鑑 定 意 見 書

  大避寺将司、益永利明に対する爆発物取締罰則違反等再審請求事件につき、
1987年10月1日、弁護人庄司宏から鑑定意見を嘱託されたので、次のとお
り鑑定意見を述べる。

1988年7月1日

              東京都立大学工学部
               助教授 湯浅欽史


目次
1、嘱託された鑑定項目
2、鑑定意見を述べるために行った実験とその結果
(1)木炭と砂糖を比較するための燃焼実験
(2)塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムを比較するための燃焼実験
(3)ロウソク(パラフィン)の燃焼実験
(4)固形状セジットSの燃焼実験
(5)粒状セジットSの燃焼実験
(6)固形状セジットSと白色火薬を層にしたものの燃焼実験
(7)粒状セジットSと白色火薬を混合したものの燃焼実験
3、実験結果の考察
(1)木炭と砂糖の比較
(2)塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムの比較
(3)パラフィンの燃焼について
(4)固形状セジットSの燃焼について
(5)粒状セジットSの燃焼について
(6)固形状セジットSと白色火薬を屑にしたもの
(7)粒状セジットSと白色火薬を混合したもの
4、実験事実と文献に基づく鑑定意見
5、付録資料
(1)セジットに関する文献(原文と訳)
(2)実験経過の写真帳
(3)実験経過のピデオフィルム

                 2

1、嘱託された鑑定意見

(1)可燃剤としての木炭と砂糖の比較
(2)燃焼剤としての塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムの比較
(3)セジットSの燃焼性状について
(4)白色火薬が存在するときのセジットSの燃焼性状について


                 3

1、鑑定意見を述べるために行った実験とその結果

(1)木炭と砂糖を比較するための燃焼実験

 〔その1〕木炭粉末と砂糖(上白糖)の燃焼速度等を比較するために、次の要
領で実験を行った。
@木炭粉末と砂糖に、同一の酸素化合物として塩素酸カリウムを混合したものを
製造した。
(a)木炭粉末―1.0グラム、塩素酸カリウム―4.0グラムを混合したもの
(b)砂糖―1.0グラム、塩素酸カリウム―4.0グラムを混合したもの
A(a)(b)それぞれを、木製の台に掘られたU字の溝に平均して詰め、ガスライター
で一方から着火し、発火してから燃焼が終了するまでの時間をストップウオッチ
で計測した。U字溝に詰められた(a)(b)の長さはそれぞれ34センチメートルであ
った。燃焼の状態はスチール写真とビデオで撮影した。〔図1参照〕
B燃焼は次の通りであった。
 (a)木炭粉末と塩素酸カリウム……発火してから燃焼終了まで39.6秒。なお
発火までかなりの時間を要した。炎の色は赤色系であった。
 (b)砂糖と塩素酸カリウム……発火してから燃焼終了まで5.6秒。炎の色は白
色系であった。


                  4

      図1

〔その2〕木炭粉末の条件によって燃焼が大きく異なるために、木炭粉末の様態
を変えて再度の実験を試みた。
@は実験〔その1〕と同様。ただし、条件を次のように変えてみた。
 木炭粉末を着火しない程度に乾燥炉で加熱し水分を取り除き、乳鉢の中で乳棒
を使用してさらに微粉末化した。
 薬量を2倍にした。
 (a)木炭微粉末―2.0グラム、塩素酸カリウム―8.0グラムを混合したもの
 (b)砂糖―2.0グラム、塩素酸カリウム―8.0グラムを混合したもの
Aは実験〔その1〕と同様。ただし、条件を次のように変えてみた。
 木製台の2本の手製U字溝に差異が見られる可能性があるため、市販のアルミ
製のV字溝に変えた。[図2参照」(a)(b)の長さはそれぞれ28センチメートルで
あった。
B燃焼は次の通りであった。

