シャコのリハビリ日記（その８）
１２月４日に旅から帰ってきた。あっという間の１週間だった。
１２月６日,浴田由紀子控訴審決起集会に参加。何か喋って欲しいと言うので,喋ったら、ボロボロ。私に喋らせるな。私は,カキカキ人間であって,ベラベラ人間ではない。集会では,中山広子ちゃんとも会った。
しかし,初めは思い出せなかった。それもしかたない。面会で１回会ったきりだものね。どこかで会ったような、はて,誰だろうか,と思っていたら,「中山です。」と言われて分った。集会が終わり,２次会へ。私は,田舎に住んでいるので,２次会は途中で退席した。飲み会に最後まで付き合うことは,あまりない。
１２月２０日,多田謡子反権力人権賞の受賞会に出席。故多田弁護士について語って欲しいとのことだった。１２月６日をちゃんと総括した私は,原稿を書いてきた。制限時間は,１５分ほどだった。原稿を３枚書き上げて,一応,準備万端整えた…。しかし,完璧にはできなかった。どうも私は,ちゃんと準備しても上手くいった験しがないのだから困ったものである。だから,この頃は,「もういいや,準備も何もやーめとこかなぁ。」と思ったりする。そのくせアタフタ,オタオタとすぐなってしまう。困ったものである。
まあ,故多田弁護士のことを語るときには,どうしても感情に流されてしまうのもしようがないのかもしれない。原稿を読みながらも,途中でこみ上げてくるものに止められてしまう,「ウッ,ウッ,ウー」と。
あとで、永井じんじんに,「どうだった?」と聞いたところ,「文章はいいけれど,喋りはダメだね。」と言われてしまった。………そ,そうかあ?少しは良くなかったかあ?
しかし,さすが年の功の深田卓さんである。「あのウッ,ウッ,ウーが良かったんじゃないの。」とフォローしてくれた。………それを聞いて,私は,ちょっとホッとした。
１２月２４日,安田弁護士の無罪判決のお祝いの飲み会に参加。
１２月３１日、山谷へ水族館劇場の芝居を見に行った。昔は,時々芝居を見ることもあったのだが,ここ３０年ほどは見る機会がなかった。昔,最後に見たのは,上野・不忍池での赤テントの芝居だったか。
３０年ぶりと言えば,山谷の越年闘争に来たのもそのくらいだ。しかし,昔とはかなり様変わりをしていた。ちょっと,寂しい感じがした。なんせ,昔と違って,人が少ない。「ホームレス」として各地域に分散しているのだろうか。１２時頃には,山谷を出た。木村修治がえらく感動していたビデオ『ダンス・ウイズ・ウルブズ』を買ってもらって友野さん宅で朝方まで見ていた。大晦日は,大したこともなく過ぎてしまった。
１月１日,近くの土手までクルマで出かけて,朝日が昇るのを見ていた。刑務所では,こうして初日の出を見ることさえできなかった。それが,今はできる。これも,幸せのひとつか?寝正月にすッかと思っていたら,おふくろが,「いつまで寝ているんだよ!」などと言って起こされた。刑務所で寝正月など全くできないわけで…
私にとって,夢だった。朝寝,朝酒,朝湯が夢だったのだ。しかし,なかなかできるもんでないなぁ。逃亡中は,やったこともあるんだけれど。ひとりで生活していたからできたのかなぁ。
１月２日,また山谷に出かけた。平野さんが,「映画『山谷』を上映するから,必ず来なさいよ!」と強い調子で私に言ってきたのだから,これは行かなければならなかった。行かなけりゃ,あとが怖い!ひぇ〜っ!
それで,見に行った……わけでもない。獄中に居た時から,必ず見に行こうと思っていたのだ。そこでしか会えない懐かしき人たちが居るのだから…。
映画を見ていて,昔,私が製作に関わった『寄場反乱は拡大する』という８ミリ映画のことを思い出した。その内容は,寄場での労働者と手配師たちの会話を隠しマイクを使って収録したり,イラストを使って花岡暴動のことを映したりして,連綿として続く労働者たちの戦いの歴史をアピールしていたように思うけれど,なにせ３０年ほど昔の話なので,ポロ,ポロ。
１月５日からは,求職活動を再開した。近くにあるハローワークに通ってみた。なかなか良さそうなのがなく,些かブルーに染まっていった。
東京と茨城と埼玉の福祉人材センターにも行き,求職登録をしてきた。
また,何人もの知人友人たちの助言も受けた。本当に,人と人の結び合いは力になる。おかげで,どれほど助けられたことか。
１ヶ月経って,なんとか仕事が見つかった。
先日,警官がわざわざパトカーで巡回に来た。いつもはバイクで巡回しているというのに,私のところに来るときだけ大袈裟にするなよな,おかげで近所から変な目で見られちゃうでしょ,と思っていると。あんた誰?と言うので,ここの長男と答える。仕事は?と言うので、なんと親切にも,仕事先の電話番号まで教えてしまった。私って,だめねぇ。刑務所での長期生活で素直な性格がさらに素直になってしまったみたい。このところ,クルマを運転していると,警笛を鳴らされることがよくある。つまり,私の運転が下手だからってことだろう。先々,ちょっと不安なところである。まあ,そのうち慣れてくるでしょ。