上申書
(上告趣意補充書一)
平成九年(あ)第五二五号
被告事件名  航空機の強取等の処罰に関する法律違反等
被告人 丸岡修(東京拘置所在監)

上告趣意書に次の通り補充します。

一九九八年七月二四日
被告人  丸岡修
最高裁第三小法廷御中



第一 序

一、上告趣意
 九七年一一月一八日付上告趣意書(骨子)では以下のように申述しております。
〈はじめに
 現在も慢性心不全にて病舎療養中のため、上告趣意を骨子で述べざるを得ない。五月下旬より原因不明の微熱が現在に到るも続いており、被告人の上告趣意書提出期限が延期されなかったのは甚だ遺憾である。
 原判決は事実を誤認し、無実の者を有罪とした極めて不当なものであり、原判決を破棄し、無罪を宣告もしくは該当の裁判所に差し戻すよう求める。
 私は、いわゆるハイジャック二件(起訴されている罪状)には一切関与しておらず、無実です。
 ただ私が日本赤軍の構成員であり、日本政府に反対する立場であるが故をもって、法と正義に基づいて厳密な証拠評価を行わず、裁判官が検察官と全く同等の意識をもって、国家治安維持を至上とした意識をもって「まず有罪ありき」とした、極めて不当な政治判決です。
 最高裁が、行政権力に従属した治安維持権力としてではなく、日本国憲法の番人として、司法の良心を示すべく不正義の歪んだ一審判決及び二審判決を正すよう求めます。
 私を罪に陥れようとも、私が無実であるという事実は変わりません。一審、二審と来て、やはり現在の日本には司法の良心が皆無であることを思い知らされました。三審制の本来の目的に沿って一審、二審の不当判決を正すよう求めます。
 二件の「ハイジャック事件」では、「犯人は逆三角形の顔、しゃくれたアゴ」と目撃証言は一致しています。ですが私の顔はそのような特徴を一切持っていません。つまり、私の無実を逆に証明しています。裁判官は判決の宣告に際して、実物の丸顔を前にしながら、「被告は逆三角の顔で」と述べるのだから、驚きます。日本の裁判官には恥がないのですか。裁かれるべきは私ではなく裁判所です。
 私は無実です。
一、二審訴訟指揮は不当
二、違法捜査、違法逮捕による公訴は無効(著しい事実誤認がある)
三、「ドバイ事件」は無関与無実(著しい事実誤認がある)
四、「ダッカ事件」は無関与無実(著しい事実誤認がある)
五、「旅券法違反」は緊急避難免責
六、日本赤軍の活動は正当(「犯状」への反論)
七、原判決は(一審、二審判決は)思想弾圧(憲法違反)
八、その他
 以上を補充書において詳述します。
さいごに
 上告趣意書を満足に書けない原因となった病気について述べておきます。
 昨年(一九九六年)二月に重態に陥り落命しかけましたが、その原因は獄中医療にあります。一月中旬から慢性気管支炎と風邪が重なり肺炎の危険があるのに、適切な診察がなされませんでした。本人が肺の異常を訴えて初めて聴診、血液検査が行われ肺炎と判明しましたが、すでに肺の大部分が犯されていました。病舎に移されたものの二日間で放り出され、肺炎の重症化が進みました。再び病舎に収容された時には深刻な状況になり、数日後に重態になり、三日後には呼吸停止、多臓器不全となり三日間死線をさまよいました。さすがに医務当局も高検に「予断を許さない」と報告しましたが、高検は東拘内治療を指示し、弁護人からの勾留執行停止申し立てに強硬に反対し、高裁も追随しました。専門病院に移送されない状況で、私が死ななかったのは奇跡です。私は司法に殺されかかったのです。
 三日間の危篤のために心臓も打撃を受け、慢性心不全の原因になりました。その後、八月までに四度も肺炎を繰り返すことになり、現在に到っています。運動も満足にできない状況にあります。
 最高裁には、被告人の裁判を受ける権利を保証するため、病状に配慮した対応を願いたいものです。
以上〉

二、本補充書で述べる上告申立趣意の補充
 本文で上告趣意書(骨子)を補充しながら詳述します。
(一)、憲法違反(刑訴法第四〇五条一号)
   「憲法違反があること又は憲法の解釈に誤りがあること」
(二)、判例違反(刑訴法第四〇五条二号)
   「最高裁判所の判例と相反する判断をしたこと」
 第一審及び第二審判決は、自由心証の許される範囲を逸脱し、予断と偏見に基づく経験則に反した証拠の取捨選択と評価、事実認定をしている点で最高裁の判例に違反しています。極めて重大な事実誤認をしており、原判決を破棄しない限り、法の公正さ、正義に相反します。
(三)、重大な事実誤認(刑訴法第四一一条三号)
   「判決に影響を及ぼすべき重大な事実の誤認があること」
(四)、法令違反(刑訴法第四一一条一号)
   「判決に影響を及ぼすべき法令の違反があること」
 公訴時効で免訴されるべきです。

