鑑定書



大道寺将司、益永利明に対する爆発物取締罰則違反等被告事件再審請求事件につ

き、1994年11月10日、弁護士舟木友比古から鑑定を嘱託されたので、次の

とおり鑑定した。




                       1995年6月26日

                             東京都立大学工学部
                               助教授 湯浅欽史

目次
1.嘱託された鑑定事項
2・鑑定のための実験とその結果
[1]実験の目的
[2]実験の概要
[3]実験の準備過程
  ◎セジットSの製造と粒径の分別
  ◎オージャンドルの製造
  ◎爆発缶体と発火装置の製作
  ◎走行装置の製作
  ◎走行路の製作
[4]実験の実施過程
[5]実験の結果
3・実験結果の考察
[1]基本的な考え方
[2]セジットSの粒径と表面積の系総和の計算
[3]最小2乗法による直線式への近似
[4]相関係数による関係式の検証
4.鑑定主文
5.付録資料


                −1−

1.嘱託された鑑定事項

 (1)セジットSとオージャンドルとの混合物の爆発威力に関して、セジットSの
粒径の大きさによってどのような差異が生じるか。

 (2)その他参考となる事項。

2.鑑定のための実験とその結果

 [1]実験の目的

    セジットSの粒径を変えた場合の、セジットSとオージャンドルとの混合物
   が示す爆発威力の違いを定量的に明らかにする。

 [2]実験の概要

    セジットSの粒径の違いによる爆発性状(ここでは特にその威力)を定量化
   するために、1992年9月29日付の前鑑定実験と同様、火薬の爆発時に発
   生する高温高圧ガスの有する静的威力(発生ガスの圧力と体積との積)に着目
   し、これを比較することにする。そこで、今回もロケット推進の原理を用いて、
   市販の清涼飲料水の空缶内で爆発生成されたガスが噴出するときの運動量を反
   作用として利用する走行体の走行性状を観測した。基本原理、基本形状は前回
   と同様である。


                 −2−

[3]実験の準備過程

 ◎セジットS(Cheddites-S)の製造と粒径の分別
        使用材料   塩素酸ナトリウム   90(重量)%
               赤色ロウソク     7
               ワセリン       3

   湯煎した蒸発皿で赤色ロウソク(主成分はパラフィン)とワセリンを溶かし、
  約80℃に保ちつつ、乳鉢で微粉とした塩素酸ナトリウムを添加し、木べらで攪
  絆して一様に混合する。これを円筒形のプラスチック容器に詰めて押し固め、
  室温まで冷まして取り出し「固形状セジットS」とする。
   この固形状セジットSを木べらで押しくずした後、網目の大きさが5.0mm、
  2.0mm、0.85mmのふるいに、この順でかけて分別し、「大粒」「中粒」「小粒」
  と呼ぶことにする。それぞれ、次の粒径範囲のセジットSである。
        大粒5.0〜2.0mm
        中粒2.0〜0.85mm
        小粒0.85mm以下

   赤く着色されたパラフィンを用いたのは、不燃のセジットSの残存状況を視
  覚的に捉えやすくするためである。

 ◎オージャンドル(Augendre)の製造
        使用材料  塩素酸カリウム     50(重量)%
              黄血塩         25
              砂糖(上白糖)     25
   それぞれを乳鉢で微粉とした後、木べらで攪拌して一様に混合する。

 ◎爆発缶体と発火装置の製作
   爆発缶体は、バインドテープを円筒状に巻き、片側にブラスチック製の台座
  を、反対側にボール紙製のふたを付けたものである。一様な爆発を確保するた
  めに、細い幅のバインドテープを十文字に貼って、ボール紙製のふたを押える。
  出来上がり寸法は、外径16mm、長さ約30mmである。
  発火装置としてニクロム線を使用し、プラスチック製の台座を通した2本の
  電線の間に電流を流し(電源は単3乾電池6本直列)、そのときニクロム線に
  発生する熱を発火に利用する。



