〈定期第135信〉
 東拘に来てから、もうすぐ1ヵ月が経とうとしている。早いものである。単調な毎日なので、時が経つのも早く感じられるのだろう。そろそろ、寒くなってきたようだ。先日には、木枯らし第一号とやらが吹いたそうでなるほどである。シャバでは風邪が流行り始めているそうであるから、そのうち東拘も流行りとなるかもしれない。今のところ、そうでもなさそうであるが、寒い、寒い、と言う人が増えている。岐阜よりは暖かいのかなぁ。私はそれほどでもないのだがね。
 それにしても、ここは、カラスの鳴き声がうるさい、ところである。朝は、カラスの声が目覚まし時計替わりである。時計のベルの音より効果的である。カラスは昔からうるさかったかな。そうそう、チビンケの一族もあいかわらず健在のようで、姿を見かけたときには嬉しく、なつかしかったな。しかし、もうチビンケは生きていないだろうけど。孫やヒ孫は、元気というところか。
 東拘に来てから1ヵ月ということで、私も、ここでの生活になれてきたところである。あいかわらず、カメラ付のスペシャルルームである。他に居室があいていなかったから……とかなんとか言っていたが、まだ普通(?)の居室はあきがないのかしらん? 自殺房ばかり、沢山作りすぎるからだよ、と文句言いたくなるね。将司がうるさい、と言うカメラの動作音というのは、“カシッ、カシーッ”とかいう何かがきしむような音のことかな。それ以外の音はしないのだが、減燈後しばらく、ひんぱんに“カシッ”なんて音が聴こえる。あと、将司がうるさいとか言っていた靴音に関しては、ジュータンを敷いてもらうといいかもな。岐刑では、廊下に細長いジュータンが敷かれるね、夜間。
 それにしても、ここは、窓から外がほとんど見えないので、精神衛生上あまりよろしくないな。そういうところだと、心がウッ、ウッとしていかざるをえないだろう。
 この仮設(?)舎屋の居室というのは清潔でいいけどね。新舎や南舎よりは。この居室は、自殺房だからなのかちょっと広いね。岐刑の一般個室り、横が20〜30cm広いみたい。それに壁も少し厚いみたいだ、岐刑だと安譜請のためか隣の物音がわりと聴こえるものな。
 さて、メシだが、前便には大体感想書いたがね。なんかあいかわらずのオカズもあったな。厚揚げとイカゲソの煮たものとか、変わってないなぁ〜と感動。カレーの味は、昔の方がうまかった。今のカレーは、薄味でコクもなく、黄色のカレーらしい色も薄くなってしまっている。これは鍋など洗うのが大変だからかな? カレー独特の色は、なかなかおちんから、という。
 土曜日のパンはひどいパンである。昔から同じで府中製ってやつかしらん?
 今、一般官本を借りている。ほとんど、文庫か新書のようだ。2ヵ月の短期滞在には、ちょうど良い読み物と言うべきところか。翻訳ものがやはり、おもしろい。日本のものはどうも子供っぽいカンジのものが多くて、つまらない。
 戸外運動は、屋上にあるコンクリート箱(?)の狭い中を走り回るだけにしている。カゴの車の中で走り回るハツカネズミといったところか。一方向だけ走り回っていると内側の足がおかしくなるので別方向に時々、替えるのであるが、視線の方向を間違えると、クラクラと目まいがしてしまう。目まいがしたら、佇んで、コンクリート塀のスキマからほんの少しかいまみ見える風景を見ていたりする。けっこうあちこちに建っているマンションが見えたり、建設中の新東拘が見えたり、それなりに楽しめる。運動場の足下は、コレ、人口芝生とでも言うべきものであろうか。雨降った翌日あたりだと、まだじっぽりと濡れていたりして、足が濡れてしまったりする。爪切りは、あいかわらず、あのゴツイ爪切りである。
 ゆきちゃんが以前、東拘の食器が変わったというようなことを書いていたので、楽しみにしていたのだが、あいかわらずのものだった。私の記憶ちがいかな、変わった云々は。あいかわらず食器は自分で洗うようで、岐刑では食器も下げてしまうので洗う必要もない生活になれている私は、余計な仕事をさせられながら、ブツブツ言い食器を洗う。
 居室でやっている仕事は、袋貼りである。たしか10年前にもやっていたっていうことは、前便にも書いたかな。作業賞与金は、岐刑でやっている金属工のときよりは、低いであろう。
 こんな毎日を送っているので、実にたいくつであるが、どういうわけか時間は矢のように飛んでいっている。やはり、中高年の時間はスピーとが早いってことかしらん?
 さて、10/17である。朝メシを食べたら、すぐ迎えがきたので居室を出る。仮設棟から出てしばらくすると出廷するために多勢の人が並んでいたが、単独でバスに乗りこんだ。その日の護送の職員たちの中に、見知った顔がけっこういたが、さすが10年の経過である。皆されなりに老けこんでおった。専門官係長といった役職(階級?)や看守部長に皆なっておったな。私は、あいかわらず囚人のままである。しかし、顔だけは老けこんでいるのだろう。『変わってないなあ』と言われたりもしたが、何がだろうか? 顔か?
