臨界事故−MOX燃料−地層処分

再審研究会会員 湯浅欽史

 表記の解説依頼を受けた。昨春定年後、原子力資料情報室で週1日お手伝いしているからであろう。門前の小僧が小耳に挟んだ話で、務めを果させていただきたい。

 原発は現在52基、68年の敦賀1号炉から96年の玄海4号炉まで、通産省・科技庁は原子力業界を育成・指導し、電力業界は年2基のペースに従ってきた。累積基数グラフの28年間にも及ぶ〈一直線〉は、原発政策の硬直性と官僚権力の強大さを見せ付けて、背筋に寒さを覚える。
 ウランの核分裂で出てくる中性子を、の中で毎秒2キロに減速して隣のウランの原子核と反応しやすいようにし、そして核分裂で発生した熱も水を介して取り出すのが軽水炉。日本の原発はすべてこの仕組みである。原子炉の水を「沸騰」させて発電用の水蒸気をつくるBWR型は、[GE+東芝・日立]が東日本と中国電力を占める。
 原子炉の水を「加圧」して沸騰を抑える代わりに蒸気発生器をもつPWR型は、[ウエスチングハウス+三菱]が関西電力と北海道電力を占める。このミゴトな市場分割も行政指導のタマモノである。前者の水蒸気は不可避的に放射能を帯びて労働者の被曝量を増し、後者の蒸気発生器の細管損傷は放射能漏れや空炊き・炉心溶融(スリーマイル島事故)につながる。
 広島がウラン、長崎がプルトニウム(以下Pu)であったように、原発にもPuが登場することになる。天然に存在する元素の最後92番がウランで、次の次94番がPu、初めて人間が手にした人工元素である。ウランの埋蔵量を生産量で割った可採年数は、石油・天然ガスと同程度の数十年であり、しかも全量を海外に依存している。ウラン235(通常のウラン燃料中の濃度は3〜5%)を原子炉1基は1日に2〜3キロ燃やすが(JCO事故で燃えたのはわずか1ミリグラム!)、燃料の大部分を占める燃えないウラン238の一部は中性子を受けて、年間200キロ余のPuになる。これを、燃え滓(使用済み燃料)を再処理して取り出し、燃料にしようというのだ。「核燃サイクル」路線である。
 Puが燃やせるならと「高速増殖炉」の開発が進められた。燃やした量以上のPuを作らせよう――夢の原子炉というヤツである。「増殖」の効率を高めるには、1回の核分裂で出てくる中性子の数を増やす必要があり、それには核反応のしやすさを犠牲にしても秒速1万キロの「高速」の中性子を使わなければならない。だから例えば、中性子が減速しないようナトリウムを熱媒体にする。いろんな点で無理な不安定な運転になるのは覚悟の上、それを克服しようと苦難の道を歩んできた。
 今回の事故にからむ「常陽」は77年臨界の実験炉(出力ゼロ、中性子照射実験用)、ナトリウム漏れで名を馳せた「もんじゅ」は94年臨界の原型炉(28万kW)、そして米英独ソいずれも高速増殖炉から撤退した。いまやPuの余剰が深刻化し、85年臨界のフランスの実証炉(124万kW)スーパーフェニックスも、増殖用からPu焼却処分用に変更され、「もんじゅ」も――再開できたらの話だが――増殖が確認できたら焼却用になる。
 冥王星に因み、地獄の王プルートーンと同名のPuは、そもそも二つの難問を抱える。いちばん核兵器を作りやすい物質であり、長崎の原爆は7キロだった。核拡散や核ジャックを防ぐのは非常にむずかしく、高度な秘密・管理体制を要する。もう一つは毒性で、1グラムが18億人分の年間制限摂取量に相当する。これら両面から、Pu輸送には全世界の懸念の目が注がれてきている。いまや、通産がしがみつく核燃料再処理・核燃サイクルの道は消えなんとし、後には余剰Pu処理の難問が残される。ウランにPuを混ぜたMOX燃料を軽水炉で燃やす、プルサーマルを是が非でも実現しなければならない所以である。

 原爆から原発への半世紀を経て、ナトリウム漏れも臨界事故も起った。JCOの業務は濃縮ウランの再転換という化学処理工程であり、通常はウラン濃縮工場から5%程度の六弗化ウランを受け入れて、軽水炉用の二酸化ウランの粉末にして出荷していた。事故は、18.8%の粉末を精製して「常陽」向けのウラン溶液とする作業中に起った。「バケツで溶かす」ズサンサだけではない、技術的キワドサを要するPuにまつわる事故であった。
 MOX燃料には、ウラン単独で燃やすのとは様々な特性の違いがあって、安全への余裕度を削り落すことになる。それらを列挙してみよう――*融点・熱伝導率が下がり燃料が破損しやすい *核反応がしやすく制御棒の効果が減じる *ヨウ素が増え被覆管を損傷しやすい *中性子線が増え原子炉を脆弱にし労働者被曝を増す *反応度係数が悪化し制御が難しくなり停止させにくい *燃え滓がもっとダーティーになる――。
 軽水炉の使用済み燃料からPuを取り出す再処理工程は、ウランの濃縮・製造工程よりも格段に汚染が激しく、世界的にウランを使い捨てるワンスルー方式に向っている。いま核燃サイクル路線は、青森の六ヶ所村に各種施設としてしわ寄せされつつある。六ヶ所村が「中間貯蔵施設」とされ、10月2日、福井第二原発の敷地内から溢れ出た使用済み核燃料8トンが搬入されたのも、痛々しいニュースだった。
 11月26日、いわゆる「2000年レポート」が核燃サイクル機構(旧動燃)から原子力委員会に提出された。これで深地層処分の技術的見通しがついたという。高レベル放射性廃棄物処分推進法案を通常国会に提出し、幌延や東濃など、具体的な「最終処分地」の選定に着手しようとしている。「トイレの無いマンション」の汚名を濯ぎ、中間貯蔵施設が永久貯蔵地になる疑念を解消しなければならないからだ。原子炉の燃え滓1トンから約400キロのガラス固化体1本が発生する。強い放射能と発熱量なので、現在水中に230本が保管されている。2030年までに発生する4万本を〈将来世代に負担をかけないために〉地下1000メートルに3兆円かけて、埋め捨てにしようというのである。
 「2000年レポート」の安全評価では、ガラス固化体を入れた肉厚19センチの鋼鉄製円筒は1000年腐食に耐え、溶け出した放射性核種を鋼鉄周囲の厚さ70センチの粘土が数万年捕え、岩盤を100メートル滲み出て断層に辿り着くのに数十万年かかるから、被曝のピークは100万年先で、自然放射能の10万分の一である、という結論なのだ。こんな絵空事を根拠に「トイレが造れる」と言い張らねば、六ヶ所村に投じる1兆円は壮大なムダとなり、しかも直ぐにでも全原発を止めざるをえなくなる。政府は発生者責任をタテマエとし、電力各社は国策協力の結末だと言い、前記法案によって、実施主体となる認可法人を設立しようとしている。

 世界中の10月1日付新聞一面にJCO臨界事故報道が踊り、「これで日本の原発推進にブレーキ」という解説が目につく。11月11日の毎日新聞世論調査でも、反対・慎重意見が急増した。それにひきかえ、11月27日総理府発表の世論調査では、死刑容認派が過去最高の79.3%に達したという。「狼再審研究会」に加わって12年、心して取り組まねば、と改めて考えさせられた。 (1999.12.11 湯浅欽史)


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