前略、お袋殿。

              風すぎて素肌の戦ぐ衣更え
              五月雨の雨音呑んでスクワッド
 元気でやっております。
 6月27でしたか。ラジオのニュースの時間に、どこかで聞いた憶えのある〈声〉が流れたので、「はてな?」と一瞬、耳をそばだてました。内田弁護士が、森田健作に対抗して参議員選東京区で立候補とのこと、もしやあの、われわれの裁判の、かっての弁護人を務めた内田雅敏弁護士!? 内田弁の記者会見での、ニュースで流れた「弁」の内容と、推薦人が田氏であることなどから推理して、おそらくそうなんだろうと納得しました。花岡支援グループがかんでいるな、と。でも、「内田」と名のつく、有名な弁護士は、他にもいると記憶していたので、翌日の新聞を見るまでは最終的断定は留保していたのですが、やはりまちがいありませんでしたね。写真に出ていたあの顔は、確かに「かっての弁護人」でした。
 さて、懲役の運動時間のことをすこし話してみましょうか。時間的にいって正味30分弱といったところですが、週に3回あります。現在、わが工場は、月曜と水曜が入浴日で、火・木・金が運動日です。実施の時間帯はその都度かわります。午前中の場合と午後の場合があります。
 二つの工場が一緒に実施します。先ず「作業やめ」の号令がかかります。そうすると皆、作業をやめて、工場内でいったん整列し点呼をとった上で、運動靴にはきかえて外に出ます。そこで再び工場の前で整列し、点呼をとった上で、運動場まで行進します。晴れの日はグランドですが、雨天の日は講堂へ、ということになります。
 グランドでは、先ず「回れ右」や「脱帽・礼」等の動作訓練があり、ラジオ体操実施の後自由行動となります。グランドの周囲には白線が引いてあり、それより外へは出てはいけないとされています。で、皆、どんなことをするかというと、ほぼ四つの群にグループ分けすることができます。一つは、ソフトボールをやるグループですね。一つは、グランドを走るジョギングのグループです。一つは、練筋グループです。もう一つは、なにもしない交談グループです。この私はどのグループに属していると思いますか。練筋グループです。グランドの一角に、鉄棒(パイプ)と古タイヤを組み合わせたサーキット・コーナーがあって、そこで腹筋や腕立てや背筋ができるようになっていて、そこで皆、それぞれ、思い思いにアスレチックするわけです。
 運動中の交談に関しては、場所が限定されています。藤の木がある藤棚がグランドの一角にありまして、その下のみ、とされています。ここに木のベンチがしつらえられてあり、そこで座っての交談のみが許可されているというわけです。
 これらの四つの群のメンバーは、ほぼ固定しているといっていいでしょう。但し、練筋とジョギングに関しては、両方やっている人もいますね。私もその一人ですが。その日の体調しだいで、練筋の時間とジョギングの時間の配分を変えて、やるわけです。
 グランドの点景としては、「サーキット・コーナー」と「藤棚」以外には、「兎小屋」と「鯉の池」と「シャワー・コーナー」があります。
 運動の終了の時は、五分前に、「五分前」の合図があり、この合図でソフトをやっていた人たちも、跡かたずけに入り、「練筋」派も「ジョギング」派も、皆、「藤棚」の下に集まってきて、ごっちゃになりながら、「やあ」「やあ」と声をかけあうということになります。「藤棚」の下は、いわば、懲役たちの「社交場」ですな。
 「二分前」の合図で、整列・点呼。そして隊列を組んで工場への帰還となります。
 講堂での運動は、動作訓練から入り、ラジオ体操なしで自由行動となります。ここでは、ほぼ六つの群に分かれます。一つは、球技グループです。「卓球」「バドミントン」等ができます。一つは練筋グループです。一つは、交談グループです。講堂内では窓際に敷かれた長い縁のマットの上のみが交談許可の場所です。一つは、囲碁・将棋グループです。一つは、テレビ視聴グループです。一つは、新聞閲覧グループです。私は、といえば、先ず練筋をやり、余った時間は新聞閲覧に使います。テレビは、大型画面のテレビが一台備えつけてあり、その前にスチールの長イスが並べられたコーナーがしつらえられてあります。新聞閲覧のテーブルとイス、囲碁・将棋のテーブルとイスも、それぞれ、別仕立てにしつらえられてあります。
 以上の記述から、「懲役たちの運動時間」―すこしはイメージできたでしょうか。
 6月30日(移監記念日)も、今年で五回目ですか。五年がすぎたということですね。                         1992年6月28日
               芳正拝


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