                  5

 (a)木炭微粉末と塩素酸カリウム……発火してから燃焼終了まで12.5秒。炎
の色は赤色系であった。
 (b)砂糖と塩素酸カリウム……発火してから燃焼終了まで5.5秒。炎の色は白
色系であった。

        図2
 (2)塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムを比較するための燃焼実験

 塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムの燃焼速度等を比較するために、次の要領
で実験を行った(*塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムの分子量は、それぞれ約
122と106であるから、同重量では後者の酸素発生量の方が15パーセント
程度多いことになる)。
@塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムに同一の燃焼剤として砂糖を混合したもの
を製造した。
(a)砂糖―2.0グラム、塩素酸カリウム―8.0グラムを混合したもの

                 6

 (b)砂糖―2.0グラム、塩素酸ナトリウム―8.0グラムを混合したもの
A(a)(b)それぞれをアルミ製のV字溝に平均して詰めた。ただし、(a)は溝の上部ま
で一杯に詰めたが、(b)は比重が大きく薬量が少ないため、(a)の長さに合わせると
上部に空間かできる(薬の高さか低くなっている)。これにガスライターで一方
から着火し、発火してから燃焼が終了するまでの時間をストップウオッチで計測
した。V字溝に詰められた(a)(b)の長さはそれぞれ33センチメートルであった。
燃焼の状態はスチール写真とビデオで撮影した(撮影は以下も同様に行う)。
B燃焼は次の通りであった。
 (a)砂糖と塩素酸カリウム……発火してから燃焼終了まで11.4秒。炎の色は
白色系であった。
 (b)砂糖と塩素酸ナトリウム……発火してから燃焼終了まで11.4秒。炎の色
は赤色系であった。


 (3)ロウソク(パラフィン)の燃焼実験

 ロウソクとパラフィンが燃焼しうるための条件を確かめるために、次の要領で
実験を行った。
@ロウソクにガスバーナーの炎を当てて、着火を試みる。[図3参照]ロウソク
はただ溶ける(融解する)だけで、燃焼に至らない。
A脱脂綿を棒状にしたものに融解したパラフィンを浸透させ、これにガスパーナ
一の炎を当てて、着火を試みる。脱脂綿を中に入れたものは、燃焼する。また、
ガスバーナーの炎を離しても燃え続ける。[図4参照]

                  7

        図3             図4
(4)固形状セジットSの燃焼実験

@塩素酸ナトリウム―90パーセント、パラフィン―7パーセント、ワセリン―
3パーセントを混合したものを「セジットS」とする。このセジットSを固形状
にしたものを製造した。
A製造方法は、パラフィンとワセリンを湯煎して溶かし、80℃の温度の時にお
ろし、乳鉢で微粉とした塩素酸ナトリウムを入れて木ベラで撹拌する。製造量は
計100グラム。
Aやや冷めてから円形のプラスチックケースの中に入れ、圧してから十分に冷ま

                 8

す。ケースの外側を温めてセジットSを取り出す。固形状に成形したセジットS
の質量は15.5グラム、大きさは直径26ミリメートル、厚さ10ミリメート
ル。[図5参照」体積約5.3立方センチメートル、密度約2.9g/cm3。
B石綿の上に乗せ、ガスバーナーで着火したところ……発火するまで128.3
秒。発火してから燃焼終了まで22秒。[図6参照」

                図5           図6
(5)粒状セジットSの燃焼実験

@セジットSの混合比率は(4)と同様。
AセジットSを金綱(0.46ミリメートル目、0.18ミリメートル線―金綱
の線と線の間の空間の長さと、線の太さを示したもの)にこすり付ける。[図7
参照〕
BAの金網を4枚重ねる。

                 9

C薬量は不明である。
D石綿の上に乗せずに、直接ガスバーナーで着火したところ……発火するまで1
3秒。発火してから燃焼終了まで3.6秒。[図8参照]

