支援連ニュースNo.261-262

〈どうする中東和平〉

和光晴生

 アメリカでのG8サミットで「拡大中東構想」なるものが採択されました。「イスラエル」とパレスチナとの二国家共存が、中東和平の核であるということは言われています。しかし、現実には「イスラエル」とパレスチナそれぞれの社会内部に、和平を積極的に求めようとする勢力が育たないままにあります。
 昨年一二月、双方のハト派と目されるグループが「ジュネーブ合意」を発表しました。アメリカのパウエルが後押しして進められた動きなのですが、パレスチナ国家樹立とひきかえに「イスラエル」領内へのパレスチナ難民の帰還の権利を放棄するという妥協案が込められていました。ただし、肝心の難民の意向は無視されています。
 「イスラエル」の建国記念日とされている五月一五日には、「イスラエル」の平和運動団体「ピース・ナウ」や左派野党などが、ガザ地区からの入植地の撤去と「イスラエル」軍の撤退とを求める集会を開き、この数年では最大規模の一五万人が集まったと報道されています。
 他方、タカ派シャロンが率いる与党リクード党は、シャロンの「ガザ撤退案」への賛否を問う党員投票を四月二九日に行ないました。二〇万人のリクード党員中、六割が反対を表明しました。この「ガザ撤退案」は、実利の無い入植地をガザ地区から撤去するのとひきかえの形で、ヨルダン川西岸地区の占領地、入植地を「防御壁」で囲い、それを新たな国境線として既成事実化させ、以後、交渉の余地のないものとしてしまおうとするものです。クリントン政権時の「オスロ合意」やブッシュ政権による「ロード・マップ」などの和平案よりも更にパレスチナ側を不利にさせる事態が既成事実化されてしまっているのです。
 今回のG8サミットによる〈拡大中東構想〉は、そのようなシャロンによるやりたい放題を追認するものとなることでしょう。
シャロンの「ガザ撤退案」が「イスラエル」閣議でゴリ押し採択されたことから、右派の原理主義宗教政党二つが連立から離脱し、シャロンのリクード連立政権は「イスラエル」議会で過半数を割ることとなりました。では、かつて「オスロ合意」を生み出し、今は野党の地位にある労働党に政権復帰の可能性があるか、というと、むしろシャロンから連立に加わるように呼びかけられるようなことになっているのが実状です。
 労働党の支持層である社会的に富裕な階層は、一九四八年当時の早い段階に旧東欧圏から移住して来ていた人たちで、地中海に面する海岸部の都市を中心に居住しています。生活が安定している分、和平を志向し、それが九三年の「オスロ合意」を生み出したと見なせます。ところが、その多くが、この三年間のシャロン政権による強硬策で激化した自爆作戦や報復の戦闘などから逃避し、今や海外在住の「イスラエル人」は約七六万人と言われています。その六〇%はアメリカに、二五%がヨーロッパに住んでおり、うち二〇万人はこの三年間に国外に出たというのです。「イスラエル」での不在者投票とかはどうなっているのか私は知らないのですが、国政選挙での労働党への投票には相当影響しているはずです。「イスラエル」の総人口は二〇〇三年で約六七〇万人となっています。その十数%にあたる人口が海外に住んでいて、海外に移住できるような階層は労働党支持層だということなのです。
 他方、右派のリクード等やユダヤ教原理主義者の宗教党などの支持基盤は、社会的中下層を成して来たアラブ、北アフリカのユダヤ社会からの移住者及び、旧ソ連・東欧崩壊以後、新たに「イスラエル」に移住してきた新参移民たちです。これらの人たちの多くは経済的社会的な特典を保障される入植地に集中的に居住しています。他にも「イスラエル」内には、出身地・歴史的背景などから、モザイクの如き社会構成要素が成立しており、当然ながら政党も乱立しています。せんきょともなれば、それぞれの利害から票が細かく分かれることになります。
 一九四八年以来一九七〇年代半ばまでは労働党が一貫して政権を握っていました。六七年、七三年の中東戦争を展開したのも労働党です。決して単純にハト派とかタカ派とかと見なすことはできないのです。新たな移住者の増加や出生率での差などから人口構成、社会構成が変化し、リクード党や宗教党などが乱立し、勢力も伸ばし、現在では複数の政党の連立でなければ政権が成立しない事態になっています。それでも、労働党もリクードも一緒くたにすべてがシオニストで変わりはない、とするような荒っぽい論理はいただけません。「イスラエル」内とパレスチナ内とにいかに和平を求める機運を作り出し、それを実体的な社会勢力へと育て上げるかこそが目指されるべきです。
