意  見  書

 爆発物取締罰則違反等                  浴田 由紀子

 右被告人に対する頭書被告事件につき、共犯者大道寺将司及び片岡こと益永利
明両名に対する証人尋問の実施に関する検察官の意見は、左記のとおりである。
   平成一〇年一〇月二七日

           東京地方検察庁
               検察官 検事  千 葉   守
               検察官 検事  島 田 健 一
東京地方裁判所 刑事第五部 殿

            記
第一 検察官の意見 
   大道寺将司(以下、「大道寺」という。)及び片岡こと益永利明(以下、
  「片岡」という。)両名に対する証人尋問については、刑事訴訟法第一五八
  条に基づき、東京拘置所内で実施すべきである。
第二 理  由
   憲法は、その第三七条第一項、第八二条第一項において、全ての被告人に
  は公開裁判を受ける権利が保障されている(公開裁判の原則)旨規定してい
  るが、この原則を絶対至上のものとしているわけではなく、憲法における他
  の諸規定との衝突が生じる場合には、右原則も一定の限度で制約されること
  は明らかであるところ、憲法は、その第一八条、第三一条、第三四条におい
  て、在監関係の自律性を認めており、大道寺及び片岡両名に対する証人尋問
  の実施場所の問題は、正しく、憲法の要求する右「公開裁判の原則」と「在
  監関係の自立性」というそれぞれの憲法秩序が衝突する場面であるため、検
  察官は、刑事訴訟法第一五八条において規定している所在地尋問の方法によ
  り、右両要請の調和を見い出すのが、裁判所のとるべき措置であると思料す
  る。
   以下、具体的に理由を述べる。
 一 大道寺及び片岡両名の法的地位と裁判及び在監中の動向等
  1 大道寺及び片岡両名の法的地位等
    大道寺及び片岡は、いわゆる連続企業爆破事件により、昭和六二年四月
   二一日、死刑判決が確定し、両名とも、現在死刑確定者として東京拘置所
   に在監し、死刑の執行を待っているものである。
  2 死刑確定者に対する拘禁目的及び自由の制限、特に外部交通権の制限等
    について
  (一) 死刑確定者の拘禁について
     死刑確定者の拘禁は、死刑確定者を社会から厳格に隔離し、その心情
    の安定を図りつつ、刑執行までの間の逃亡、自殺等を防止する必要があ
    るなど、自由刑確定者の拘禁とも未決勾留者の拘禁とも、その目的及び
    性格を異にするものである。
     すなわち、自由刑確定者の拘禁は、それ自体が自由刑たる刑罰の執行
    であり、将来の社会復帰を前提にした教育的効果を期待し、かつ要求す
    べきものであるのに対し、死刑確定者の拘禁は、生命刑たる刑罰そのも
    ではなく、また将来の社会復帰を前提にした教育的効果を何ら目的とは
    していない。また、未決勾留者の拘禁は、いわゆる無罪の推定を受ける
    者について専ら逃走及び罪証浬滅の防止を目的とするのに対し、死刑確
    定者の拘禁は、死刑執行の前置手続として定められたものであって、再
    審請求の場合を除き罪証浬滅の防止を考慮する必要はない。すなわち、
    死刑確定者の拘禁は、死刑確定者を厳重に社会から隔離し、その刑の執
    行までの間の逃亡、自殺等を防止するとともに、死刑の適切な執行を確
    保することにあるものと解せられる。
     そして、死刑確定者と他の被拘禁者との最大の相違点は、死刑確定者
    には、社会復帰はもちろん、生への希望さえも断ち切られている点であ
    り、その内心は通常一般人では計り知れないものがある。このため、死
    刑確定者は、絶望感にさいなまれて自暴自棄になり、あるいは極度の精
    神的不安定状態を招来し、また自己の生命・身体を賭して逃亡を試みる
    など、将来における刑の執行を困難にするおそれがないとはいえないば
    かりか、他の被拘禁者に比すべくもなく、拘禁施設の現場担当者の管理
    に重大な支障・困難が生ずる危険性が高いものであることは、容易に推
    察されるところである。それ故、死刑確定者については、その管理の必
    要上、精神状態の安定について格段の配慮を払う必要がある。
  (二) 死刑確定者の自由の制限等について
     拘禁とは、一定の場所に身柄を拘束することであるが、限られた物
    的・人的設備をもって被拘禁者の身柄拘束を確保・維持するためには、
    移動の自由が制限されることは自明のこととして、施設管理上、各種の
    自由に一定の制限を加える必要性を否定することができず、その制限が