                 −3−

《爆発缶体の分解図》

◎走行体の製作
  市販の清涼飲料水の空缶(スチール製、内容量350ml、外径65mm、高さ122mm)
 を外缶とし、より小さな空缶(スチール製、内容量250ml、外径50mm、高さ110
 mm)を内缶とする。それぞれの飲み口側を除去し、外缶の中に内缶を挿入し、
 ふたつの缶の間のすきまに砂をつめたものを台車上に取り付ける。
 台車は、木製板(縦250mm、横90mm、厚さ12mm)に車輪(径40mm、厚さ10m)
 を取り付け、さらに走行を安定させるために、台車の車輪側中央に前後2ヶ所
 ヒートンを取り付け、釣り糸を通した。また、傾斜路を上らせるため、逆走止
 めのギアを前輪左側に設置した。台車の板上にL字型金具を取り付け外缶の押
 さえとし、そこに外缶をベルトで固定した。台車の上に1000gの重りを載せ、
 走行体の車体総重量は1530gとなった。


                 −4−

《走行体に載せる外缶と内缶の縦断面図》

《走行体の透視図》

《逆止めのギア部分の拡大図》



                −5−

 ◎走行路の製作
   ベニヤ板(縦180cm、横90cm、厚さ1.2cm)を2枚つなぎあわせ、一方を17
  cm高くして傾斜させ、走行路とした。つなぎ目には粘着紙テープを貼り、段差
  がでないようにした。
   今回傾斜路としたのは、走行距離を安定して測定するためである。噴出ガス
  の運動量の反作用は走行体に力積(力×作用時間)として与えられるが、初動
  抵抗をこえた推進力によって走行体に初速が得られ、その運動エネルギーが走
  行抵抗と(傾斜路の)位置のエネルギーに変換されて停止する。位置エネルギ
  ーは安定しているが、初動抵抗と走行抵抗はバラツキがあると思われるので、
  傾斜路とすることによって、より安定した測定値が得られることを期待した。


《走行路の全体図》

[4]実験の実施過程

   (1)各粒径ごとに、セジットS(3.5g,70%)とオージャンドル(1.5g,
     30%)との混合火薬5gを装填した爆発缶体を各2個製作する。

   (2)走行路の出発位置に走行体をセットする。この走行体に載せた内缶の
     所定の位置に爆発缶体を入れる。

   (3)爆発缶体に電源とスイッチを結線する。実験装置全体の準備完了を確
     認してからスイッチをONにする。

   (4)爆発により発生した生成ガスの排出の反動により走行体を走らせ、ビ
     デオ撮影を終えてから走行路上の走行距離を測定する。


                −6−

[5]実験の結果

   各粒径のセジットSとオージャンドルとの混合火薬によって得られた走行距
  離は、以下のようになった。なお、横ズレ距離を参考のためカッコ内に示す。

       case  粒径      走行距離(cm)
        1  大       38.0(3.0)
        2  大       10.0
        3  中       34.0(4.5)
        4  中       39.0(2.0)
        5  小       154.0(14.0)
        6  小       97.0(2.0)
   横軸にセジットSの粒径(求め方は3.[2]で詳述)、縦軸に走行距離を
  とって以上の結果を示すと、以下のグラフ1を得る。

《グラフ1》

3.実験結果の考察

[1]基本的な考え方

  (1) 走行体を走らせる作用は、爆発缶体内の火薬の爆発によって発生したガ
     スが噴出するときの反作用(ロケットと同じ原理)であるから、爆発の威
     力(生成ガスの体積と圧力の積)が大きいほど走行距離が長くなる。同一


                 −7−

     火薬量(5g)同一配合(70:30)でセジットSの粒径を変化させたとき
     の走行距離の差は、粒径が異なることによる火薬の威力の差を表している
     ことになる。