三、人民への謝罪表明
 私は公訴されている二件のいわゆる「ハイジャック事件」に無関与無実の者ですが、日本赤軍に所属する者として、私たちの闘争に巻き込み被害を心ならずも与えてしまった人々に、そのことの謝罪を表明します。
 私たちは当時の自民党政権に対してその打倒を目指して闘っていました。米国による第三世界諸国に対する侵略行為に積極的加担をしていた日本政府、戦前のアジア太平洋諸国への侵略と人民に対する様々な残虐行為を恥じない日本政府、国内では労働運動や住民運動を弾圧していた日本政府。その国家権力に反対するための闘いは、称賛されこそすれ裁判所や検察に非難されることではありません。しかしながら闘いの目的に意義があったとは言え、ハイジャック闘争によって人民をやむなく「人質」として楯にした事自体については、日本赤軍の者として人民に対し深く謝罪します。
 私たちはその負債を、世界の平和と日本の民主主義の徹底化を実現する闘いを通して返済していきます。

四、「疑わしきは被告人の利益に」
 いわゆる「ロス疑惑」デッチアゲ事件の控訴審において、東京高裁は本年七月、一審の「有罪・無期懲役」判決を破棄し、逆転無罪判決をしました(第一審の有罪判決は、司法による三浦和義氏に対する犯罪と言えます)。
 判決は言います。
 「状況証拠を積み重ねて立証するしか方法がない場合でも、立証の程度が低くてもよいということはない。ある人物が感覚的に犯人と疑わしいと感じられても、それが疑わしいととどまっている限り有罪と認定はできない」
 正に私の事件がそうです。「有罪とするには合理的な疑い」があります。二件の「航空機云々事件」において、「証拠」とされているのは「目撃証言」しかありません。それ以外の証拠は何一つありません。そしてその目撃証言ですが、例えば「ダッカ事件」においては四人に一人は被告人の犯人説を否定しているのです。一審、二審判決ではとどのつまり「肯定」証言の方が多いとして、「目撃証言」を極めて恣意的に有罪根拠にしています。これは多数決の問題ではないのです。しかも両「事件」の全乗客・乗務員の供述調書が開示されておりません。被告に有利な証拠も存在するはずです。
 被告人は一九七二年においてリッダ闘争(いわゆるイスラエル・テルアビブ空港襲撃事件)の関連容疑者にデッチアゲられて「第四の男」と呼ばれ、「殺人共同正犯容疑者」で手配されました。七二年六月、七月の二カ月間に渡り私の顔写真は新聞、TVで大きく報道されました。多くの人々の目に焼きついています。そして翌年の「ドバイ事件」において早々と「犯人は丸岡」という見込み報道がなされ、同じ顔写真が乗務員、乗客に示されたのです。そのような状況の中でさえ、少なくない人々が「違う」と供述していることは重大です。しかるに一審、二審ともに、証拠評価を著しく誤っています。しかも、乗務員及び乗客の調書は一部しか開示されておらず、乗客証言に対しては反対尋問を許されていなかったのです。
 「ドバイ事件」では、ICPO電報なるものが「証拠」として出ておりますが、これは「状況証拠」にも及ばないものです。後述。
 第一審において検察立証は、弁護人の反論によってことごとく破綻しておりました。ところが東京地裁は弁護人への反論で判決を構成しました。更に、東京高裁にいたっては一審判決の綻びに気づくや、検察側の意見で補強し直したのです。まず有罪の結論ありき。このようなことが、「法と正義」の名において許されるはずはありません。