    拘禁確保のために必要かつ合理的なものであると認められる限りは、拘
    禁そのものに必然的に伴う自由の制限として許されるべきである。した
    がって、前記三種の拘禁は、それぞれ法的な目的及び性格を異にするも
    のであるから、その相違点が、それぞれの拘禁に付随する具体的な処遇
    の局面に反映することも必要かつ合理的な限度で是認されるべきであり、
    各種自由に対して、いかなる内容の制限をいかなる程度まで許容しうる
    かは、各拘禁の法的な目的及び性格を考慮して決定されるべきである。
     ところで、監獄法九条は、死刑確定者には特段の規定のない限り刑事
    被告人に関する規定を準用すると定めている。しかしながら、監獄法令
    の在監者に関する各規定は、在監者の種類ごとに相応かつ適正な処遇が
    なされるべきことを要求しているものであるから、その内容は各在監者
    の種類ごとに異なったものとなるのは当然である。これは、監獄法令の
    規定のうち明示的に特定の在監者を対象としている規定に限るものでは
    なく、在監者一般に関する規定及び他の種類の在監者に適用すべき規定
    の準用を受ける場合においても変わりはない。そして、前述のとおり、
    未決勾留者の拘禁と死刑確定者の拘禁とはその法的な目的及び性格を異
    にするものである以上、同法九条は、死刑確定者の処遇に関する別段の
    規定がないときに刑事被告人に関する規定を準用することを規定したに
    とどまり、その解釈・運用についてまで刑事被告人と同一に扱うことを
    要求するものではなく、死刑確定者の拘禁と刑事被告人の拘禁との法的
    な目的及び性格の差異に応じた修正を施した上で刑事被告人に関する規
    定を準用し、死刑確定者に対しその拘禁の目的及び性格に応じた適正な
    処遇がなされるべきであることを要求したものと解すべきである。
     そうすると、監獄の長が死刑確定者に対して各種の自由を制限すべき
    か否かを決定するにあたっては、当該制限の必要性の程度、制限される
    自由の内容・性質、古制限の程度・態様、右制限により死刑確定者が被
    る具体的な不利益を慎重に比較衡量して、右制限の必要性・合理性を判
    断すべきである。そして、古制限に関する必要性の程度を判断するにあ
    たっては、刻々変化する死刑確定者の動静と微妙な心理状態を迅速かつ
    適正に把握し認定することが不可欠であるから、当該死刑確定者の動静
    及び心理状態を、常に総合的かつ個別的に把握しうる状況にある当該拘
    禁施設の長に、相当程度の裁量権が与えられているものと解すべきであ
    る。
  (三) 死刑確定者の外部交通権の制限について
     死刑確定者の外部交通権については、監獄法第四五条第一項、第四六
    条第一項及び第五三条が適用されるところ、右各規定は在監者の外部交
    通の許否を監獄の長の裁量的判断にかからしめているものと解される。
    そして、死刑確定者の拘禁について要求される社会からの厳格な隔離と
    心情の安定を図る責務等にかんがみれば、右判断に当たっては、監獄に
    おける拘禁の確保及び社会不安の防止等の見地のみならず、死刑確定者
    の心情の安定に資するものであるか否かをも考慮しなければならない。
    このような見地から、死刑確定者の接見及び信書の発受については、そ
    の拘置目的等に照らし、@本人の身柄の確保を阻害し又は社会一般に不
    安の念を抱かせるおそれのある場合、A本人の心情の安定を害するおそ
    れのある場合、Bその他施設の管理運営上支障を生ずる場合には、おお
    むね許可を与えないこととなっている。
     東京拘置所においても、死刑確定者の接見及び信書の発受に関する取
    扱いについては、一般的にこれを制限し、本人の親族(ただし、死刑確
    定後の外部交通の確保を目的として未決拘禁中に養子縁組を結ぶに至っ
    たと認められる場合など、死刑確定者の法的地位に照らし、許可すべき
    でない者を除く。)、本人について現に係属している訴訟の代理人たる
    弁護士、その他本人の心情の安定に資すると認められた者についてのみ、
    外部交通を許可することとし、それ以外にも裁判所又は権限を有する官
    公署あるいは訴訟の準備のための弁護士との外部交通については、本人
    の権利保護のために必要かつやむを得ないと認められる場合に限り、こ
    れを個別に許可する扱いとしている。
     これに加えて、大道寺及び片岡の両死刑確定者については、日本赤軍