 イラクで明らかになったブッシュ政権の単独行動主義の破産と、パレスチナでのシャロンの強攻策の手詰まりとを更に追いつめる必要があります。そのためにもパレスチナ側の主体的な条件整備が問われます。ハマスなどによる自爆作戦はもともとは反「オスロ合意」、反和平ということで、アラファトのPLOと「イスラエル」の労働党とに打撃を加えることが目指されていました。それが同様に反和平派であり強硬派であるシャロン政権が登場したことにより、方向性を失ってしまい、むしろシャロンが強攻策をとる口実に、いいように利用されてしまっていたと言えます。その後の自爆と報復の暗殺と軍事侵攻との繰り返しに、「イスラエル」内でもパレスチナ内でも厭戦気分が高まって来ています。
 パレスチナでは自治政府に法的な正統性を与える選挙が行なえないままにあります。すでに自治評議会の議員及びアラファト議長の任期が切れたまま三年も経っています。
 実を言うと、パレスチナ側としては、アラファトが「オスロ合意」以後、チュニジアのPLO本部から自治区内に乗り込んで来て、自治政府の長まで兼任してしまったところに現在のドン詰まり状態を生み出した原因があるのです。PLO議長としてチュニジアにとどまっていたなら、アラファトはパレスチナ人民総体のリーダーとして有効な活動を国際規模で展開できていたはずです。それこそ西岸、ガザ地区の長としてのみならず、周辺のアラブ各国や世界中でコミュニティを形成しているパレスチナ難民すべてを代表するものとして――。西岸・ガザの自治区内のことは自治区内の人民の代表に任せておけばよかったのです。そうしなかったのは、アラファト自身の権力志向に加え、「オスロ合意」による自治区の社会・経済基盤建設にむけて、欧米・日本・アラブ産油国などから拠出された莫大な額の援助金を自ら仕切りたかったからだろう、と見なされてもしようがないところがあります。
 自治政府は「オスロ合意」の年を意味する「九三年成金」と呼ばれる特権階層を生み出し、腐敗も増大していました。そうした中で、社会福祉に力を入れていた「ハマス」などのイスラム原理主義勢力が支持基盤を拡大させていたのです。
 自治区内での活動が活発に進められる一方、アラブ諸国にいるパレスチナ難民たちは不満を強めることとなっています。「帰還の権利」すら自分たちを無視してバーゲンにかけられるようでは、いよいよのこととなります。
 「オスロ合意」はアラファトと「イスラエル」労働党とが秘密のボス交で合意にいたったものです。その分、「イスラエル」でもパレスチナでも反対派への説得がむずかしいこととなってしまい、「イスラエル」では労働党に変わり、反和平派のリクード党が政権に就くこととなってしまったわけです。そうなると、「オスロ合意」と自治区とにズッポリ両足をのめりこませてしまっていたアラファトは何も対応できず、打つ手もなくなってしまいます。もしチュニジアのPLO本部に活動拠点を置いていたなら、こういう時にこそ、アラブ各国にいるパレスチナ難民社会を動員する形で、シャロンに対抗する多様な活動を国際規模で展開できていたはずなのです。  「イスラエル」の側は労働党の和平策が手詰まりになれば、かわりにリクードなどのタカ派が前面に出て強攻策をとり、既成事実を積みあげ、自らに有利な条件を作り出す、という展開になっています。「イスラエル」総体から見れば、実に有効でかしこいやり方です。二大政党モデルの有効性の実現とも見なせます。
 パレスチナ側は自治区内人民が疲弊している今こそ、周辺アラブ諸国のパレスチナ難民社会が、イラク情勢をも踏まえたところで力を発揮すべき状況にあります。「オスロ合意」に反対していた勢力は、PFLP(パレスチナ解放人民戦線)やDFLP(民主戦線)などが一時期はアラファトの「オスロ合意」に乗り遅れまいとブレたりしていました。それでPFLPのアブ・アリ議長は活動の場をシリア、レバノンから西岸自治区内に移した結果、暗殺されてしまうという事態も生起しました。それでも反「オスロ合意」勢力としてシリア、レバノンなどのパレスチナ難民に支持基盤を持つパレスチナ諸組織は存続しています。それらの勢力がイラク戦争をめぐり、反米意識を強めているアラブ各国の主体と結合し、「拡大中東構想」なるものに対決していくことをもって、西岸・ガザ地区のパレスチナ人民の闘いに呼応して行く新たな展望がひらかれつつあります。
 アラブ諸国の既存の政府がイラク戦争に何の手も打てずにいたことを、アラブの人民大衆は十分に認識しています。これまではアラブ各国で専制政治を行なって来た権力者が、パレスチナの大義を言うことで各国の人民のエネルギーを反「イスラエル」に向かわせることに成功して来ました。イラク戦争は、各国の専制者の権威を失墜させました。同時に、ブッシュが「中東民主化」を言い出したことで、アラブ各国の専制支配者たちの尻に火がついています。私としては、PFLPが六八年当時掲げていた戦略「アラブ革命によるパレスチナ解放」の意義をあらためて評価するところに立っています。
〈以上〉


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