  (2) 炭坑などの粉塵爆発は、しばしば大惨事を引き起こしている。このよう
     な濃密度の固体粒子は小さいほど、空気と混合して爆発的に燃えることは
     よく知られている。粒子が小さければ小さいほどその全体としての表面積
     は拡大しているわけで、そのため空気との接触面も拡大し、化学反応を起
     こしやすくなっているからである。したがって粉塵爆発の場合、固体粒子
     の表面積の総和が大きいほうが爆発に必要な反応速度が得やすくなり、爆
     発威力も高まると考えられる。

  (3) 1992年9月29日付鑑定書で明らかにしたように、セジットSの爆
     発には、ロウソクが燃えるのと同じ原理で、パラフィンとワセリンを一旦
     融解・気化させるに至るだけの熱が発生しないと、塩素酸ナトリウムの分
     解によって生じる酸素と反応できず、反応が進行するには不断の熱供給を
     必要とする。そのため、セジットSは着火感度が低くかつ立ち消えること
     もある。したがって、セジットSの粒径が小さく表面積の総和が大きいほ
     うが、着火感度の高いオージャンドルの燃焼によって発生した熱を受けや
     すく、着火にいたるセジットSの量が増え、爆発の威力も高まる、と考え
     ることができる。

  (4) 以上より、本実験においても、セジットSの粒径が小さいほどその表面
     積の総和は大きくなり、爆発力は高まっているはずであると推測すること
     ができる。そこで、この推測が妥当であるかどうかは、各粒径のセジット
     Sの表面積の総和と走行距離との関係によって検証することができる。

[2]セジットSの粒径と表面積の総和の計算

   2の[3]の「セジットSの製造と粒径の分別」で示した過程によれば、出来
  上がった粒状のセジットSはequi-dimensionalな(板状や棒状ではなく、タテ・
  ヨコ・タカサが同程度の)固形粒子としてオージャンドルと混合されていると考
  えられる。そのため、「大粒」「中粒」「小粒」と称するそれぞれの粒子群の平
  均的な粒径の値(D)は、以下のようにして、最大粒径と最小粒径との相乗平均
  から近似的に求められる。なお、0.85mmを通過した粒子群である「小粒」の
  最小粒径は、0.2mmと仮定した。
   一般に粒径の異なる固体粒子の混合物の混合性状は、粒径の対数と累積重量百

                 −8−

  分率との関係として表わされるが、このことは粒径のもつ物理的性質への効果が
  等差的ではなく等比的であることによっている。それゆえ、粒径に幅のある混合
  物の性質は、粒径の相加平均で代表されるというよりは、粒径の相乗平均で代表
  されると考えた方がよい。1から10への変化は9プラスしたものとして、10から
  19への変化と類似していると考えるのではなく、10倍、すなわち10から100への
  変化と類似していると考える――差が9なのではなく比が10倍として見ること
  に相当している。

    網目5.0mmのふるいを通過し、網目2.0mmを通過しなかったセジットS
  (大粒)の代表粒径は、

            __
      D(大)=5×2=3.16mm

   網目2.0mmのふるいを通過し、網目0.85mmを通過しなかったセジット
  S(中粒)の代表粒径は、
            ____
      D(中)=2×0.85=1.30mm

   網目0.85mmのふるいを通過したセジットS(小粒)の代表粒径は、
            ____
      D(小)=0.85×0.2=0.41mm
  となる。

   ここで求められたそれぞれのDは粒子群中の粒子の平均的な粒径を表わして
  いるので、装填された同一重量のセジットSの表面積の総和は、Dの逆数に比
  例することになる一たとえば、1辺1cmの立方体の表面積は6cmであり、それ
  を1/10に砕いた1辺0.1cmの立方体1000個の表面積の総和は
      (0.1cm)×6×1000=60cm
  である。