    等の不法集団が両名を含むいわゆる連続企業爆破事件の関係者に対する
    身柄奪還を狙っているとの情報もあることから、東京拘置所では、右両
    名の身柄確保については予断を許さない状況にあるとの認識の下、その
    死刑確定以来一貫して、右両名が外部支援者等と情報のやりとりをする
    ことについては細心の注意を払ってきているものである。
  3 大道寺および片岡両死刑確定者の裁判及び在監中の動向並びにその支援
    者の動向等
  (一) 大道寺及び片岡両名らが敢行したいわゆる連続企業爆破事件の刑事第
    一審判決は、その判決文の中で、大道寺については、「三菱重工爆破事
    件をはじめ各爆破事件を実行し、特に三菱重工事件で死者八名及び少な
    くとも百数十名の重軽傷者を出すなどしながら、東アジア反日戦線の反
    日武装闘争の必然性、正当性を主張し、一連の爆破攻撃を海外進出企業
    に対する正義の戦いであるとして、犠牲者や遺族に対する謝罪の言葉は
    ついになく、自己の意図を貫徹するためには多数の市民を殺傷すること
    も容認する冷酷非情で思い上がった態度には慄然たるものがある、」
    「その実行した爆弾による反目武装闘争を高く評価し、その戦いを承継
    し発展させて海外進出の各企業の中枢に対する武装攻撃を貫徹するよう
    に呼号し、志半ばに逮捕されたことを遺憾に思っている旨述べており、
    その反社会的思考は根深く固着していて矯正できるとは到底考えられな
    い。」旨、片岡については、「あくまで自己らの各犯行の目的・動機は
    正当であるとし、また武力闘争による革命という考え方は何ら変えては
    いず、人命に対する畏敬の念もなければ、八名もの人命を奪い、少なく
    とも百数十名に重軽傷を与えたことに対する人間的な反省があるとは認
    められない」「自己らの目的を至高のものとし、その目的のためには、
    他人の生命も手段にすぎないとする人命蔑視と思い上りが如実に窺え
    る」「その反社会的思考は深く固着化していて抜き難い」旨、それぞれ
    認定しているばかりか、両名とも、第一審の公判審理過程においては再
    三にわたり出廷を拒否し、裁判長の訴訟指揮にも従わずに退廷させられ
    るなどの激しい法廷闘争を繰り返してきた。
  (二) また、大道寺及び片岡両名は、「統一獄中者組合」の一員であるが、
    この組合は、日帝支配打倒をスローガンに監獄解体を標榜する「獄中者
    組合」と監獄解体及び獄中者解放を標榜する「獄中の改善を闘う共同訴
    訟人の会」の両組織が統合して、獄中者及び出獄者の権利の確立と拡大
    を活動目的に、昭和六〇年一一月一六日結成されたものである。右両名
    は、その運営委員などとして積極的にその運営に参画しているばかりか、
    死刑制度廃止と監獄法改正反対闘争に積極的に取り組んでいる「麦の会
    (日本死刑囚会議=麦の会)」の一員となり、これらの組織に加入して
    いる在監者及び外部の支援者らと呼応し、いわゆる対監獄闘争と称して、
    各種の不服申立てを累行し、特に、片岡は、対監獄闘争の一環として、
    職員に暴行を働いたり、大声を発したり、ハンストを行うなどして、再
    三にわたり懲罰を科されてきたものである。
  (三) そして、これに応じ、大道寺及び片岡の支援者らも、右両死刑確定者
    の刑事裁判が最高裁判所に係属していたころには、「死刑攻撃阻止」や
    「判決粉砕」等のスローガンを掲げ、ビラや信書によって死刑執行阻止
    に向けて共に闘う旨の意思を右両名に伝えたり、東京拘置所に対する抗
    議行動等をたびたび行い、また、右両名の死刑が確定してからは、「死
    刑制度撤廃」、「死刑執行阻止」、「生きて身柄を奪い返す」といった
    ことをスローガンに掲げ、マスコミへの投書、国会議員や関係機関への
    陳情なども行い、なかにはテロ行為をほのめかす者もいた。
     加えて、現時点でも、「死刑制度撤廃」、「死刑執行阻止」を主張し
    てビラ配り等の活動を継続している。
  二 大道寺及び片岡の証人尋問を公開法廷で行うことが、「在監関係の自立
   性」たる憲法秩序に与える弊害等
   前記事情によれば、大道寺及び片岡両名の証人尋問を東京地裁において実
  施することによって、憲法秩序の一つである「在監関係の自立性」に以下の
  ような弊害が生ずることが明らかである。
  1 東京拘置所が、大道寺及び片岡両死刑確定者の拘禁目的を全うするため