 東拘をバスは出て一路東京地裁へ。10年前とちがって、道路の混み具合はひどくなっているようで、地裁へ到着するのに、けっこう時間がかかってしまったようだ。
 地裁の仮監に入るのは、13年ぶり位かな。控訴審が終わってから行っていないものね。今回入ってみたら、かなり汚くなっていた。10数年経ちゃあ、そんなところか。
 午後1時30分の開廷ということで、少し早めにエレベーターで上がる。
 そして、法廷に入っていった。すでに傍聴人も入り始めていた。一番前の席にまゆみちゃんがいたようだ。湯浅さんらしき人もちょうど入ってきたが、はて?あれは湯浅さんだったのだろうか?! 昔に比べるとなんか丸くなってしまったように見えたが、別人だったかな。なにせ10年ぶりである。ニューッと顔出してきたのはゴミオヤジだったのか? わからん。当然だ。知らんのだから。けっこう若い人もいたようだった。
 被告席には、浴田のゆきちゃんがおりました。予想していたイメージとはかなり違っていて凶暴なカンジでなかったので安心した。新聞、週刊誌に載っていた顔写真を見ていたので、そそこから想像していたのだが、見事に裏切られた。下手すりゃ、噛みつかれるかも、と恐れていたのだが……、というのは冗談です。ニコニコとした人の良さそうな……というカンジで……ま、私も似たり寄ったりといったところかしらん。
 そして、証人尋問であるが、どうもすみません! ボロボロで、やっぱり思想性のないところがモロにでてしまった。かくせないものである。あまり、まともに喋れなかったようだ。情けない答弁だったので、その後何日か(今でもだが)、『クソッ!クソッ!』とうめいている。自分の公判でもやっぱり、ボロボロだったことを思い出してしまった。
 こりゃあ、ゆきちゃんの助っ人にはならんな。「ヤッタゼ!公判」が「シマッタゼ!公判」にならなきゃいいが、と願うばかりである。どちらかと言うと、足を引っぱっているようでもある。ゴメン! 1対1で話し合うのも下手なのに、ああいう場だから尚更、喋るのが下手になる。もう少し詳しくわかるように話さなくてはいけないところをかなりいい加減に終わらせてしまった。そういうところばかりが目立つ。
 あまりにも小さな声なので、傍聴に来てくれた人たちにも、わるいことをしたようだ。元々ボソボソとひそやかに話すタチなので……あかんなー。声の大きさについて次回の公判から努力してみよう。質問の仕方は獄中ボケの私がなんとか答えられるように、考えてもらえるといいかも。勘がにぶいから、パチンッとつなげられないようだ。ま、それもありのままの私だ、と思えば、それでいいのかもしれないが……でもないか。
 ともあれ、第1回は終わってしまった。ふう〜と、タメ息をつきながら仮監へ戻っていった。
 ビルの窓の明かりとネオンの輝きがにぎやかな街の中を、ノロノロと進むバスの中から見ていたが、異なった世界を見ているようだった。なつかしさなんてなかったな。
 そう、なつかしい顔が幾つかあったので、久しぶりの法廷はよかったというところか。
 そうそう、まゆみちゃんの声は、なんかたくましくなってきたなぁ。顔もだけど。

[差入れ][10/10]シャコ通信No.30〈東武央〉※これは東拘宛てできたもの。[10/11]キタコブシVOL87〈キタコブシ〉※岐刑より転送 [10/16]ザ・パスポートNo.94〈帰国者の裁判を考える会〉 ひとそれぞれに34号〈溝田孝〉 [10/17]新生589号〈立志社〉 [10/19]人民新聞1056号〈日角八十治〉 救援378号〈QCR〉 新生590号〈立志社〉以上。(10/11告知分までは交付されているのですが、10/16告知分からは、まだ手元にこないので、岐刑より転送か東拘宛か不明。)いつも、差入れ、どうもありがとうございます。
 [10/12]に福島武司弁護士より来信、人権申し立て人各位の連絡文。[10/16]に勧告書の写し等は落手。これは東拘宛で届いてるな。
 差入れパンフについては、昔のように差入れ伝票と物が一緒にこちらに廻ってこないのだな。一旦領置されてから改めて、舎下げ出願して手元にくるという「適正」手続きを経てにかわったようだか。めんどくさくなったものだ。ま、岐刑と同じだが。一応参考までに言っておくと、岐刑に私が居なくても、郵送物が岐刑宛で送られてきた場合には、東拘にちゃんと転送してくれる、ということになってはいる。だから岐刑宛のままでも、大丈夫だと思う。
 『キタコブシVOL87』にちょっと気になるところあったな。「それで彼は五厘刈りではなく五分刈りにしたのだね。矢張り気になるのだろうな。」だと。何言ってんだか。五分刈りにしたら、かえって禿てるのがめだつじゃねえか?! 毛のあるところとないところが刺激的にハッキリしすぎているのだから。いっそヒゲソリで剃り上げたい位なもんだ。今回は前日が理髪だったのでちょうど良かった。一番短く丸刈りにしてもらったよ。まぁ、ずっと五厘刈りだけれど。
★これまでに借りた一般官本。[10/6]『リング』鈴木光司 角川ホラー文庫、『雨あがる』山本周五郎 角川書店。『リング』たいしたことないじゃないか。[10/9]『天使に見捨てられた夜』桐野夏生 講談社文庫、けっこう読ませる。『ごろつき2(抗争)』家田荘子 祥伝社NONブックス、アホくさ。[10/13]『メーファイル(移植)』角川文庫、おもしろい。『心療室』T.ホフキンス 講談社文庫、かったるい。[10/16]『獲物』T・クラインJr 新潮文庫、おもしろい。『愚者たちの街』(刑事エイブ・リーバーマン)』S・カミンスキー 扶桑社文庫、けっこう読ませる。藤沢周平タッチかな。[10/20]『冬の裁き(刑事リーバーマンシリーズ)』S・カミンスキー扶桑社おもしろい。というところでバイ!
2000.10.22 Shaco記


SHACO
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