鑑 定 書
大道寺将司、益永利明に対する爆発物取締罰則違反等再審請求事件につき、
1990年 8月28日、弁護士舟木友比古から鑑定を嘱託されたので、次の
とおり鑑定した。
1991年 3月12日
東京都立大学 工学部
助教授 湯浅欽史
目次
[1]嘱託された鑑定項目
[2]鑑定のために行なった実験の概要
1. 実験の目的
2. 実験に用いた試料
3. 燃焼させた混合物
4. 実験方法
(1) 混合物の作製
(2) 混合物への着火
(3) 燃焼時間の計測
(4) 残滓の収集と計量
(5) 残滓の写真撮影
[3]実験の結果とその考察
[4]鑑定主文
[5]付録資料
[1] 嘱託された鑑定項目
1. セジットSとオージャンドルとの混合物の混合率の違いによる残滓重量の比較
2. セジットSとオージャンドルとの混合物の混合率の違いによる燃焼時間の比較
[2] 鑑定意見を述べるために行なった実験の概要
1. 実験の目的
(1) セジットSとオージャンドルとの混合物の混合率を変えたときの、残滓
重量の測定
(2) セジットSとオージャンドルとの混合物の混合率を変えたときの、燃焼
時間の測定
2. 実験に用いた試料
セジットSとオージャンドルの混合物である。
セジットSの混合率は0%から100%まで、10%毎に11種類を用いた。
(1)セジットS(Cheddites-S)
塩素酸ナトリウム 90(重量)%
パラフィン 7
ワセリン 3
(2)オージャンドル(Augendre)
塩素酸カリウム 50(重量)%
砂糖 25
黄血塩 25
3. 燃焼させた混合物
セジットSとオージャンドルの混合物をそれぞれの混合率で3グラムずつ製造し
試料とした。
4. 実験方法
(1) 混合物の製造
1) セジットSの製造
塩素酸ナトリウム18.0g、パラフィン1.4g、ワセリン0.6gをそれぞれ計量し、
パラフィンとワセリンを湯煎し、約80℃で溶かし、その中に充分に乳鉢で粉砕した塩素酸ナ
トリウムを入れ、よくかき混ぜ、冷却し、再び乳鉢で粉砕する。総質量20.0g
2) オージャンドルの製造
塩素酸カリウム10g、砂糖5g、黄血塩5gをそれぞれ計量し、それぞれ乳鉢で微粉状に
粉砕し混合する。
3) 混合
上記1)2)で製造したセジットSとオージャンドルを右の表にしたがって計量して混合し、
各実験caseの試料とした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・case・セジットS率(%)・セジットS(g)・オージャンドル(g) ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ 1 ・ 0 ・ 0 ・ 3.0 ・
・ 2 ・ 10 ・ 0.3 ・ 2.7 ・
・ 3 ・ 20 ・ 0.6 ・ 2.4 ・
・ 4 ・ 30 ・ 0.9 ・ 2.1 ・
・ 5 ・ 40 ・ 1.2 ・ 1.8 ・
・ 6 ・ 50 ・ 1.5 ・ 1.5 ・
・ 7 ・ 60 ・ 1.8 ・ 1.2 ・
・ 8 ・ 70 ・ 2.1 ・ 0.9 ・
・ 9 ・ 80 ・ 2.4 ・ 0.6 ・
・ 10 ・ 90 ・ 2.7 ・ 0.3 ・
・ 11 ・ 100 ・ 3.0 ・ 0 ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(2) 混合物への着火
直径約2mmの銅線をガスバーナーで赤熱し、蒸発皿に入れた試料に接触さ
せ、着火する。
(3) 燃焼時間の計測
着火から燃焼が終わるまでを、ストップウオッチで計測する。
(4) 残滓の収集と計量
皿の中に残った残滓、及び皿から飛び散って周囲に敷いた紙に付着した残
滓を収集し、重量の測定を行なった。
(5) 残滓の写真撮影
燃焼中の試料、及び皿に残った残滓を写真撮影した。付録資料として添付
してある。
[3]実験の結果
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・case・セジットS率(%)・残滓重量(g)・燃焼時間(s) ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・ 1 ・ 0 ・ 0.37 ・ 0.4 ・
・ 2 ・ 10 ・ 0.56 ・ 0.7 ・
・ 3 ・ 20 ・ 0.59 ・ 0.6 ・
・ 4 ・ 30 ・ 0.71 ・ 0.8 ・
・ 5 ・ 40 ・ 0.78 ・ 1.1 ・
・ 6 ・ 50 ・ 0.90 ・ 0.7 ・
・ 7 ・ 60 ・ 1.01 ・ 0.8 ・
・ 8 ・ 70 ・ 1.19 ・ 1.2 ・
・ 9 ・ 80 ・ 1.70 ・ 1.9 ・
・10 ・ 90 ・ 2.81 ・ 2.9* ・
・11 ・ 100 ・ 2.89 ・ − ** ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
* case10 の場合は燃焼が途中で立ち消えした。
** case11 の場合は溶けただけで燃焼しなかった。
以上の結果を、横軸にセジットS率(%)、縦軸に残滓及び燃焼時間をとって示すと、
以下のグラフを得る。参考のために画いた直線は次式の関係を示すものである。
(セジットS率)
(残滓重量)=0.4+―――――――――
100
[4]鑑定主文
(1) 残滓重量はセジットSの比率が多くなるにしたがって、直線的に多くなる。
セジットSの比率が80%以上になると、残滓重量は急速に増える。
(2) 燃焼時間は多少のばらつきはあるものの、セジットSの比率が多くなるにした
がって、長くなる。
セジットSの比率が80%以上になると、燃焼時間は急速に長くなる。
[5]付録資料
(1)写真17葉
(2)ビデオテープ1本(正味5分)
なお、本鑑定は1990年9月15日に着手し1991年3月12日に
終了した。