            図7             図8

(6)固形状セジットSと白色火薬を層にしたものの実験

@陶製の坩堝(るつぽ)にセジットS―6グラムを詰め(面形状)、その上に白
色火薬=オージャンドル(砂糖―25パーセント、黄血塩―25パーセント、塩
素酸カリウム―50パーセント)―2グラムを入れる。[図9参照]
Aガスライターで着火したところ……自色火薬=オージャンドルは瞬時(測定不
能)に燃焼終了し、セジットSは上部が少し溶けただけで燃え残った。[図10参
照〕

               10

              図9             図10

(7)粒状セジットSと白色火薬を混合したものの燃焼実験
@坩堝にセジットSの粒状のもの―4グラム、自色火薬=オージャンドル―4グ
ラムを混合したものを入れる。[図11参照]
Aガスライターで着火したところ……瞬時(測定不能)に燃焼した。火柱が2メ
ートルも立ちのぽった。

      図11

               11

3、実験結果の考察
 (1)木炭と砂糖の比較
@実験では〔その1〕に先がけて、〔その1〕と同様なものをアルミ製のV字溝
で燃焼させようとしたが、木炭粉末と塩素酸カリウムを混合したものはなかなか
発火せず、しかも燃焼しても途中で消火してしまった。これは金属製の溝が燃焼
熱を伝導によって奪い、燃焼の継続を不可能にした結果と考えられたため、溝を
木製のものに変更することとした。
 しかし、木製の溝に入れても木炭粉末と塩素酸カリウムの混合物はなかなか発
火せず、砂糖と塩素酸カリウムの混合物より燃焼速度はかなり遅かった。
 これは、木炭粉末の状態が燃焼に大きな影響を及ぼすためである。すなわち、
燃焼しやすいかどうかは、木炭粉末の粒の大きさ(どの程度まで粉末化されてい
るか)と、水分の含有量に左右される。一般に燃焼物は粒の大きさが小さいほど
燃えやすく、また燃焼速度も速くなる。一定の条件では粒の大きさが大きすぎる
と発火、燃焼に至らないこともある。
A〔その2〕では、〔その1〕で使用した木炭粉末を加熱し、水分を取り除いた。
木炭はその性質上から、内部面積が大きく*、水分を吸着しやすい。
木炭粉末を乳鉢に入れて、さらに乳棒で擦りつぶし、微粉末化した。砂糖との
比較を定量的に行うためには、擦りつぶした砂糖の粒径と同様のものを得る必要
があるが、砂糖の粒径の測定が困難なことから、ここでは木炭粉末の方を砂糖と
比べても細かくなるほど(目測での比較)微粉末化してみた。
 この木炭微粉末と塩素酸カリウムの混合物、砂糖と塩素酸カリウムの混合物

                 12
でも、「砂糖」の方が燃焼速度が速いことがわかった。
*「木炭の組織は、木材細胞のかたまりであるだけに、その内部面積はすこぷる
広く、一グラム当り二○○〜四○○平方メートルもある」(岸本定吉著『木炭の
博物誌』総合化学出版より)
B木製の溝では、手製のために溝の状態に差異が存在する可能性があるため、市
販のアルミ製のものを使用した。
Cこれら実験以前に、木炭と砂糖を同一燃焼剤に混合して燃焼実験を試みた実験
者の経験から、木炭と砂糖は粒径が同一程度であれば、その燃焼速度にほとんど
差異はないことがわかっている。なお、すでに述べたように、燃焼速度の差異は、
粒径や吸湿の状態に大きくかかわっている。


(2)塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムの比較

@塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムを、同一の可燃剤である砂糖と混合して燃
焼した結果では、発火から燃焼までの時間は同一だった。着火を試みてから発火
するまでの時間の差は、ガスライターで実験者が着火する方法を採ったため、加
熱条件か異なったためと思われる。
 ただし、着火しやすさについても、実験者のこれまでの同様な燃焼実験の経験
から、塩素酸カリウムと塩素酸ナトリウムにはほとんど差異かないといえる。
 また、発生した炎の色の違いは、カリウムとナトリウムの炎色反応の差による