第二 本題
一、憲法違反、法令違反の二審訴訟指揮
(一)、弁護人なし裁判
 憲法第三二条(裁判を受ける権利)、第三七条(刑事被告人の権利)、刑訴法第二八九条(必要的弁護)に違反しています。
 八五年一〇月第二回公判において、東京高裁小林充裁判長は弁護人二名が開廷前に辞任しているのにも関わらず、開廷をした上で被告人に「証人調請求、証拠調請求却下決定」の受取りを強要し、いきなり「結審」を宣告しました。弁護人は決定を受ける前に辞任しており、被告人の預かり知らぬ事情でした。これは明らかに違法な訴訟指揮です。
 判例にも反しています、最高判昭二三・一〇・三〇刑集二・一一・一四三五(旧法)。
 「必要的弁護事件につき弁護人なしで開廷、審理することは被告人が弁護人の選任を辞退した場合でも、違法である」
 被告人は辞退すらしていなかったのです。
 東京高判昭五七・四・二八判時一〇七〇・一四二には、「必要的弁護事件において、裁判所の審理方式に抗議して出廷を拒否する被告人の方針に従って弁護人が出頭しない時は刑訴法三四一条を類推し、弁護人不出頭のまま開廷しても違法ではない」とありますが、本件の場合(被告人は出頭)、被告人の方針によって弁護人が出頭しなかったのではありません。弁護団の判断で開廷の一時間前に、裁判所の不当な訴訟指揮によってやむをえず辞任していたのです。
 この違法な訴訟指揮の後、新弁護人の下で結審の取消し、弁論再開が決定されましたが、異常な訴訟指揮の延長にあって証人調べ及び証拠調べ請求が証人二名を除いて却下されており、審理不尽と言う他ありません。裁判の差し戻しが必要とされています。
(二)、公正な裁判を受ける権利の侵害
 証人調べ、証拠調べ請求却下は違法です。
 「重大事件」(小林充裁判長自身の言・初公判時)であるのにも関わらず、一審判決の著しい事実誤認を立証する証人調べ、証拠調べのすべてを一切検討せずに、小林裁判長は弁護人不在の第二回公判直前に却下しました。被告人本人尋問をも却下し、明らかに一審の弁論終結前に取調請求できない事由があり、且つ控訴申立理由を満たす浴田由紀子証人の取調べをも却下しました(後の弁論再開後に取調べ決定をしたが)。このように原判決は「有罪ありき」の結論の上に訴訟指揮がなされたものであり、最初から最後まで予断と偏見に満ちたものでした。
 憲法第三二条、三七条に違反し、被告人が公正な裁判を受ける権利を侵害しています。
(三)、公開裁判を受ける権利の侵害
 憲法第三二条、三七条及び第八二条(裁判の公開)に違反していました。
 弁論再開決定が九五年一二月になされましたが、九六年一月、東京高裁は証人の取調べを東京拘置所内で非公開で行うことを条件にして、浴田由紀子証人の採用を決定しました。憲法第八二条において、政治犯の裁判については「常に公開しなければならない」と定められているのにも関わらずです。これに対して一月一四日、マスコミ各社が「政治犯裁判では極めて異例の措置で、裁判公開の原則をめぐり議論を呼びそうだ」と報じるやいなや、一転、東京高裁での公開裁判に変更されました。
 このような訴訟指揮の下で、公正な裁判がなされようはずがありません。
 判決文を検察官の答弁書をそのまま引用して恥じない姿に(そのまま引用すると広言すらしている)、原判決の本質が表れています。

二、憲法違反の違法逮捕(公務執行妨害)
(一)、違法性(刑訴法第四〇五条一号及び四一一条一号)
 事実は、公安警察官が勝手によろけての「公務執行妨害現行犯逮捕」であり、これを容認するなら憲法第三三条の何人も令状なしに逮捕されない基本的人権が侵害されます。このやり方は、マスコミの公安記者たちには公安警察による対新左翼活動家に対する「転び公妨(デッチアゲ)」と通称されており、裁判所が公安警察によるこの手法を容認することは許されません。これを許せば、警察は何人をも「現行犯」をデッチアゲて令状なしで逮捕できることになってしまいます。
 また、憲法第三一条の適正な法手続きの保障にも違反しています。
 被告人になされた「現行犯逮捕」の口実は公安警察官達に捏造されたものであり、刑訴法及び警職法で許容される限度を逸脱した違法な行為です。
(二)、違法行為の具体事実
@ 「勝手によろけて」を公安警察官(司法警察員)が演じた後に拘束されたのですが、 職務質問が終了し私が警視庁への任意同行を拒否した後に、この違法逮捕が実行されました。丸岡公判において、公妨デッチアゲの現場にいた塚谷は、被告人が任意同行を拒否したことを認めた明確な証言を行っています。
A その他の具体事実は、追って補充します。今回の補充書においては@を指摘するにとどめます。

