〈定期第168信〉
 たぶん、これが定期便の最終便ということになろう。
 5月は青空が似合っているから、当然晴れる日が多かろうというのは、私ひとりの思いこみでしかなかったようである。なんか曇りと雨の日が晴れる日より多い5月である。私の出所する日までずっと晴れていてくれると嬉しいのだが。
 私の出所してしばらくしたら、梅雨入りということになろうか。
 5月出所というガセネタ情報にもめげず、いよいよ6月11日の出所を迎えつつあるのであった。出所は近づきつつあるのだが、周囲の心配をよそに私は熟睡する毎日を送っている。「出所が近くなると眠れなくなるよ」とか、「オイ、眠れるか?」などと言われても、私にはとんと無関係。私にとって睡眠は何ものにもかえがたいものなのである。いかなる状況であろうと、私は不眠症になったことはないのであった。
 まあ、そういう本来のこともあるけれど、もうひとつ、作業が変わって、これまで坐り仕事だったのが、立ち仕事になったのでこれまでより疲れて、熟睡してしまう、ということもある。
 いずれにしろ、よく眠れるので、健康的である。であるからして私は只今体調良好。
 出所の日は、すこぶる健康的な私と再会できるでしょう。
 5月6日(火) 晴れ。6番運動(屋外)。3枚目の毛布引上げ。告知放送があり、作業賞与金の使用についての内容であった。小泉「改革」の影響であろうか、これまで月々支給された作業賞与金については一部、日用品、書籍等の購入に使用できていたのだが、今後は本人の領置金の有無、本人の行状、使用目的を勘案して許可するかどうか厳格に可否を判断するそうだ。これまでできていた家族への送金もできなくなったみたい。チョーエキの無産者はシンドイことになろう。書籍だって、読みたいものも、なかなか買えなくなるだろうし…。ホント小泉改革というのは、弱者へのシワ寄せばかりが大きくなるもんだぜ。
 書籍については、もっと官本の内容を充実していってもらわんと、どうしようもない。官本がもっと充実してくると少しはよかろう。先日も、チョーエキが廃棄した書籍が大量に業者に渡されていたけれど、あーいう書籍を官本に廻せば、官本の内容ももっと充実したものとなるだろうなぁ。東拘だと、被収容者の廃棄した書籍は一般官本に廻しているな。だからけっこう新刊本もあったりして、3年前に東拘に行ったときは、けっこうたのしませてもらった。
 5月7日(水) 曇りのち雨。5番入浴。舎房用チョッキ引上げ。理髪。差入れ→グレーのTシャツ、ブルージーンズ、ベージュのキャップ、スポーツシューズ、靴下〈光夫〉。
 いよいよ出所時のための服などが送られてきた。ちゃーんとキャップもついてきたぜ。淋しい頭しているからなぁ。なにがなくともキャップ!っつーわけか?! カッコええキャップだといいが。農機具メーカーのキャップだけはやめてくれや。
 5月9日(金) 晴れ。5番運動(屋外)。工場用メリヤス引上げ。告知→(1)5/12から夏期処遇一部開始。点検時以外は丸首シャツ姿許可など。(2)私費通信教育受講生募集。
 5月10日(土) 晴れ。免業日。9:00〜10:40頃、無事故者褒賞ビデオ『ダークブルー』第2次大戦時英軍と共に独軍と戦ったチェコ空軍兵士の物語。告知放送があった。増改築のことについて。収容人員が増加してきたため新しく舎房と工場の建物を増築するとのことであった。今日から来年早々までの工期らしい。噂としては、雑居房にベット(というよりはカイコ棚?)を2名分作るそうだ、という話がながれていたが、そんなことでは間に合わなくなってきた、ということなのだろう。ホント刑務所はギュウギュウ詰めとなってきたなぁ。今出所できる私はラッキー!ってことか?!