                 13

ものと思われる。一般的にカリウムは紫系の自色、ナトリウムは黄系の赤色。




(3)パラフィンの燃焼について

@ロウソク、パラフィンは気化しないと燃焼しないということは、実験を試みる
までもなく、周知の事実である。あえて、この実験を試みたのは、ロウソクとパ
ラフィンの燃焼の状態がセジットSと類似しているからである。
Aパラフィンとワセリンは、いわゆる石油ワックスである。パラフィン・ワック
スは、構造の簡単な炭素数20から36の直鎖飽和炭化水素を主成分とし、少量
の側鎖状飽和炭化水素などを含んだ物質である。簡単にいえぱ、石油を原料に作
られたロウと考えればよい。ワセリンは、石油系の固体と油の混合物で、形状は
パラフィンと異なりゼリー状になっているが、燃焼物として見た場合には、パラ
フィンと同様の物質と考えてよい。ワセリンをセジットSに配合するのは、セジ
ットSに可塑性を与えるためである。ロウソクは、バラフィン・ワックスを主原
料にし、少量のステアリン酸を混入してあるが、燃焼物として見た場合には、パ
ラフィンと同様の物質と考えてよい。
 ロウに火を近付けても固体のままでは燃えないことは、経験的に知られている。
ロウの燃焼は、ロウが与えられた熱によって温度が上昇し、やがて融解して固体
から液体になり、さらに熱によって蒸発し気体に変化して、初めて可能になる。
ロウソクはこのロウを燃えやすくした燃料である。固体のロウは燃えないが、ロ
ウソクのように芯を付けることによって、芯の近くのロウが溶けて液体となり、
それが少しずつ毛細管現象によって芯を上がり、さらに燃焼熱で少量ずつ気体に
されて発火し燃えるのである。ちなみに小学六年理科の学習参考書(『小学六年
理科』教学研究社より)を見ると、次のように税明してある。

                14

「ろうそくのほのおは、熱で分解されたろうが気体になって燃えている」
「ろうに直接火をつけても燃えない」
「ろうは、しんがなくても気体にすると燃えることがわかる」
B脱脂綿にパラフィンやロウを滲み込ませたものは、ロウソクの芯が無数にでき
たものに等しくなる。だから、これはよく燃えるのである。一度発火すれぱ、着
火のガスバーナーの炎を遠ざけても燃焼は持続する。自らが燃えることによって
発生させる熱によって、次々とロウを溶かし、気化させて、その気体が燃えるの
である。
Cロウソクの炎は小さなもので、時間当たりに発生する熱量は少ない。しかし、
一本のロウソクは中型程度のものでも3〜5時間も燃え続けることができる。だ
から、何らかの方法でロウを一気に燃焼させると、大きな熱量を発生させること
ができる。
Eロウソクやパラフィンの燃焼は、基本的に木炭や砂糖の燃焼と異なっている。
木炭や砂糖は表面燃焼であるから、その燃焼は固体の表面から起こり、内部へ伝
わる。ところが、ロウソクやパラフィンでは、固体または液体の表面から燃焼が
起こらず、蒸発燃焼という形態をとるため、燃焼するには気化させるための熱が
必要になる。さらに燃焼形態を厳密に分類するなら、木炭や砂糖は「真の表面燃
焼」(「界面燃焼」あるいは「表面燃焼」の中の「真の表面燃焼」と呼ぱれる)
であり、ロウソクやパラフィンは「蒸発燃焼」(「界面燃焼」あるいは「表面燃
焼」の中の「蒸発燃焼」)となる(千谷利三著『燃焼と爆発』槙書店より)。
 実験でわかるように、空中に置かれたロウソクの場合には、熱によってロウが
溶けるが、それは溶けて下に雫となって垂れてしまい、一部が炎の中で気体とな
り燃えるだけで、固体の表面に燃焼は発生しない。ましてや、マッチやガスライ
ターのような小さな炎が短時間近付けられた場合には、溶けたロウは隣接部分に
移動し、冷えて固まるだけで、熱は伝導によって奪われるだけである。「ろうに