三、「目撃証言」の虚構(刑訴法第四一一条三号)
(一)、重大な事実誤認
 「ドバイ、ダッカ両事件」の争点は、「ドバイ」における「日本人犯人」と被告人、「ダッカ」における「二〇番の犯人」と被告人との同一性の問題です。私は全く関与しておりません。
 弁護人が諸点述べており、この補充書では原判決がいかに不法な認定をしているか例証しておきます。
 「ドバイ事件」において乗客の一人が四名のハイジャッカーの似顔絵を詳細に描いていますが(甲三八二の添付新聞記事)、原判決はこの似顔絵について「外人犯人は似ているが日本人犯人は似ていない」とする安藤恒雄氏の供述を引っぱりだして、信用性を否定しています(原判決二六丁)。しかし乗客国井玄雄氏(甲三六四)はこれを「日本人犯人の特徴を捕らえている」と供述し、乗務員浦野氏、乗客田辺金二氏、同青井正雄氏(甲三七一、三八七)は「似ている」と証言しています。つまりここでの似顔絵が実際の「日本人犯人」に似ているとする供述は、その似顔絵と全く似ていない被告人の無実を証明するが故に、原判決は必死に「似顔絵と日本人犯人とは似ていない」と強弁しているのです。描いた本人だけではなくて、数人が「似顔絵と日本人犯人が似ている」としている意味は非常に大きいのです。安藤氏の供述が不自然なのは、外人(三人)は似ているのに日本人(一人)が似ていないとする点です。同じ描き手が一人のみを別の人相に描くはずはなく、また「日本人犯人」はほとんどの時間を乗客と過ごしており、描き手が描きまちがえることはないのです。この似顔絵以外の供述はすべて、事件後の本人とは似ていない旅券申請時の写真(しかも「事件」の一年半も以前の証明書用の写真なのである)からの推量によるものでしかありません。その場でその時に描かれていた似顔絵に優る証拠はないのです。原判決は、予断をもって証拠を取捨選択し最も重要な証拠を切り捨てているのです。
 原判決は「目撃証言」の多数決ではないと強弁はしているものの、実際には供述の質を問うてはいないのです。
(二)、事実誤認その二
 「ダッカ事件」においては、乗客穂刈氏が撮影した「二〇番の犯人」の写真があるのです。後姿とは言え、被告人とは別人であることが証明されています。東京高裁はその証拠調べを拒否しました。審理不尽も甚だしいと言う他ありません。
(三)、その他
 追って補充します。

四、証拠能力の欠如(刑訴法第四一一条三号)
(一)、いわゆるICPO電報(ドバイ事件)
 仮に本電報が大阪府警から警察庁への電報であれば、裁判所は証拠採用しないでしょう。
 予断を排し冷静に考えて下さい。当時ICPO各支部は各支部所有のTELEXを通した独自通信網を持っていたはずです。ところが、これは一般のトリポリ郵便局から東京の電々公社(現NTT・KDD)の局に送られた電報なのです。発信者の証明がありません。
 仮定の話に戻ります。大阪府警から警察庁に警察専用回線ではなく、大阪のNTT局から東京のNTT局に送られた電報。しかも受信先、送信先の警察コードは秘密ではない。更に警察庁はその原本を紛失してコピーしか保管していない。そのコピーが原本の通りであることを証明するのは警察庁保管の受信記録簿のみである。この電報コピーを証拠採用する裁判所はまず無いでしょう。更に言えば、電文の内容が全く矛盾している。電報には「追って、指紋、写真など詳細を送る」と明記されているのに、それらが全く存在していないのです。日本国内でなら決して「証拠」として採用されません。
 こんな馬鹿げたことがまかり通るのでしょうか。

第三 休題
  体調が思わしくありません。当補充書作成を中断します。この補充書提出から八月中旬迄に、次の補充書を提出いたします。

第四 今後の補充
 次回以降以下を補充します。
@当補充書の再補充
A「無期懲役刑」及び私への適用の違憲性及び違法性
Bいわゆる「ハイジャック防止法」の違憲性
C「犯情」等における事実誤認(日本赤軍の活動の正当性)
Dその他
以上


上申書
(上告趣意補充書二)
平成九年(あ)第五二五号
被告事件名 航空機の強取等の処罰に関する法律違反等
被告人 丸岡修(東京拘置所在監)
 上告趣意書に次の通り補充します。
一九九八年八月一五日

丸岡 修

最高裁第三小法廷 御中
 記

憲法違反の公務執行妨害デッチアゲ違法逮捕(刑訴法四〇五-一及び四一一-一)

