大道寺将司くんの今日このごろ

支援連ニュース No.269


★気に掛かる小説を読みました。『となり町戦争』(三
崎亜紀著:集英社)、です。
 ある日、「僕」は、アパートの郵便受けに入れられた
町の広報紙で、となり町との戦争開始を知らされます。
 あまりに唐突なため、僕はその戦争が何を意味するの
かを把みかね、となり町がアパートと職場との中間にあ
るので、通勤に支障が出るのではないかというような瑣
末なことを心配します。しかし、特に支障もなく、町に
も戦争の気配が感じられないまま日が経ちます。
 半月後、僕は郵便受けで見つけた広報紙で戦争の続報
を読もうとしますが何も出ていません。でも、たまたま
目にした町勢概況欄の「死亡23人(うち戦死者12人)」
の記述で、戦争が実際に始っていたことに気付くのです。
 そして、僕は、「戦時特別偵察業務従事者」に、更に、
となり町に移住してスパイする「戦時拠点偵察業務従事
者」に任命されます。こうして僕は戦争に駆り出される
のですが、となり町の病院の近くの道路で手や足を失っ
たり、包帯でぐるぐる巻きにされた患者たちの集団を見
かけたり、査察が入るとの情報を得て「業務日誌」を持
ち出す際に危うい目に遭う他は、それまで戦争とはかく
あるものと漠然とイメージしていたものとはまるで異り、
表面的には不断と変わらぬ日常が続くのです。
 そうこうしているうちに、開戦同様終戦も唐突にやっ
てきます。1万5千人ほどの町で100人近くの戦死者を出
して。結局これはなんのための戦争だったのか。となり
町への移住のため偽装結婚し、「業務」として交合まで
した「となり町戦争推進室」の女性職員に質すと、町勢
の発展のためであり、予算が計上され、議会の承認を得
たからだという不得要領な役人的答えが返ってくるばか
りです。
 なんとも奇妙な内容ですが、しかし、荒唐無稽とは言
い切れない怖さがついてまわります。
 加藤周一氏は、“2・26から真珠湾までの東京の日常
生活に大きな変化はなかった。電車は動き、学校も開い
ており、六大学野球リーグ戦も行なわれ、衣食も足りて
いた。変わりつつあったのはラジオや新聞が用いる日本
語の語彙であった。”と書いています(2月22日朝日夕刊)。
 戦争は一見穏やかな、なし崩し的変化の中に進められ
るのです。
 侵略や派兵は、美談仕立て、善意の発動としてなされ
ます。気付いた時にはどっぷりと戦時体制に浸っている
のです。『となり町戦争』が気になるゆえんです。
              '05・2・28 大道寺将司

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