                15

直接火をつけても燃えない」とは、このことをいっている。
Eだが、ロウソクを空中ではなく、缶の中に入れて熱した場合には様相を異にす
る。熱によってロウは溶けて、やがて気体を発生し、そこに火が着くなら燃える
ことができる。ロウを石綿の上に置いて、ガスバーナーで着火した場合も、ロウ
は溶けて、そして気化してから燃える。
 このことから、上の「ろうに直接火をつけても燃えない」というのは、厳密に
いうなら正しくない。ロウの燃焼の原理からいうなら、与えられたロウを気化さ
せるに十分な熱が加えられるなら、すなわちロウに対して相対的に強力な火であ
れば、直接火をつけても燃えることができる。また、その熱が相当に高いものな
ら、ロウは一気に燃えることができる。たとえば、固体状態のロウを焚火の中に
投げ入れれば、大きな炎を出して燃え上がる。



(4)固形状セジットSの燃焼について

@「固形状セジットS」なるものは、実際には存在しない。セジットSはそもそ
も粉状の火薬であり、固形状にしてしまっては燃焼することがほぼ不可能である
から、固形状セジットSというのは、そもそも矛盾を含んだ表現である。十分に
粉状でない、いわば粒状の場合には燃焼しにくいが、条件によっては燃焼させる
ことができる。
 ロウソク、バラフィンが開放空間において熱を得ても、その熱でただちに発火
することができない理由は上記(3)に示した通りである。
A内部に酸素源である塩素酸ナトリウムを含んだセジットSであっても、その燃
焼の機能は同一である。固形状セジットSは、着火しても固体のままでは発火し
ないし燃焼しない。与えられた熱はセジットSのバラフィン、ワセリンを融解し

                16

ていき、石綿上に溜まっていく。熱が持続的に加わるなら、それが完全に融解し
液体になった後、次に与えられた熱によって気化するため、発火し、燃焼する。
一度燃焼が起こると、それ自身の燃焼によって生まれる熱も加わり、急速に燃焼
は進んでいく。
 しかし、固形状セジットSを「ロウソク、パラフィンの燃焼実験」の〔図3]
のように、石綿上に乗せずに直接に炎を当てても、気体になる前に溶けたパラフ
ィンとワセリンが垂れてしまうため、発火し燃焼することはない(ただし、垂れ
たものが炎の中で気化し、発火することはある)。


(5)粒状セジットSの燃焼について

@金網にセジットSをこすり付けたのは、金綱の目の中にセジットSが付着する
状態が、セジットSを粒状ないし粉状にしたものに似た形状だからである。ちょ
うど脱脂綿にパラフィンを滲み込ませたものが、多数の芯を持ったロウソク(芯
を付けることによって小部分から気化して燃焼する)を想定できるように、金綱
に付着したセジットSも、小部分が(小さいセジットSひとつひとつ)気化すれ
ば燃焼が起こるということになる。
 ただし、パラフィンは粒状になっても、木炭や砂糖のように表面から燃焼しな
いため、発火しにくいという性質はここでもわかる。


(6)固形状セジットSと白色火薬を層にしたもの

@白色火薬、とりわけこの実験で使用したオージャンドルは、その一部に発火する

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と急速に燃焼する.その白色火薬の発生する熱ないしは火炎によって、固形状セ
ジットSを燃焼させることができないかを試みた。しかし、この実験に見るかぎ
り、点火剤として白色火薬を使用しても固形状セジットSを燃焼に至らせること
はできなかった。
 ただし、ロウソクとパラフィンの燃焼の原理からいうなら、それを融解させ、
さらに気化させるに足る十分な熱が与えられるならば、固形状セジットSを白色
火薬によって燃焼させることは不可能ではない。ただし、この実験の場合でも、
オージャンドルという燃焼速度の速い、高性能の白色火薬を固形状セジットSの
3分の1も使用しながら、固形状セジットSの一部を溶かすにしか至らなかった。
固形状セジットSを完全に燃焼に至らしめるためには、相当量の白色火薬が必要
と考えられる。しかし、だとすると、固形状セジットSとは単独ではまったく燃
焼、爆発しないもの考えるべきであって、火薬・爆薬として使用するには適切な
条件が与えられなければならない。