一、違法行為の具体事実(重大な事実誤認)
(一)、公妨の容疑なしで検事釈放
 「公妨」で逮捕され送検されたにもかかわらず、勾留請求どころか起訴もされず、容疑事実を立証できないのでその日に釈放されています。被告人を独房から出して釈放手続きまで行い、警視庁舎外にまで出しているのです。これ一つみても、公務執行妨害現行犯逮捕がデッチアゲの違法行為であったことが証明されています。
(二)、不思議な公安第一課への「匿名通報」
 原判決は七丁において、弁護人意見に対して「匿名通報が交換台から公安一課に回ることはないとの所論は根拠のないものである」として、それによって「匿名通報」が擬装されたものであることを否定できた気になっています。前提がまちがっています。
 弁護人趣意意見の主題はそこにありません。「匿名通報」が交換台を通したか否かが問題ではなく、一一〇番通報ではないということに本質があります。一審法廷の尋問において第一課の三森及び松苗は、「外線でつながった場合はすべて交換台を通す」と供述し、且つ「一一〇番通報ではなかった」旨を供述しています。公安警察と無関係の第三者が通報するなら一一〇番を使います。特に今回のような「爆弾を持っている過激派の大物」という内容なら、一般人であれば一一〇番を通します。警察内部者自身による「通報」であるからこそ、一一〇番通報ではないのです。原判決は問題をすり替えて、公安警察の狂言公妨劇に参加しています。裁判所としての誇りがないのでしょうか。
(三)、不可能な被告人による「頭突き」
 原判決は言う。「立ちあがりざま被告人の頭頂部を、五〇センチほど間隔があった本田の右顎下に突き出したのであって、このような両者の体勢から被告人が頭突きをすることは十分可能であって不自然とは言えない」(九丁)
 自ら墓穴を堀るとはこの判決文のことです。
 本田は「頭突きを受けて尻もちをついた」と供述しているのです。
 「右斜め前方にしゃがんでいた被告人が右内ポケット内から旅券を取り出しつつ」(八丁)とありますが、右利きの私が右内ポケットに旅券を入れるはずがなく、
実に不自然です。。「しゃがんだまま旅券を取り出す」のも実に不自然な姿勢です。それに片手を背広の内ポケットに入れたままではバランスがとれず、相手を攻撃することなどできません。
 五〇センチの間隔にあって立ち上がれば、ほぼ真下から突き上げることになります。ところが、本田は上目使いに被告人が見上げていた、頭頂部で顎下に突き出した、と言う。それでどうやって本田が尻もちをつく方向に力を加えられるのですか。
 そして、顎よりも頭頂部は軟らかく、本田を倒すまでの力でぶつかれば、受けるダメージは被告人の方がはるかに大きいではないですか。裁判官というのは、こんなに簡単なことも理解できないのですか。答えは簡単です。「頭突き」は本田の偽証なのです。

