支援連ニュース No.218
★『封殺された対話』(小倉英敬著・平凡社)は示唆に
富む1冊です。 本書は、'96年12月17日、ペルー日本大使公邸をツパク アマル革命運動(MRAT)のゲリラが占拠した闘いを、 日本大使館の書記官にして、約四ヶ月間人質になってい た著者が、考察したものです。そして、著者はMRTA の武装闘争は批判しつつ、彼らの社会正義を求める心情 は理解し、また、平和的解決を口にしながら武力突入を 決定したフジモリを非難するという稀有な外交官であり、 それ故に本書の内容を信頼の足るものにしています。 さて、この闘いは、'97年4月22日、ペルー軍特殊部隊 の武力突入でMRTAの一四名全員が殺害されて敗北し ます。当時、私は、この敗北をMRTAの戦術的に誤り によるものであり、そしてその誤りは、彼らの思想的な 硬直性によっての招いたのもと考えましたが、本書によ ってその感をより深くしました。 戦術的な誤りとは、MRTAは、特殊部隊が地下道を 掘削していることを認めながら、武力突入を牽制する形 になっていた一階の人質を二階に移し、自ら武力突入を 容易にしてしまったことです。これは、彼らが武力突入 はないという楽観的な判断に固執せざるを得なかった結 果です。別言すれば、彼らは、占拠後の“獄中同志の解 放・脱出”のシナリオを粗略にしか描いていなかったが 故に、武力突入への備えができなかったということです。 また、思想的な硬直性とは、MRTAが前衛主義の旧 弊に陥っていることです。それは、彼らが四名の指導部 とそれ以外の被指導部=兵士に画然と分けられていたこ とに明らかです。 反動的な社会を解体し、真に民主的な社会を創出する 闘いにおいて、ゲリラは上意下達の非民主的な階級組織 である軍隊の特性を排除すべきであり、その内部に将来 の民主社会の姿を胚胎させるべきでしょう。しかし、M RTAにその意識はなかった。メキシコ・チアパスのサ パティスタ民族解放軍がその闘いを民主的に推し進めて いるだけに、MRTAの硬直性は残念です。 MRTAのゲリラに役割分担の違いがあるだけで階級 差がなく、全員が方針決定の討議に参加していたら、あ の敗北を招く判断の誤りを犯したでしょうか。仮に参加 者全員の意志があのような事態を招いたのであれば、己 むを得なかったと思うことができるのですが。センチメ ンタルに過ぎるかもしれませんが、一六歳の少女も殺害 ・処刑されただけに、彼らの敗北は無念です。 2000・9・25 大道寺将司 |