即 時 抗 告 申 立 書

             再審請求人 大道寺 将 司
              同    益 永 利 明

 右の者らの再審請求事件(東京地方裁判所昭和六三年(た)第六
号)につき、東京地方裁判所刑事五部は一九九一年二月一八日請求
棄却の決定をなし、弁護人は同月二〇日その送達を受けたが、不服
があるので即時抗告を申立てる。

  一九九一年二月二三日

          右主任弁護人
東京高等裁判所 殿

      申 立 の 趣 旨
 原決定を取消す。
との決定を求める。
      申 立 の 趣 旨
一、原決定の主張整理は誤りである。
 1、原決定は「請求人の主張は極めて多岐にわたるが、再審事由
  としての主張の要点は以下に述べる二点に集約され」るとし、
  「その余の点は、原判決の証拠評価や事実認定の誤りを主張す
  るにとどまるものであって、適法な再審事由の主張と認められ
  ない」(四〜五丁)と断じている。
 2、しかし、いわゆる白鳥事件についての最高裁決定によれば「
  右の明らかな証拠であるかどうかは、もし当の証拠が確定判決
  を下した裁判所の審理中に提出されていたとすれば、はたして
  その確定判決においてされたような事実認定に到達したであろ
  うかどうかという観点から、当の証拠と他の全証拠とを総合的
  に評価して判断すべきである(る)」というのであるから、旧
  証拠がどのようなものであり、原判決において旧証拠がどのよ
  うな評価を得ていたのかを分析することは当然の前提である。

  次に、そのような証拠評価をふまえて新証拠の位置付けを分析
  するのが「再審」のはずである。
   請求人らは、再審請求書において原判決の構造的欠陥を摘示
  した。しかし、原決定はその点を適法な再審事由の主張ではな
  いとして立論している。これは右の最高裁決定に違反し誤りで
  ある。
二、原決定が『腹腹時計』の記載内容の真偽について立論している
 とろは誤りである。
 1、原決定は『腹腹時計』の「砂糖で代用した火薬は五キログラ
  ム単位で使わないと威力は望めない。塩素酸カリウムを主剤に
  した火薬・爆薬を混合し併用するならば、より良い結果を引き
  出しうる。」との記載内容について「誤りであるとは断じきれ
  ない。」と判旨している。更に、『腹腹時計』の記載内容のみ
  の問題ではないとして原判決を擁護するのである。
 2、しかし、原決定の立論は明らかに誤りである。
(一) 請求人ら(殊に請求人益永)が『腹腹時計』において記載し
  た内容は砂糖で代用(木炭に代えて)した場合は(塩素酸ナト
  りウムではなく)塩素酸カリウムと併用しなければ「より良い
  結果」を引き出せないという趣旨である。逆にいえば、砂糖と

  塩素酸ナトリウムの混合爆薬は「より良い結果」が引き出せな
  いという趣旨である(「再審請求書」一一一頁参照)。
   ところが、湯浅鑑定によれば、砂糖と木炭の燃焼性状は同程
  度であり、また塩素酸ナトリウムと塩素酸カリウムの性能は同
  程度であるという結果がはじめて得られたのである。そうする
  と、砂糖と木炭は可燃剤として同程度の性能があり、わざわざ
  塩素酸カリウムと併用する必要性がないことになる。これは明
  らかに『腹腹時計』の記載内容が誤っていることを示してい
  る。原決定の「誤りであるとは断じ切れない」というのも極め
  て曖昧な表現である。
(二) 更に、原決定は、原判決が『腹腹時計』の記載内容全体、請
  求人らのそれまでの経歴をふまえて「相当高度の知識を有して
  いた」旨認定していると擁護している。しかし、これは意図的
  に争点をずらしたものである。請求人らは、本件爆弾(セジッ
  トSを主たる内容とするもの)の爆発結果の認識を問題とした
  のである。本件爆弾とそれまでの経過には説明できない断絶が
  存したのである。そうすると、『腹腹時計』や請求人らの経歴
  は殺意不存在の証拠(間接事実)にはなりえても殺意存在の証
  拠にはもともとなりえないはずである。しかし、原判決は殊更

  に「相当高度の知識を有していた」ことの具体的内容として『
  腹腹時計』の前記記載内容を摘示している。従って、請求人ら
  も記載内容の科学的(物理的・化学的)真偽を問題としたので
  ある。
三、原決定が本件爆弾の爆発原因と殺意認定について立論している
 ところは誤りである。
 1、原決定は、湯浅鑑定における「燃焼実験の結果はただちに本
  件爆弾の爆発原因が請求人主張のごとき事由によるものであっ
  たことを裏付けるものではない。」とし、更に、本件爆弾にお
  けるペール缶、多量の爆薬、起爆装置という工夫、荒川鉄橋事
  件の内容からして殺意の存在は明らかであると判旨している。
 2、しかし、原決定のこのような立論は原判決の根本的欠陥を全
  て棚上げするものであって明らかに誤りである。
(一) 原判決は、我が国において初めて(当職らの知りうるところ
  )実際に使用されたセジットS爆弾の爆発原因について、全く
  無視している。原決定と同様にペール缶、爆薬の量、起爆装置
  の問題を摘示するのであるが、それがどのように爆発原因と関
  連するのか全く明らかではない。
(二) 請求人らは再審請求書において、本件爆弾の爆発のメカニズ

  ムをはじめて解明したのである。湯浅鑑定が燃焼実験の段階に
  止まっていることはそのとおりであるにしても、科学的な鑑定
  はこれが嚆矢であろう。
   本件爆弾はダイナマイトなどではなく、それまで実体験した
  ものではなかったのであるから、その爆発原因の認識は、殺意
  認定にとっても重要であり、本質的内容のはずである。本件爆
  弾以前の三回の実験はいずれも失敗していたのであるから尚更
  である。そうすると、湯浅鑑定は原判決の認定構造に重大な、
  合理的な疑いを生ぜしめる証拠なのである。
   燃焼実験にすぎないという批判は、一般私人の人的・物的能
  力からして酷に過ぎる。爆弾事件では凡そ再審請求を不可能に
  するというものである。
(三) 原決定(原判決も)は特に荒川鉄橋事件を摘示しているが、
  本件爆弾は荒川鉄橋時点ではセジットSと白色火薬の混合化が
  十分ではなく、鉄橋・列車を破壊しうるほどの威力が生じなか
  ったものと推測されるのである。湯浅鑑定はこの問題を指摘し
  ているから重要なのである。
四、以上の点につき、更に詳細な補充書を提出するものである。
                           以 上


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