二、デッチアゲ逮捕の真実
(一)、「公務執行妨害」は公安当局による演出である
 公安当局は、私の何度目かの帰国である八七年一一月二一日の数十日前に、「伊良波秀雄」名義の旅券を所持している人物を秘密捜査過程で探知し、その人物の帰国を待っていました。前日の二十日に、香港発成田着の二一日の日航機搭乗をコンピューターで知るや、身柄拘束のために「公務執行妨害逮捕」劇を演出しました。
 香港の空港、機内及び成田空港であった不審な点をあげておきます。泉水第一審における証人・丸岡修の証人尋問調書を見て下さい。(弁九)泉水公判・第一五回調書です。
@ 搭乗機座席予約が比較的早かったにもかかわらず、非常口の通路側に座らされました。一般旅客機において他の席があるのに非常口に誘導するのは「要注意人物」に対してである(各航空合社がこのような保安システムを持っていることは知っていました)ので、一瞬おかしいと思いました。しかし、私はまさか自分の身分が発覚しているとは思わず、その疑いを取り消しました。
A 私の座席の隣に居た男に話しかけても、視線を避けている風情があり、話しかけても生返事しかないのでおかしな奴だ、と思いました。後から考えれば警察官であった可能性があります。
B 香港の空港での待合室で「免税枠外のタバコを1カートン持ってほしい」と女が接触してきました。税金を払わなくてもすむように、成田空港の税関を通過するまで持っていてほしいという訳です。私が「免税枠は四百本まででは(勘違い)」と承諾しながら答えると、その女が更に買い求めて、私が2カートン(四百本)持ち込むことになりました。その女は私の名前を確認して(私も女の名前を覚えた)、私と成田空港での待ち合わせの場所を確認し、雑談の後に機内で別れた(女はエコノミークラス)。成田空港に着き(機内で税関の申告書を受け取った時に免税枠が二百本と知る)、税関で申告して金を払い(千円だったと思う)、指定場所で待ったが女が現れず、やっと見つけた時にはかなりの時間が過ぎていました(税関から四〇分くらいか)。この女も公安警察官だったのでしょう。この女が警視庁公安部に私が乗る箱崎町行きのリムジンバスの発車時刻・便数を連絡したはず。声はハスキーで電話で聞げば中年の男の声とも言えます。私が空港バス乗り場に並んでいると、女の乗るバスは行先が違うはずなのにやって来て、箱崎町行き乗り場の私の姿をチラッと見て引き返して行きました。この時、私はまだコートを着ておらず背広のままでした。「何だ、あの女は」と思って見ていました。公安当局が電話での報告が「背広姿」であったとしているのは、女が最後に私を確認した姿が背広だっだからです。(税関で支払ったタバコ関税の領収書は押収品目録にある。第三二番納税告知書・領収証書)
C 成田空港のパスポート・コントロールの前で、税関の申告書を私は書いていましたが、見られているという視線を感じました。その時は、空港だから保安要員が私服でいるのは当然だろうと思っていました。
 以上の四点の例を見るだけで、「伊良波秀雄」名義の旅券を持つ男(つまり私)は、公安当局の網の中にあった、と断言できます。私の立場から言えば、不覚にも。
 次に、私を取り調べた検事・本多とのやりとりをここに示しておきます。
(注)(泉水第一審第一六回公判)「証人尋問調書」の三八丁に私の証言がありますが、誤った速記起こしの箇所もあり、ここに取調べ検事と私のやりとりを正確に示しておきます。取調べ時の状況は東拘移監直後に自ら記録した。その一部は拙著『公安警察ナンボのもんじゃ』にあり。
 八八年二月になっていたと思います。一月下旬だったかもしれません。
P(検事):あなたはなんで捕まったか、知っていますか。
私:いや、知りません。新聞によれば、挙動不審で怪しいと思って職質したら私だったというふうになっているけれども、そうなんじゃないのですか(私は検事が何を言わんとしているのか知りたいので、わざととぼけたのです)。
P:いや、そんなことはありません。あそこは通常公安は張り込んでいません。何人もいる中で君を見つけるのは不可能。だから職質であなたは偶然に見つかったのではないのです。
私:では、なんでですか。
P:通報があったのです。あなたは誰かと会っていたのではないですか。
私:(無言)
P:おかしいなぁ、誰かと会っていないと話が合わないのです。あなたの服装などが通報されていたのですよ。内部に心当たりはないですか。
私:誰にも会っていません。
P:そうですか。こういうのはそのうちわかるでしょう。
私:(無言)
P:ところで、タバコはどこに行ったのですか。所持品の中に税金の支払い領収書がありました。警察官らは気がついていないようですが。(この時、あの女にはめられたと思いました。が、検事が何を言うのか聞きたいので私は真相を黙っていました。−黙秘だから当たり前)
私:そういえば、ここにはないですね。
P:タバコは2カートン持っていたはずなのに、おかしいですね。
私:さあ、警察が落としたのではないですか。
P:いえ、彼らが置き忘れることはありません。
私:私にはわかりません。
P:ここに謎があるようです。
 以上のようなやりとりがありました。
 検事にすれば、警察の現認報告書の記述が不思議で仕方なかったのでしょう。形は密告電話、しかしそれは仲間内の裏切りでしか考えられない。捜査当局の網にかかっていたのなら、なぜ捜査員からの通告電話ということを伏せるのか。このように疑問に思ったからでしょう。なぜ疑問に思うかと言えば、元検事総長の伊藤栄樹がその著書に書いているように、公安警察当局はしばしば検察に対して秘密の行動を行っているから、捜査担当の本多検事も不審に思ったからでしょう。なぜ、警察側がタバコ二箱(カートン)が行方不明にもかかわらず気にもとめていないのか検事が疑問に思うのは当然です。