 なんかテニスコートもなくなって、グランドも少し狭くなりそうだ。運動会などレクリエーションも影響が出てくるようである。
 5月11日(日) 曇り時々雨。免業日。9:00〜9:40報道教養ビデオ『プロジェクトX―幸せの鳥トキ、執念の誕生』
 5月12日(月) 曇り一時雨のち晴れ。2番運動(講堂)。夏期処遇一部開始。点検時以外の居室内での丸首シャツ姿、運動の往復時・入浴後の還房時・工場昼休み、小休息時の丸首シャツ姿許可とフトンの上での横臥時のシャツ・パンツ姿許可など。だんだん暑くなってきているので丸首半袖シャツに姿になれるのは涼しくて良い。昨年は5月27日からだったからちょっと早くなったというこかな。
 5月13日(火) 曇り。2番入浴。告知放送→「人」紙文芸コンクール作品募集。
 5月15日(木) 曇りのち雨。5番入浴。4月分作業賞与金基本給5,798円 時間36円70銭 1等工10割増、11,597円。(使用限度額 3,865円)。告知→自所左官職業訓練生募集。一般官本2冊借りた。『冠婚葬祭新しいマナーの本』金園社、『野獣駆けろ』大沢在昌 講談社文庫。
 5月16日(金) 曇りのち晴れ。7番運動(屋外)。パンフの仮下げ→わたげNo41〈平山まゆみ〉 人民新聞4/25号〈日角八十治〉。告知→(1)増築工事のため、これまであった運動場の便所と水道を別のところに移すので1週間ほど使用不可とのこと。(2)舎房用靴下引上げ5/23、工場用長袖えり無しシャツ、袴下引上げ5/27、舎房用長袖シャツ、ステテコ引上げ5/30とのこと。
 5月17日(土) 曇りのち晴れ。免業日。9:00〜10:00クラブ活動、10:30〜11:30宗教教誨、13:30〜15:00頃慰問演芸会、五月みどり出演。最後の慰問演芸会だというのに、私は一番うしろの座席だったので、歌手の顔もよく見えなかったな。
 5月18日(日) 晴れ。免業日。9:00〜10:40頃 5年以上無事故者褒賞ビデオ『プロフェシー』。どうもハリウッド映画は神と天使とかそんなものが多いな、こういったところにもキリスト教原理主義的傾向が見えてくるのだろうか?
 5月19日(月) 曇り。1番運動(屋外)。舎房用メリヤス引上げ。仮下げ→エスペラント中級講座カセットテープ第一巻。最後(刑務所での)の学習であるが、2週間のんびり聴くかな。出所したら時間制限なくカセットテープを聴けるようになるので助かるな。獄中では時間制限があって困る。
 会計課から呼出しがあって行く。先日出願した接見願の件。そろそろ領置してある本など宅下げしなくてはならんので領置調べをしてきた。なんか私と1番ちがいの人の本がまざっていたりしてたな。私が記録していない本もあったりして、どーなってんだろうかね。
 そうそう、不許可領置となった(私にも告知しない)ものは、またケース1箇分あるそうだ。来信、本、パンフ類がドサッとあって、これらは、釈放当日にしか渡さないそうだ。そうだとすると量もあるので、門から出てくるのが少し遅くなるかもしれないな。さ〜て、ダレから送られてきたものがあるのか、たのしみだなぁ! しかし、当日はせっかく携行物を少なくし身軽に帰ろうと思ったのに、けっこうな荷物を持って出ていかなくてはならないかも……。
 いやはや、困ったことである。そんなことをいっちぁいけないな。
 これまでの長い間、みなさんの差入れなどで、どれほど支えられ、心強かったことでしょう。ほんとうに、どうもありがとうございました。出所してから、またご挨拶にうかがうつもりですので、よろしくお願いします。これがホントのお礼廻り、というもの?!
 とにかく、みなさんに会うのがたのしみです。
 さて、そんな私は、只今、少しずつ気持がふわふわしてきています。昔風で言えばルンルンといったところか。
 仮釈放の者は、出所の2週間前に工場からあがって、希望寮というところに転房しそこから「奉仕活動」をするとか、ホントかしらん? 希望寮はカギのかかっていない窓にもカーテンがしてあり、ごはんは自分たちで盛りつけるとか、なんかいろいろあるそうである。私も希望寮なんてところに1度は入ってみたかった。しかし、ダメであった。私は、満期風を吹かせながら、刑務所を出ていくことになるのであった。このところ、私は満期風を吹かせている……なーんて他の人から言われておる。ちっともそんなことはないのである。どうも出所の近い人間にはそう言いたくなるってことかもしれない。
 さて、満期出所者はどーなるかというと、満期房というところへ転房する。もちろん工場からあがって、出所日までその独房で作業もするということである。大体出所の1週間前くらいに工場からあがって満期房へ転房ということらしい。だから私の場合、6月4日か5日くりいだろうか。あと2週間ほどである。指名手配をくって逃亡していた日々、あの経験があるので、明日どんなことがあろうと、なんかのんびりしていられるみたい。極楽トンボ!と検事から言われちゃった私らしいか。刑務所よりはワクワクする世界が私を待っているんだろうな、きっと、たのしみだなぁホント。では、そのときまでさようなら!
                        2003年5月19日夜 Shaco


SHACO
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