(7)粒状セジットSと白色火薬を混合したもの

@固形状では燃えにくいセジットSだが、それを粒状に変えてみたらどうであろ
うか。(5)の実験では、発火しにくいものの、固形状セジットSと比較してより容
易に燃焼することがわかった。では、発火しにくい粒状セジットSと発火しやす
い白色火薬、ここではオージャンドルが混合した場合には、瞬間的に効率よく燃
焼する。ガスライターの炎は上方何に向いてしまうため、炎の接近から発火まで
には多少の時間がかかったが、より効率的な着火方法を採れば、発火も瞬時に起
こるものと思われる。
 実験時の観察によれば、この粒状セジットSとオージャンドルの混合火薬は、

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木炭・砂糖と塩素酸カリウム・塩素酸ナトリウムを混合した火薬と比較して、燃
焼速度がきわめて速いばかりか、炎の上がり方も激しく、発生する熱エネルギー
もかなり大きいものである。また、オージャンドルを単独で燃焼させると、燃焼
速度は速いが、炎の上がり方は大きいものではない。ただし、燃焼速度の定量的
比較は、追実験によらねばならない。
 オージャンドルとセジットSがよく混合することによって、オージャンドルと
セジットSのそれぞれの燃焼速度の平均値が現れたのではなく、オージャンドル
の特徴である燃焼速度の速さがそのまま現れ、セジットSの石油ワックスの持つ
熱エネルギーがそのまま現れたという印象が強い。
 この混合火薬は火が直接近付かないかぎり危険はなく、ワックスで塩素酸ナト
リウムが覆われているため、振動や衝撃に対する感度が低められ、また吸湿にも
抵抗でき、安定性のある火薬であるといえる。そして、少量であっても瞬間的に
発生する熱量が大きいため、接近して他の火薬が存在した場合には、その火薬を
も効率よく燃焼させることが可能となる。
 ただし、これはセジットSとオージャンドルの混合火薬であり、単独のセジッ
トSをさすものではない。しかし、上のように、この混合火薬に接近してセジッ
トSが粉状ないしは粒状で存在する場合には、セジットSもまた急速に燃焼する
であろうことは十分に推測できるものである。




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4、実験事実と文献に基づく鑑定意見


 (1)木炭の燃焼は、粒径や吸湿状態によって左右されるが、適切に粉末化さ
れ吸湿していない木炭と比較した場合、砂糖はそれと同程度の燃焼性状を示すと
いえる.
 (2)木炭および砂糖を可燃剤とした場合、燃焼剤としての塩素酸ナトリウム
の性能は、塩素酸カリウムと同程度である。
 (3)セジットSの燃焼性状については、次のことがいえる。
@ロウソク(パラフィン)は気化しないと燃焼しない。
A粉末状の燃焼剤がパラフィンで被覆されているので、パラフィンが気化するま
では固形状セジットSも燃焼しない。
G粒状セジットSは固形状セジットSに比較して、気化しやすいので、燃焼もし
やすい。
 (4)白色火薬とセジットSとの燃焼性状については、次のことがいえる。
@固形状セジットSと白色火薬を層にした場合、白色火薬の燃焼熱がセジットS
のパラフィンを気化させるに十分でないと、セジットSは燃焼しない。
A粒状セジットSと白色火薬を混合した場合は、白色火薬の燃焼にともなってセ
ジットSも同時に燃焼することができる。





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鑑定付録


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