 そのタバコの件と言うのは、第一審弁護人の冒頭陳述書(九二年六月)にある件及び前述の件です。一種の囮捜査とも言えるでしょう。
 その女性は、ガラガラ声だったので、電話であれば男の声と言えるでしょう。被告人尋問では聞かれなかったので答えていませんが、その女が名乗った名字は覚えています。香港空港で、「沖縄の人間を知っている」とか言うので、私は沖縄語を話せないのでヤバイなと内心では思っていました。おそろく、私が実際に沖縄の人間かどうか探ろうとしたのでしょうが、本人も言葉を知らないようなので、そこまでの話にはなりませんでした。私が適当に答えながらうまく話題を変えたので、私に警戒されてはと思い、相手は深追いを避けたようです。
 ここでもう一つの疑問があります。
 なぜ、公安警察当局は、「通報(密告電話)」というのを伏せたのでしょうか。新聞発表では、偶然に挙動不審者を発見し職務質問したところボロを出したとなっています。そして、一審公判で公安警察官・三森が出て来ての証言では、今までは全くなかった「幹部」というのまで出てきました。なぜ、連中は、私の逮捕にいたる経緯を偽装し続けたのでしょうか。違法逮捕であることを知っているからです。(「通報」というのは、現行犯人逮捕手続書が泉水公判に出て明らかになった。しかし当初、警視庁は裁判への提出を拒否したのだ)
(二)、公安警察官の虚偽証言
 @ TCATで張り込んでいたのは、四人だけではありません。バスをおりた所(三階)にも二名が張り込んでいました。
 また、私の取調べを志願、担当した警部補で通称AO(アオ)(私に本人が名乗った私用の通称。取調べの責任者は、当初は警部・根元、次に警部補・服部)は、私に「TCATには十人ほどが張り込んでいた。他のターミナルにも張り込んでいた位」と語っていました。常識的に考えても、一階だけでなく三階にも張り込むのが普通です。なぜ、公安警察官と判断したかと言えば、最後に降りたのが私であるのに、また三階には誰もいないにもかかわらずその二人がいたこと、人相と雰囲気が刑事らしいそれであったこと、ジロッと見たあとは視線を合わせないようにしながら私をしっかり見ていたこと(剣道をやったことがある人だとわかると思いますが、剣道では相手の目をみつめながらも視野の中に相手の全身を入れており、独特の目つきになる)、等からです。
 A 公安警察官は、私が手ぶらでエスカレーターで降りてきたと述べていますが、それは全くありえません。私は、約五百万円相当の金を持っていたのであり、手元から離すことはありえません。以前に証言した通り、ショルダーバッグの中のブリーフケースに入れており、そのお金の入ったショルダーをバスの搭乗の際に預けることは絶対にありえません。公安警察官の証言のいい加減さを立証しています。それに、リムジンバスに備え付けられていたカタログ雑誌と同じものを二冊手に持っていました。バスの中で読んだ際、出発カウンターにあるということで一階に降りるまでの途中の二階で無人のカウンターに積んであったものから二冊抜いてきたのです。これは押収品目録第二九番に明らかです。
B 私がエスカレーターを降りる際にキョロキョロしていたと公安警察官は述べていますが、上の階に公安警察官が居ると分かっていたのに、後ろを振り返ったりキョロキョロするはずがありません。まだ私に対して張り込んでいたとは思っていなかったからこそ余計に挙動不審とされる行為をするはずがありません。
C 泉水公判で私が証言した通り、電話のかけ方の私の説明は、理にかなっています。当時、東京駅周辺のホテルに片っ端から電話したところ(私はガイドブックを持っていました。警察に押収されています。二度目の場所ではそれを見ながらかけたのです。一度目の場所では、機内で控えたメモを見てです。そのメモはその場で放置しましたが、おそらく公安警察官が拾っているはずです)、満員で最後にようやく新橋のホテルがとれたのです(ガイドブックにある)。
D 私が所持金の説明ができなかった、と検察側は公安警察官の言を真に受けて主張していますが、まちがっています。「外国でもらった」と私が言うはずがありません。なぜなら、税関でお金の説明を求められる可能性が大きく(特に、今回はタバコの申請をしなければならず、税関で荷物を見せなければならないと思っていましたし)、為替管理や脱税のことなので「外国で得た金」と述べれば税関で怪しまれるはずなのだから、私がわざわざ怪しまれることを言うはずがありません。泉水公判で証言したように、そのお金は日本から持ち出した金とその場ではっきり説明しています。
〈泉水公判第一五回証人尋問調書(六七丁裏)〉
弁(以下B):どういう質問ですか。
私:日本円で、二百万円くらいあったので、この金はどうしたんだというふうに聞かれました。
B:あなたは、それに対して、どういうふうに答えたんですか。
私:旅券の名義人の職業がコックだということであったので、それに合うようにということで、一応ヨーロッパで、店をやろうと思ったので、日本からその金は準備して行ったんだと、それのやりとりがあって、こっちからいったのは、そうしたんだけれども、そういう可能性がまだないので、そのまま持って帰国したという話をしました。
B:そういう金の話について質問した人は、眼鏡の人ですか。それとも違う人ですか。
私:荷物を開けろという指示は、眼鏡がしましたが、荷物に関しての質問は、主に太ったほうです。
B:金に関する質問は、今いったようなことですが。そのほかにもっとあったんですか。
