シャコのリハビリ日記(その60)

 私は今、芝居をしている。一応、役者の端っこである。いわゆるピンからキリまでのキリである。それにしても、役者は大変である。セリフを覚えなければならない。セリフに合わせて、動かなければならない。大変である。今になって思う。もう少し、熟慮してから引き受ければ良かった、と。ちょっと軽かったね。
 シャイであまり自己主張もしない、そもそも声の小さい私が役者なんかになろうとすることが間違いであった。芝居の中にも出てくるセリフに「間違いだらけの人生だった」、というのがあったが、まさにそれかも。間違いは後から分かるものなんだよね。芝居は、セリフを覚えるのがまず第一なのだが、台本の完成稿がなかなかできない。公演が進む中で、どんどん台本が変わってくるのだ。こんなものなのか。だから私のセリフもどんどん増えて来てしまった。他の役者よりもずっと少ないセリフなのだが、ド素人の私にとっては必死で覚えなければならない。大変である。さらに大変なのは、びしょ濡れになることである。私は水の仲へ突き落とされる役もするのであった。さすが、水族館劇場である。水が付きものなのである。それもあって私は、4回着替えるのである。つまり、4回は出番があるということだ。なんということだ。4回もあるんだぜ。……と思っていたら、また出番が増えたようだ。私の主な役は、全国指名手配の爆弾犯人だ。要するに実録。ご丁寧に、小道具として、写真付きの指名手配ポスターまで作ってくれている。私としては、自ら本名をさらけ出して、という気持ちは全くなかった。馬の足ぐらいの役かと当初思っていたのだが、だんだん出番が増やされていたというのが実際のところ。別に、実録的でもいいか、とまたまた軽い気持ちで流れに任せてしまった。あとで後悔しないように、今のうちに、自分に因果を含めておこう。
 そうして始まった公演だが、私自身の演技は、学芸会の演技の段階にも至らず。セリフは、忘れて吹っ飛び。声は小さくて、客に聞こえず、何だ、あれはブツブツと、と客の不評が聞こえてくるようである。しかし、突っ立ているだけの案山子には、ナントカならずにすんでいるのが幸いか。
そんなダイコン役者の演技を、知り合いに見られないように、私は芝居に出ているんだとは、あまり宣伝していない。人知れず、笑われん、である。……と思って安心していたら、JさんとK子さんKYさんの3人が見に来た。私が舞台に立つと、クスクス笑っている奴等がいる。多分、あの3人か、といささか気にする私であった。せっかく、死刑廃止フォーラム90の3人が来たのだから、セリフの中に「だから死刑廃止!」とでも入れてサービスしてやろうかと思っていたら、その前のセリフが飛ばされて、言えずじまいになったのは、かえって良かったのかな。とにかく、私の声の小ささが問題であった。セリフを忘れようがなにしようが、声さえ大きければ、勢いでナントカ誤摩化せるようなんだ。私は長年、声を小さく小さくして生きてきたので、声を大きくするのはなかなか大変なのだ。無理してあまりに声を大きくしようとすると、声が裏返ってしまいそうだ。裏返った声で芝居するのもナンダカ怖いな。
 今回、芝居が、「救援」の編集作業の時期と重なってしまったので苦労している。さらに、オフクロのメシなどのこともあり、余裕のない日々を過ごしている。ナマケモノの私としては、それが一番イヤである。ノンビリしたい。
 今回、芝居を体験して、まあ面白かったと言っておこうか。それに少しは声が大きくなってきたろうかな。今の時点で、まだ6日間も残っているけれど。
 
(090530)

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