シャコのリハビリ日記(その59)

 学生時代の友人たちと30年ぶりくらいで再会した。自分でババアと言っているだけあって、なるほどババアになっていた。そう言う私もジジイになっているのだが。話していて思うのは、私はけっこう昔のことを憶えているなってことだ。耄碌ジジイではないようだ。安心した。その友人に、役者になるんだ、と話したところ、ぜったいにやらない方がいいと忠告されてしまった。と言われても今さら、発言を撤回することも出来ないだろう。まあ、いいや。一度くらいやったことのないことを試してみるのも面白そうだ。
 水族館劇場のスターダストになるのだから、セリフのひとつも覚えなくてならないのだろうが、その辺はちと自信はない。せいぜい赤いポストの役(小道具?)に向いているのではないかと思っている。反日の集会に、アワ、ワ、ワ、と口から泡吹いていたオジサンに気の利いたセリフなど喋れる筈もなく、さて、どうしようかと内心オタオタしているカンジ。ちょっと聞いたところによると、すでに役は決まっているとか。それにしちゃあ、練習の話はトンと来ない。まあ、練習をするほどの役ではないと云うことかもしれないから、私にとっては嬉しいかぎりだ。その役とは、ストリップ劇場の照明係だそうだ。とすると、ストリッパーのあそこにスポットライトを当て、「オープン!オープン!オープン!」と叫ばされるのだろうか?オープン!などと唱えたら、ブラックホールに吸い込まれてしまいそうで、なんかワクワク、じゃなかった、コワ□イ!
 私の出て来たブラックホールのオフクロは、相変わらずである。週三回に増やした夕食調理サービスにも慣れて来たようだ。毎回ヘルパーさんが替わるので、その辺で慣れないかなあ、と私は当初不安だったが、大丈夫のようだ。今は、三人のヘルパーさんが交替して来てくれている。ヘルパーさんが来てくれた日は、オフクロからの電話が掛かって来なくなった。それだけでも助かる。最近、シーツに黄色いシミがついているようになった。尿漏れなのかもしれない。これからは、便失禁についても注意しなくてはならなくなるかもしれない。アルツハイマー型認知症という診断だったが、症状はそれほど進行していないようだ。「アリセプト」という認知症の進行抑制剤が効いているのだろうか。まだ家の外へ出歩くような徘徊行動もないし、息子である私をちゃんと認識できている。社交的だから、客が来ると喋ること喋ること。呆れるばかりだ。私もオフクロぐらいペラペラ喋れれば、あえてする必要もない苦労をすることもなかっただろうに、と考えるのであった。それにしても、オフクロが缶ビールを飲み過ぎるので困る。夜中、喉が渇いた時に飲むからというので、寝床の横に缶を置いておくのである。飲まない日はない。すでにアルコール依存症になっているのではないかと私は疑っているのだが。オフクロは、自分が壊れていく不安感・恐怖から飲んでいるということがあるのだろう。症状が進行していけば、缶ビールを飲むことさえ忘れてしまうだろう。飲みたいものを無理に抑えても可哀想である。私だって、抑えられたくはないものね。人生は短い。楽しくやりたい。器量の小さい私だが、ナントカ楽しい人生にする為に大らかに格好をつけていきたい。とは言え、ついオフクロにナンダカンダとうるさく言ってしまい、ケンカしてしまう。それで気分が暗くなり、ブルーな一日にしてしまうのだ。ああ、嫌だ、嫌だ。どうせ暗い世の中なら、いっそ明るく生きていった方がいいだろう。よしっ、オフクロには、缶ビールをドンドン飲ませよう。
もちろん、私もガブガブいってやろう。

(090430)

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