私:そのほか、詳しくいいますと、こういうことをいっていました。店を出すくらいだったら、こんな二百万くらいじゃ足りないんじゃないかと、一千万円はいるというようなことをいっていました。日本じゃ、一千万円出さないとできないんだと、おまえ、分かっているのかと、挑発的に語気荒くいっていました。私のほうとしては、いや、日本では、一千万もかかるから、日本じゃ、芽がないから、ヨーロッパじゃ可能性があるかもしれないと思って、持っていたんだ。だから実は二百万くらいしか今まで、金をためなかったから、だからそれでさがそうとしたんだ。いや、おかしい、おまえは、おかしい。とにかくおまえはあやしいと、その一点張りでした。(注釈・「いやおかしい、あやしい」とは本田の言)
B:そういう質問が金についてあったんだね。
私:はい。
 この証言について説明します。
 本物の伊良波氏の職業はコックということでしたので、私もそれに合わせて自分の身分をつくっていました。だから、お金についてもそれに沿ったストーリーをあらかじめ持っていました。
 ここで、「二百万円」と言っていますが、公安警察官の本田がそのように現場で言っていたので、それに合わせてそう答えたのです。ここでドルの説明をしなかったのは、こちらから言わない方が良いと思ったからです。ドルについては、この日本円の説明が終わってから、更にブリーフケースにドルの束があったので警察官が聞いてきましたが、本田本人はそれが日本円に換算してどれ位なのか不明だったようなので日本円以上にはしつこく聞いてきませんでした。もちろん、「日本で換金して持ち出した金」と説明しています。
 他の外国紙幣についても、この時の検察官の反対尋問の中で明確に証言した通りの合理的な説明を私はしています。(泉水公判第一六回証人尋問調書、四七丁表から五〇丁裏)
E 住所などのことはきちんと答えています。
 例えば、本籍地も正確に覚えていました。なぜなら、番地の五九一は、救援連絡センターの電話番号の五九一−一三〇一を六九年から「ゴクイリ イミオーイ」で覚えており、それと同じ番号なので、「これを忘れたらゴクイリ」と覚えていました。
 前住所の中野区の住所にしても、四−五五−三と順番に覚え易い番号でしたし、北谷町字吉原も忘れるはずがありません。現住所の南桃原(みなみとうばる)にしても、(本籍の)中頭郡(なかがみぐん)北谷町(ちゃたんちょう)にしても、特殊な読み方であり、伊良波氏本人にもわざわざ聞いています。字吉原についても、字(あざ)は私本人の本籍地にも字は本当につくし、吉原は落語に出てくる遊郭の名と同じなのですぐ覚えています。(ただし落語ではヨシワラ、ここのはヨシハラ)
 また、非公然で行動する以上は、職質で必ず聞かれることになっている本籍地は、現住所と共にしっかり覚えるのは自分の身を守るためなのですから、答えられなかったというのは絶対にありません。
 また、中野区の駅について聞いたと公安警察官は言っていますが、そんなことはありませんでした。聞かれてはまずいとは思ってはいましたが、公安は、私が部屋番号以外は答えているので(それも三百いくつとまでは答えています。私としてはそれが自然だろうとわざわざぼかしたものですが、もし完全な番号を言えば、何年も前のをなぜ覚えているのかと連中は聞いたはずです)、それ以上の質問はあきらめています。この刑事本田は、とに角、私をひどくののしり挑発することに目的があり、私の身分がどうかということを目的にしていませんでした。
 公安警察官の報告では、頭突きを頭頂部でやったとありますが、常識で考えてほしいものです。しゃがんだ姿勢からどのようにして額で頭突きをやれるのでしょうか。それは不可能です。そのことに気づいた警察官(本田)は、自己の供述の矛盾を隠すために咄嵯に言い繕ったのが「頭頂部をあごに当ててきた」です。仮に顎と頭頂部がぶつかったとしてどちらが強いか常識です。顎の方が強く、刑事本田の主張通りなら、私は頭頂部をおさえてひっくり返ったはずです。本田ではなく私が。格闘技を少しでも知っている人なら公安警察当局の嘘が容易にわかるはずです。
 私を現行犯逮捕する口実がないので、公妨逮捕をでっちあげたものであります。私は、連中に「身分ははっきりしているではないか。本庁(警視庁)に行く必要はありません」とはっきり述べており一審公判において警察官・塚谷は証言で認めています。
G 泉水博・第一審(東京地裁刑事第二〇部)では、私が弁護側証人として出廷した時に、裁判長(小出 一)は、私に「今までに職務質問を受けたことが何回かあるか」と聞いてきました。その法廷では、「答えられません。想像にまかせます」と私は答えましたが、ここではっきり言えば、職務質問を受けたことはあります。その刑事二〇部では、弁護人が、裁判長に「主尋問と関係ありません」と異議を唱えていたので、私は内心では答えてもいいなと思ってはいたのですが、弁護人の立場を尊重し答えて面目を失わせてはいけないと思い、「答えられません」としただけです。
 小出裁判長が、わざわざそれを聞いたのは、私の応答から、私が職質には相当慣れていると思ったからに他なりません。公妨逮捕の違法性判断を避けるために、検事が証拠として申請していた旅券の採用をしませんでした。公妨逮捕の違法性に触れるのを避けたのです。
(三)、まとめ
 「勝手に転んで公妨」というのは、公安警察が時々、中核派などに対してよくやっています。日本国憲法においては、現行犯でない限り、令状なしの逮捕は認められていません。この公安警察のやり方を裁判所が黙認するのであれば、警察がいつ誰をどこにおいても“令状なし逮捕”ができることになります。悪い奴を捕まえたのだから法的手続きはどうでもよいということではないはずです。「法治」を建前とするなら。江戸時代の火付盗賊改ならいざ知らず。
 私に対する公務執行妨害逮捕は明らかに違法なものです。
以上

補充書三に続く。


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