前略、お袋殿。

『脳内革命』でも、盛んに言われているんですが、「プラス思考」とはどういうことか。これが、実は、なんとなく分かるようで、具体的にどうすることかと考えてみると、ちょっとつかみどころがない。
別の言い方では、「自分に起こることは全てベストと思え」とも言われています。もともと、自分にとって都合のいいこと、喜ばしいこと、楽しいこと、嬉しいこと、つまりプラス価値のことなら、敢えて、これを、ことさらベストと思う必要もないわけですね。問題は、もともとは、自分にとって都合の悪いこと、悲しいこと、いやなこと、苦しいこと、つまりマイナス価値の出来事、――こういった出来事は、心労的ストレスとなり、それが重なると病態として現われもします。寿命を縮めることにもなります。
では、どうしたら、こういったマイナス価値の出来事を、自分にとってベストだと思えるようになるのか。どうしたら、マイナス価値の出来事をプラス価値の出来事に転化し得るのか。そのためには、どういう思考回路を整えればいいのか、ということです。一つは、出来事のマイナス的性格はいかんともしがたいが、これを一つの試練として、自分が、さらに精神的に成長するための試金石に転ずるというような思考方法で、積極的、前向きに受けとめる――ということが考えられます。一つは、出来事のマイナス的性格それ自体を否定して、プラス的性格に解釈し直すという思考方法です。つまり自分にとってのプラス面が引き出せるようなところへ視点を移動させる、あるいは、そういう方向に、自分の価値観をつくりかえてしまうという方法です。一つは、どんな最悪の事態に対しても、深刻に考えず、人生〈苦〉がありゃ〈楽〉もあるといった楽天主義で、目をつねに未来へ、前へと向けていく思考方法です。
すごしやすい季節となりました。体調良好。独り沈思する48才の秋。
                    1996.9.16 識
                    芳正拝


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