   に取ってきた外部交通の制限等による心情安定のための種々の方策が無に
   帰するのはもとより、両名の今後の心情の安定に悪影響を及ぼす可能性が
   極めて高い。
    前述したとおり、東京拘置所においては、大道寺及び片岡両名が死刑確
   定者であることに加えてその犯罪内容、裁判及び在監中の動向及び支援者
   の動向等を考慮して、外部交通権等を制限し、両名の心情の安定に努めて
   いるところ、本件において、東京地裁の公開法廷で証人尋問を実施するこ
   とになれば、多数の支援者及び関係者と顔を合わせることになり、その間
   に、実際上制限することが困難な不規則発言や目配せといった明示・黙示
   の諸々の言動等によって連絡を取り合うなど、事実上、接見及び信書の交
   換をするのと何ら変わりない事態を招来するばかりか、それによって、こ
   れまで東京拘置所が取ってきた両名の心情を安定させるための努力を水泡
   に帰させるのみならず、その後の拘禁目的の達成に多大な悪影響を及ぼす
   おそれ必定である。
    そればかりか、片岡は、東京拘置所の外部交通権の制眼を違法として、
   処分取消の行政訴訟を提起したところ、これが東京地裁及び東京高裁にお
   いて敗訴したため上告し、現在、最高裁判所に係属中であるため、ここで
   右死刑確定者両名の証人尋問を東京地裁で行うことになれば、右東京高裁
   の判断に反するだけでなく、最高裁判所の審理結果を待たずして、事実上、
   外部交通権の問題に独自の見解を示すに等しく、三審制の根幹にも抵触す
   る疑いが出てくると言わざるをえない。
  2 大道寺及び片岡両名につき、身柄の奪還あるいは逃亡のおそれが否定で
   きない上、ひとたび奪還及び逃亡という事態が生じた場合には、「在監関
   係の自立性」の憲法秩序はもとより、我が国の刑事司法制度全体としての
   憲法秩序に与える弊害は甚大である。
    東京拘置所では、大道寺及び片岡両死刑確定者の逃亡を防止するため、
   拘置所内で種々の方策を講じている。しかし、東京地裁で証人尋問が行わ
   れることになれば、必然的に押送の必要性が生じて施設外への身柄の移動
   を余儀なくされ、それに伴って、右両死刑確定者の奪還及び逃走のおそれ
   が増大することは明らかである。
    すなわち、大道寺及び片岡両死刑確定者は、連続企業爆破事件の中心的
   存在であった者であり、現在でもその支援者が多数いるばかりか、大道寺
   あや子及び被告人が、極左過激派集団日本赤軍の敢行したいわゆるダッカ
   事件において超法規的措置により、国外に逃亡したように、支援者あるい
   は極左過激集団による奪回のおそれは今なお継続している。
    加えて、押送車両の事故等の偶発的事情により、逃亡が容易となる事態
   が発生しないとも限らないところである。
    右のような事態は検察官の憶測にすぎず、杞憂であるとの見解も存しよ
   うが、前記ダッカ事件及びいわゆるクアラルンプール事件により、大道寺
   あや子、被告人及び佐々木規夫が国外に逃亡し、それにより、我が国の司
   法制度が諸外国から重大な不審の目で見られたこと、そして、両事件とも
   晴天の霹靂とも言うべき事件で、当時の日本国民の誰しもが予想していな
   かった不測の事態であったこと、これに加えて、最近におけるオウム真理
   教信者らによるサリンを使用した凶悪事件の発生等、日本国民の誰しもが
   予想だにしなかった事件の発生等の経験を踏まえれば、検察官の主張が杞
   憂などではなく、極めて現実的なおそれであることは明らかである、
    そして、右のおそれがひとたび現実化した場合に、我が国の司法制度は
   もとより、在監関係の自立性を認めている憲法秩序に与える影響の深刻さ
   には、計り知れないものがあるのも明らかである。
 三 刑事訴訟法第一五八条の所在地尋問の要件の検討及び東京拘置所での実施
  環境等
  1 刑事訴訟法第一五八条の意義
    刑事訴訟法は、裁判の公開原則をはじめとする公判審理に関する諸々の
   基本原則を規定する中で、証人尋問については、公判期日における尋問を
   原則としつつも、その第一五八条において、いわゆる所在地尋問を認めて
   いる。
    同条第一項は、所在地尋問の要件について、「裁判所は、証人の重要性、
   年齢、職業、健康状態その他の事情と事案の軽重とを考慮した上・・・・
   必要と認めるときは、裁判所外にこれを召喚し、又はその現在場所でこれ
   を尋問することができる」旨規定しているところ、この所在地尋問の要件
   としては、「喚問の不可能性」までは要求するものではなく、喚問の困難