   以上の考察より表面積の総和の相対的な値を表わす指標として、S=1/D
  を用いることにする。

       S(大)=1÷3.16≒0.316
       S(中)=1÷1.30≒0.767
       S(小)=1÷0.291≒2.425

  となる。ここで得られたSは、粒径1mmの場合の表面積の総和を基準として表
  現した、各粒径群(同重量)の表面積の総和の比率を表していることになる。

                  −9−

[3]最小2乗法による直線式への近似
    n個の(Xi,Yi)の組があるとき、XiとYiとの間にY=aXの関係を
   仮定して、残差の平方和を最少にするaを求める最小2乗法の公式を、上記の実
   験結果に適用する。[2]で求められた表面積の総和の比率SをXとしたときに、
   走行距離Yとの間に直線式をフイットさせる係数aを求めることにする。

    残差平方和Aは次式で与えられ、
             A=Σ(Yi−aXi)
   Aを最小にするaは、次式から求められる。
               dA
              ―――― =0:Σ(Yi−aXi)・Xi=0
               da
   したがって、aは次のように求められる。
                 ΣXiYi
             a= ――――――
                 ΣXi
   次の《表1》の数値を上式に代入してaの値を求める。
《表1》

case 1 2 3 4 5 6
ふるい目(mm) 5.0〜2.0 2.0〜0.85 0.85〜0.2
粒径の呼び名 大粒 中粒 小粒
粒径の平均的な値D(mm) 3.16 1.30 0.412
表面積の総和の相対値Xi 0.316 0.767 2.425
走行距離(cm)Yi 38.0  10.0  34.0  39.0  154.0  97.0 


             ΣXi2=13.14
             ΣXiYi=679.93
  したがって、
                ΣXiYi
             a=――――――=51.74≒52
                ΣXi
  となる。表面積の総和の相対値と走行距離の関係を表わす式はY=52Xとなる。
  この関係式を実験結果とともに《グラフ2》に示す。


                     −10−


《グラフ2》

[4]相関係数による関係式の検証

    [3]で得られた直線式が実際のデータに即してどの程度妥当なものであるか
   どうか調べてみる。そのために、XとYとの相関係数rをとり、XとYとの関連
   性の強さとする。一般に、このrの値は絶対値で1を越えることがなく、1に近
   いほど正の相関が高く、−1に近いほど負の相関が高くなり、正負とも0に近い
   ときはXとYの間には関連性が低い。

    《表1》からX,Yそれぞれの平均値と標準偏差を計算すると、
           平均値
              _
              X=1.17
              _
              Y=62
          標準偏差
              Sx=0.907
              Sy=48.49

   相関係数rは次の式で与えられるので、それぞれの数値を代入すると、
              _     _
            Σ(Xi−X)(Yi−Y)
          r=―――――――――――――
               i×Sx×Sy

             244.87
           =――――― =0.922
             265.2


                  −11−


   となり、rが0.9を越えているので、表面積の総和の相対値と走行距離は極めて
   高い相関関係をもっていることになる。

   このことから、0.85mmふるい目を通過した粒子の最小粒径を0.2mmと仮定して、
   同一質量をもつ爆発性粒子群の表面積の総和は、走行距離に比例的な影響を及ぼ
   すことが、今回実験に用いた粒径の範囲内では、かなり良い近似で推認される。

4.鑑定主文

(1)セジットSとオージャンドルとの混合物の爆発威力は、セジットSの粒径によ

  って変化する。

(2)セジットSとオージャンドルとの混合物の爆発威力は、実験で用いた粒径の範

  囲内では、セジットSの粒径が小さくなるほど大きくなる。


5.付録資料

 (1)写真12葉

 (2)ビデオテープ1本(約2分30秒)


なお、本鑑定は1995年1月19日に着手し、1995年6月16日に終了した。






                   −12−


付録資料 サンプル


写真(3)実験場の前景: 傾斜させた走行路とヴィデオ撮影機


写真(5) 走行路上にセットされた走行体(斜め後ろから)


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