済んで決着していることを「墓を掘り起こして調べ直す」ような作業だからです。個人の情念なら「オトシマエには時効はない」といえますが、体制権力の側が無意味を人々に強いることに、強い怒りを覚えます。百歩譲って不法はないとしても、明白に不当、かつ公正を欠いています。
 なお、浴田裁判での私にとっての具外的成果は、「狼」による三菱重工本社爆破の鑑定人でもあった荻原嘉光が証人として出廷し、彼の作業のやり方などを直接質すことが出来たことです。当紙一六号(九六・一一月)をご参照ください。
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『投書』欄を開設します

 皆様には日頃、ゆきQスケジュール通信をご購読していただき、誠にありがとうございます。このたび、表紙も新たに替えるとともに『投書』欄を開設することにしました。
 今まで、当紙は被告の出廷記・傍聴人の傍聴記を報告するのみでしたが、どうもこれだけでは、読者にとって一方的に情報を流すだけに留まってしまい、読む側には「ふうん、こんなことがあったのか。大変ですね!」と、思われるだけで終わってしまうのではないでしようか。ただ「疑わしい」だけで罰しようとする権力の弾圧から被告の立場を弁護するには、それこそ奇想天外な“智恵”が必要になってきます。また、公判のたびに、こちら側の見落としがちな点を見直したり、検察側の弱点を突っついてやるためにも、ぜひ皆様方のより広範な意見が、多くの人の目にとまったほうが良いと思います。
 『投書』には、どんな人・どんな立場の人でも基本的には参加できます。「救援のために〜」などと、気負って考えることはありません。また“裁判”と言うと、とかく難しい法律用語とか考えてしまいがちですが、当紙では出来るだけ『簡単に・わかりやすい』をモットーに、普通の言葉にくだいて(感情表現も加えて)説明します。当紙の場合、思想性とは『簡単で・わかりやすい」言葉の中におのずと含まれて表現されるものだと考えます。勿論、活動の現場からの声も大いに寄せてほしいと思います。例えば「私達は今こんなことをやっているが、浴田さんはどう思うか」とか「『ゆきQ』は、今どんな活動をしているのか」とか「東ア反日『大地の牙』とは?回本赤軍とは?」…。御意見、御批判、何でも送ってきてください。かならず掲載します。
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応募規定

         『週刊金曜日』ゴメンナサイ☆
◎『投書』欄の原稿は、二五字詰め一四行以内(短くても可)でまとめて、仮の見出しをつけてください。こちらで趣旨を変えない程度に手直しすることもあります。
◎住所・氏名・年齢・職業を原積の最後に明記してください。慶名を希望の方は本名明記の上、「匿名希望」とお書きください。しかし特に事情のない限り、匿名は避けてください。
◎原積は返還できません。採用させていただいた方には、掲載紙をお送りします。
◎原稿は、「ゆきQ『スケジュール係』」宛にお送りください。宛先は、表紙にあるとおりです。
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投書

ちょっと一筆のみ

 まず、ややっ!と大いに感心したのは、二五日丸岡結審の「速報」。今日は二八日!三日目に届いた。筆者Wさん、編集者に拍手したい。ところで、何か読み難いナと思ったら、文字の行間夕テ・ヨコが同じ間隔のせい。タテをもっとくつつけ、ヨコをもう少しとったら、と思う。
 出廷記、由紀子さんの元気印!あべこべにこちらが励まされてる感じ。
            犬山市 向井 孝さん

『ゆうき凛々』・『ゆきQスケジュール通信』いつもありがとうごさいます

 明るさがいいですね。ところで、爆発物取締罰期は今だに一八八四年(!)に出された「天皇の命令」のままなのです。それが「法律」になった(国会で積極的に承認された)ということは一度もありません。違憲そのものの存在です。〈どんな事件であれ太政官布告によって裁かれるなどということは許されんッ〉このことも浴田さんの公判のひとつの争点になり得ると思います。という私も、爆取の被告です。爆取粉砕! レバノンの諸氏が解放されますよう!
             葛飾区 十亀弘史さん

私も、もう一ふんばり

 皆さんの浴田さん支援の闘い、とても力強く思います。私たちが作って愛唱している歌に『団結って何だ』というのがありますがそのなかの一節「闘えば必ず会える」を実感しています。
 国を離れて二六年。離れる以前から世情に疎い質だったもので、一九九七年の日本の現実、とくに生きた人々がどうなっているのか、どうやら使う言葉ひとつからしてかなりの深いクレパスがあるようで、ちょっとやそっとの努力ではリハビリは追いつきそうもありません。ですからマイペースでやっていきます。Tちゃんだけ叱咤激励して年寄りはマイペースというのも不公平かな。私も、もう一ふんばり。では、共に。
            葛飾区 吉村和江さん


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