   性・妥当性に関する事情を考慮してその必要性を判断するというのが通説
   であり、例えば、証人の裁判所への喚問が困難な場合または裁判所外での
   尋問によらなければ適切な供述が得られない場合にも、所在地尋問を実施
   できるとしている(「条解刑事訴訟法」二二九頁、「注釈刑事訴訟法第一
   巻〔増補版〕五六八〜五六九頁、「大コンメシタール刑事訴訟法第二巻六
   四二〜六四四頁、「判例コンメシタール刑事訴訟法T」四六一〜四六二、
   「刑事実務ノート1二八三〜二八六頁、「証拠法体系W」一六〇〜一六三
   頁)。
  2 大道寺及び片岡両死刑確定者に対する証人尋問と刑事訴訟法第一五八条
   の要件について
  (一) 大道寺及び片岡両死刑確定者に対する拘禁目的を実現するために東京
     地裁に喚問できない事情は、右の証人の裁判所への喚問が、困難であ
     り・妥当でない場合に該当する。
     すなわち、前記一及び二で論述したとおり、東京拘置所においては、
    大道寺及び片岡両死刑確定者の拘禁目的を全うするため、自殺及び闘争
    の防止はもとより、心情の安定を図るべく、外部交通の制限等種々の方
    策を講じているところ、両名の言動及び支援者等の動向を考慮すれば、
    東京地裁の公開法廷で証人尋問を実施することになれば、両名の心情の
    安定を図るためのこれまでの措置が水泡に帰するのはもとより、支援者
    との接触により往時の武装闘争の思考がよみがえることは推測に難くな
    く、今後におけるの心情安定のための方策にも多大な悪影響を与えるこ
    とは必至である。これに加えて、両名の奪還という事態が決して杞憂で
    はない現状と、東京地裁において右死刑確定者の証人尋問を実施する場
    合における東京拘置所側の過重な負担ないしは同地裁で実施される他の
    多数の被告人の裁判に及ぼす重大な影響等を直視すれば、東京地裁にお
    いて右死刑確定者に対する証人尋問を行うことは、正しく困難であり、
    妥当ではないと言うべきである。
  (二) 加えて、大道寺及び片岡両死刑確定者の証人尋問は、右の「裁判所外
    での尋問によらなければ適切な供述が得られない場合」にも該当する。
     すなわち、被告人は、これまでの意見書において、大道寺及び片岡両
    死刑確定者並びに自己に対する東京拘置所側の処遇に関し、同拘置所に
    対する非難・攻撃を続けており、これに、前記大道寺及び片岡の同拘置
    所内における同様の活動状況及び被告人らの多数の支援者が傍聴へ詰め
    掛けることを考慮すると、公開法廷の場が、被告人らの新たな闘争の場
    になるおそれが濃厚であるため、正常な証人尋問の実施が困難となり、
    真実発見に資することには到底なりえないと思料される。
   3 東京拘置所において証人尋問を実施する場合の弊害及び実施の環境等
  (一) 東京拘置所で証人尋問を実施する場合の弊害の有無
     東京拘置所において所在地尋問を実施することになれば、前記我が国
    の刑事司法制度及び憲法秩序の一つである「在監関係の自立性」に対す
    る悪影響及び危機が防止できる上、所在地尋問とはいっても、中立的な
    立場の裁判所の面前で、大道寺及び片岡両死刑確定者を証人として尋問
    するのはもとより、弁護人、被告人の立会及び反対尋問権も保証されて
    いるばかりか、その証人尋問の結果は、証人尋問調書として公判期日に
    公開された公判廷で取り調べられるのであり、裁判公開の原則そのもの
    に及ぼす影響は最小限に止まる。
  (二) 東京拘置所で証人尋問実施する場合の環境等
     東京拘置所側では、大道寺及び片岡両死刑確定者の同所内での所在地
    尋問の実施に当たっては、期日及び場所の確保につき、万難を排して協
    力する旨確約しており、同拘置所での証人尋問実施の環境に問題はない。
四 結論
   以上種々検討してきたとおり、本件における大道寺及び片岡両死刑確定者
  の証人尋問を、東京地裁で敢行することは、我が国の憲法秩序を乱し、我が
  国の刑事司法制度に対する諸外国の信頼を再び失墜しかねない危険の高い暴
  挙としか言いようがなく、したがって、憲法秩序の整合性及び刑事訴訟法が
  定めている所在地尋問の規定からしても、右死刑確定者両名に対する証人尋
  問は、東京拘置所における所在地尋問の方法による以外にないことに帰着す
  る。


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